3-1
あれから数日経って、数ヶ月経って、私は元の夜の蝶もどきに戻った。
相変わらずサトシは私を指名して遊びに来る。時々恥ずかしいコスプレを持参するのも変わらない。
「今日はね、ナースだよぉ」
「似合うかなぁ」
営業スマイルも板に付いて来た、と、思ってる。
相変わらず指名も増えないけれど、それでも休み無く出勤してるからこそ、知名度は上がっていた。
彰宏はあれから来なくなった。
そりゃそうよね。人の素性簡単にバラしといて、今更どんな顔で会いに来るというのよ。
でも寂しさは何処かにあった。
何もしないあの数時間は、私にとって安らぎであったのには間違いなかったし、何より “私” と言う人間になれていた気がする。
ダメだダメだ!!
何を甘えてる私。
仕事中だぞ。
自分の頬を思い切り叩き、待機場所で一人、次のお客を待った。
今日は休日だけあってそれなりに混んではいる。だけど、週末だからこそ、指名客が多く、あまり固定客を持っていない私には待機の多い日だ。
もちろん、指名待ちの間の前戯対応はあるけれど、それもほんの数分の事。
結局、待機ばかりだ。
『本日もご来店ありがとうございます!! ご指名ありがとうございます!! 七番愛来さん、お願いします!!』
ん? 指名?
突然だった。のんびりお茶でも飲もうとした時、不意に私の名前が呼ばれた。
と同時に、バタバタと人が走る音が近付き、現れたオーナーが嬉しそうに私の腕を引いた。
「特上客だ、失礼の無いようにな」
「特上?」
「あぁ、前金でしかも倍額だ、監視はしてるが、期待に添えよ?」
「はぁ」
たまにいるこういう客。
先に何十万という金を払い、お気に入りの子をほぼ貸切にするのだ。
ナンバーワンにもなると、よくある話。
休憩や指名被りで相手をしに行く事はあっても、自分には一生無いだろうと思っていた事。
それが突然何があったのか。
縁があるのか何なのか、ドアノブを捻った七番の部屋。
そこにはスーツ姿の男が大きな態度で座っていた。