表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

4-1


「もぅ、辞めろこんな店」

「なっ!?」


 私の首筋に彰宏の手が触れ、真剣な目が私の目を捉え、心をも捉える。

 本当の人の暖かさが肌を伝う。けれどいつかの勝手と同じように、私を否定する言葉を綴る。


「もう、えぇやん、もう、着飾んなや」

「煩い! またそんな勝手言いに来たの!? 私はここで綺麗になって」

「わかった! ほんなら俺がお前を綺麗にしたる!」

「ちょっと!?」


 軽々私を抱き上げた彰宏は、オーナーへ二言三言何か話すと、さっさと店を出た。

 ネオン広がる兎我野の街をそのまま走り、当たり前だが沢山の視線を集める。

 一気に大通りまで来ると、路駐していた黒塗りの車へ私を押し込み、さっさと車を出すように話す。

 無言でハンドルを握る男もまた、彰宏に何か言いかけて、溜息と共に車を発進させた。


 長い長い道のりをひたすら走る車。

 車内は一切の会話も無く、ただただ静かな空気が纒わり付くように、気持ちを締め付ける。


 私はあの店で、綺麗になって生まれ変わりたいだけなのに。

 あの男が言うことが本当ならば、私は今日、みんなのように素敵な女になれる一歩が進めたのに。


 沢山の悔しさと、歯痒さに、また拳を握りしめた時、また私の頭を大きな手が撫でた。

 その手が暖かくて、優しくて、私はまた何故か、声に出して泣いた。


 恥ずかしさも何もかも忘れて、泣いた。


 いつまでも撫でてくれる彰宏の手を頭に乗せたまま、わんわんと、子供のように泣いた。


 わかってる。

 わかってた。


 こんな事で綺麗になれる訳が無いことも。

 ただの強がりな事も。

 周りがどんどん綺麗になって行くことに、焦りだけが私を支配して、美しいと思うものが、私にとって怒りに変わってしまって、汚い妬ましさに変わってしまっていたことも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ