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「もぅ、辞めろこんな店」
「なっ!?」
私の首筋に彰宏の手が触れ、真剣な目が私の目を捉え、心をも捉える。
本当の人の暖かさが肌を伝う。けれどいつかの勝手と同じように、私を否定する言葉を綴る。
「もう、えぇやん、もう、着飾んなや」
「煩い! またそんな勝手言いに来たの!? 私はここで綺麗になって」
「わかった! ほんなら俺がお前を綺麗にしたる!」
「ちょっと!?」
軽々私を抱き上げた彰宏は、オーナーへ二言三言何か話すと、さっさと店を出た。
ネオン広がる兎我野の街をそのまま走り、当たり前だが沢山の視線を集める。
一気に大通りまで来ると、路駐していた黒塗りの車へ私を押し込み、さっさと車を出すように話す。
無言でハンドルを握る男もまた、彰宏に何か言いかけて、溜息と共に車を発進させた。
長い長い道のりをひたすら走る車。
車内は一切の会話も無く、ただただ静かな空気が纒わり付くように、気持ちを締め付ける。
私はあの店で、綺麗になって生まれ変わりたいだけなのに。
あの男が言うことが本当ならば、私は今日、みんなのように素敵な女になれる一歩が進めたのに。
沢山の悔しさと、歯痒さに、また拳を握りしめた時、また私の頭を大きな手が撫でた。
その手が暖かくて、優しくて、私はまた何故か、声に出して泣いた。
恥ずかしさも何もかも忘れて、泣いた。
いつまでも撫でてくれる彰宏の手を頭に乗せたまま、わんわんと、子供のように泣いた。
わかってる。
わかってた。
こんな事で綺麗になれる訳が無いことも。
ただの強がりな事も。
周りがどんどん綺麗になって行くことに、焦りだけが私を支配して、美しいと思うものが、私にとって怒りに変わってしまって、汚い妬ましさに変わってしまっていたことも。