僕の日常
朝の健康観察。毎日紡がれる言葉はだんだんと音に意味を乗せなくなってくる。前の学校では出席確認のために「はい」とだけ答えれば良かったことを考えると少し面倒だ。
「渡辺悠人くーん。」
担任の塩谷雪先生が最後の1人、僕の名前を呼ぶ。
「ハイゲンキデス。」
感情の籠らない声。それでも31人分の名前を呼び終えた先生はにっこり笑って健康観察簿に記しをつけていた。
「よし、全員元気ね。それじゃあ宿題係さん、算プリと漢字ノート、音読カードを集めてください!」
先生の声にハッとする。
(やばい、音読カードどうしよう)
朝ともくんに話した通り、今日は音読カードを書いていない。
係の子にとりあえず算数プリントと漢字ノートを手渡すと案の定、
「あれ、音読カードは?」
と聞かれる。
「あはは、忘れちゃって。カードは持ってるんだけど。自分で書いたらバレるかなぁ。」
美晴の字を僕は真似できるだろうか。いや、無理だ。美晴が書く丸はコンパスで書いたように滑らかで、保護者のサイン欄に書かれるexcellentやgoodは筆記体なのに読みやすく、美しい。
「悠人くんのお母さん、字綺麗だからね〜。バレちゃうかも。素直に昼休みに音読したら?」
それだけ言うと、宿題係の美香ちゃんは先生の方へ提出しに行ってしまった。
そう、音読カードをどうしても提出したい理由は昼休みにある。
雪先生は音読をとても大事にしていて、忘れた児童は昼休みに教室に残り、先生の前で音読をしなければならないのだ。
悠人は小さいため息を吐くと、朝の会が終わったら謝りにいこうと心の中で呟いた。
そうこうしているうちに、全ての班が宿題を提出し終えたのか席を立っている生徒は1人もおらず、先生が今日の連絡を説明し始めていた。
また、学校の近くに露出狂が出たとか、来週の木曜日は漢字テストをするとか、昨日までとほとんど変わらない内容だ。
「最後に、新しいお知らせです。帰りの会でも言うけど、今日2者面談のお手紙を配ります。お家の方に渡して、来週の金曜日までに提出してください。」
「せんせーい!2者面談ってなんですかー?」
すかさず聞き返したのはともくんだ。
「来月の最初の方にお家の方と先生でお話しするのよ。みんなは普段いい子かなーとか、何が好きなのかなーとか。」
僕は思わずどきり、とした。
(二者面談かぁ。)
忙しい美晴は、きっと嫌だろう。それでも、僕の為にお仕事調整してくれるのだろう。何もできない小学生の自分がとても嫌だ。いつも感じるもやもやが大きくなっていく。
僕がこの気持ちから抜け出したのは、ともくんに声をかけられた後だった。教室はザワザワしていて、先生はとっくにいなかった。
悠人くんの朝の会です。主人公のフルネームやっと出せました!
基本的に悠人くんは友達に下の名前で呼ばれています。
小学校生活を描く上で、自分の小学校はどんなだったかな?と考えたのですが、なかなか覚えていませんね。
学校ごとに独自の習慣?とか、あると思うので、その点については出来るだけ読者に伝わるように書きたいです。