お嬢様とハンバーガー
初めまして。私の名前は向井と申します。
私は平凡な男子高校生一年生なのですが、一生懸けても遂げたい夢がありまして、それには世間知らずのお嬢様が必要です。
正直そんな都合のいい人は居ないかと思われましたが、なんと銀行の頭取の娘だという武蔵小金井さんという人が私のクラスにおりまして、今日は私の夢実現のためにハンバーガーショップに武蔵小金井さんをお招きしました。
只今、向かい合う形で同じテーブルの席に座っています。
「庶民の分際で高貴な私をこんな小汚い店に連れて来るなんて、アナタ本当にいい度胸ね。」
「いやぁ、すいませんねぇ。すぐに済みますから。」
「ふん、しょうもない用事なら許しませんからね。」
...相変わらず威圧的な人だな、出来れば優しい感じの天然系が良かったけど、顔が美人だから及第点だな。
と、ここであらかじめ頼んでおいたハンバーガーセットとシェイク(自分が飲む用)が愛想の良い店員さんによって僕らのテーブルに届けられました。
「僕の奢りです。どうぞお食べください。」
「まさかコレを食べさせる為に私をココに連れて来たんじゃ...。」
「そうですよ。」
コレを言った時、僕は曇りなき眼をしてたと思います。
アニメとかで、御嬢様キャラがハンバーガーとかのジャンクフードを食べる回が大好きでして、現実でもそれを見てみたいと、かねてより考えていました。
今こそ夢を実現させる時、さぁ御嬢様、お食べ遊ばせ。
「...全く意味は判りませんけど、仕方ないから食べて差し上げますわ。」
武蔵小金井さんは慣れない手付きでハンバーガーの包装を解いてハンバーガーを一口頬張りました。
ようやく夢が叶ったと僕のテンションは最高潮に成りましたが...皆さん知ってました?現実って本当に厳しいんです。
「パンはパサパサ、肉も明らかな程度の低い物、ハッキリ言って不味過ぎますわ。こんな物を庶民は食べてますの?」
某グルメアニメの美食家並の酷評。そこには僕の見たかった御嬢様の笑顔なんて微塵も見られませんでした。
「ポテトも塩加減が滅茶苦茶で、塩辛かったり味が無かったり...全然ダメね。」
...もうやめてくれ。
「ナゲットは...うわっ!!生の部分があるわよ。責任者を呼びなさい!!」
「いい加減にしろ!!」
僕は怒鳴ると共に机をダンッと両手で叩いた。
「ひぃっ!!」
普段怒鳴られた事の無い武蔵小金井さんは怯えましたが、僕も怒髪天突いちゃってるんで、構わず畳み掛けました。
「御嬢様がハンバーガー食べたら『美味しいですわ♪こんなの食べたこと無いですわ♪』とか『ハンバーガー食べるの夢だったんですの♪感激です♪』とかだろうが!!それをクレーマーみたいにあれもダメ、これもダメなんて言いやがって...ふざけんな!!」
僕は怒りに任せてそう怒鳴りましたが、ここは冷静になるべきでした。
「ひっく、ひっく、あんまりですわ。」
武蔵小金井さんが泣いてしまいました...参ったな。
「ひっく、こんな不味い物を食べさせられて怒鳴られるなんて、惨めです、屈辱です、うわぁぁぁぁぁぁん!!パパ!!ママ!!セバス!!誰か目の前の男を社会的に抹殺してぇ!!」
こいつはヤバい!!高校生にして僕は社会的に抹殺される!!謝ろう!!
「すいませんでした!!調子に乗りました!!」
僕は最高速度で地べたに土下座しました。これで許されるのでしょうか?
「きゃは♪」
うわぁ満面の笑み...土下座を見て笑顔になるとか人間性を疑います。
すっかり機嫌を良くした武蔵小金井さんは僕の飲んでいないシェイクを奪って飲み始め「これは中々いけますわね」とか言い出した。
全然予想外なことになったハンバーガー騒動でしたが、まぁ結果的に御嬢様の可愛い笑顔が見れたので良しとしますか。