3-2
「初めまして、愛来です。本日はご指名ありがとうございます」
「堅苦しいのは良いから、おいでおいで」
男は感情の読み取れない笑顔向ける。
皺一つ無い高そうなスーツに身を包む男は、場違いな程に整った顔をしていて、長い腕を広げ、私を呼ぶ。
言葉と行動に頷き、私は腕の中に収まった。
筋肉質らしい胸が固く、熱い。
短く刈り上げられた髪から、整髪料の香りが漂う。
「何でもしてくれるんやって?」
「何でも?」
私を包み込んだまま、男は私を見下ろす。
それが男の素なのか分からない、ただ本当に、その笑みから感情が読み取れないから、一層作られた私を演じて行く。
吐き気がするような自分自身に鞭を打ち、更に笑いかけると、男は私を押し倒した。
「ねぇ、滅茶苦茶にしていい?」
「どう言う……」
言い終わるより早く、男は私の服を破いた。
露になる下着を気にもせず、男は手を差し込む。
「痛い」
乱暴な手つきが、私の体を這って行く。
熱い吐息が肌を撫で、求めてもいない温かさが身体の中を貫く。
「コスプレした方が、気分乗るんか?」
「え?」
ニヤリと口端をあげた男は、長い腕を伸ばし、鞄の中から幾つかの布を取り出す。
それは私をいつも指名して来てくれる、サトシが私に着せた服と同じ物。
ばさりと私の横へそれを投げ捨てると、男は一度私から離れた。
「お前くらいなんやってな、何でも言うこと聞いてヤッテくれる女」
「え?」
「あの人、俺の兄貴分やねん。色んな女相手しては弟達に遊ばしてくれるねん、えぇ兄貴やろ?」
「……よく分からない」
一体この男は何を言っているのだろうか。
兄貴分? あの変態オヤジが?
遊ばせてくれる? 何の話?
「俺さ、女経験無いねん。けどこれから先必要になるからな、何とかしなあかんって、兄貴がお前貸したるって、だから来たんや」
「どう言う……」
「綺麗な女になりたいんやろ? 綺麗な女は俺みたいな良い男を沢山相手にしてるんやで? だからこそ女を磨いて、美しくなるんや」
「本当に?」
「そうそう、だから今日は一日、いや、暫く俺に従っとけ、ほんなら綺麗なれるから」
「分かった」
強引な気がした。
でも確かに、ナンバーワンで輝いてる女の子達は、いつも素敵な男を連れている。
毎日キラキラ輝いていて、自分には叶わない何かを手にしているようで、それが一体何なのか分からなくて、だからこそずっとモヤモヤしていたのに、なんだ、こんな事だったのか。
何処かに何かを忘れているような、そんな焦燥感が否めなかったけれど、それでも美しくなれる為ならば、何でもする。
だから、この相手を考えない強引な男の行為に、私は手を握ったり、歯を食いしばったり、何とかして耐えた。
本当にこんな事をいつもやってるのかな。
本当に、こんな事で綺麗になれるのかな。
本当に、こんな事で私は変われるのかな。
拒否る事も許さない男は、いつまでも自分の快楽を貪る。
身体中に男の匂いが染み付いて、自分の感情以上のそれに、私はとうとう吐き出した。
「ほぉ、そういうプレイ? 乗ってきたなー」
そんな所まで喜ぶ男、段々気持ちが悪くて恐怖の対象にしか見えない男を前に、私は泣いてしまった。
声は出なくても、ボロボロと流れる涙を、見せつける形になって、やっぱり男は喜んでいた。
「本間にお前、すげぇな、大金払った甲斐が有る」
磨り減り始める気持ちを他所に、私は男の思うように弄られ遊ばれて行く。
これを耐えれば、私は綺麗になれる。もう少し、もう少し。