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バインドミラー  作者: 結城 優希
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武蔵真野と僕と

この話では新キャラが登場します。

見た目はロリですね。

あと若干長くなった気がしまが、このぐらいの文量を定期的に書けたらいいんですけど……

「うーん、今日もダメか」

 朝、目が覚めて思うのはいつもこれだ。

 やっぱり今日も「夢オチなんてさいてー。」と言うタイミングを逃したのだと。

 いや、期待もしているかしてないか微妙なところだけどさ。

 ちょっとは臭わせろよ、ワクワクしたいんだ。

 僕はブツブツ独り言を呟き、服を着替える。

 制服ではなく、トレーニングウェアにだが。

 こっちにきてから、朝のランニングを続けている。バキバキの身体を維持したい気持ちもあるのだが、スマホにトレーニングメニューなるものが記録されていたからだ。

 朝のランニングから始まり、帰宅後の筋トレ、柔軟体操。

 およそ常人のこなせるメニューではないが、今の僕には丁度いいものばかりだった。

 こっちの僕は何を目指していたんだろう?それとも誰かに強要されていた?

 僕だったらキツイことを進んでやったりしないが……。

 こっちの僕はやはり特殊な性癖の持ち主だったのだろうか。

 腕立て1000回って……軍人かよ。

 腹筋なんて回数じゃなくて『動けなくなるまで』だし。その後に背筋もあるから動けなくなったらダメじゃねーか。

 そんなことを思いつつ、スマホにイヤホンを刺して耳に突っ込んだ。

 お馴染みの挨拶を聞き流して、お気に入りの曲を再生する。

 こっちの世界にも僕の好きなアーティストは存在するようで、当たり前に曲も入っていた。(これも数少ない、こっちの僕との共通点だ。)

 目の覚めるロックと体操で身体を温め、外に走り出す。

 扉の鍵は自動で掛かるので、鍵は持たない。

 全く便利なことだ。

 いざ観察してみると、外の様子は元の世界と比べて殆ど変わっておらず、この数日感、僕は安心して走ることができている。

 変わったといえば、自動車が通る道には絶対に入れないようにされていることくらいだ。

 透明で、しかしかなり強力な素材の壁で歩道と道路とが隔てられている。

 自動車は自動走行に特化するにあたり、耐久性や、交通事故の対策を車の性能ではなく、社会環境に重きを置くことで行っていた。

 そもそも人が飛び出さなければ、急ブレーキをかける必要はないし、事故は起こらない。また、システムによって完全に制御されて一定の車間距離を常に取ることによって、車同士の事故は無くなった。

 年間の自動車による交通事故は片手で数えられる程まで減少し、逆に事故になる場合のほうが希少となっている。

 そのため、こっちの僕が巻き込まれた交通事故は大きくニュースで取り上げられたらしい。

 原因は不明。僕を轢いた車は逃走し、救急車を呼んでくれた人も分からないとのことだ。

 当時の僕を知る人たちは皆、僕の無茶な行動が事故に繋がったのだと憶測していたらしい。

 まあ、日頃の行いのせいだろう。

 僕のランニングコースで、丁度その事故現場を通るのだが、やはりと言うか何も思い出せない。

 特に事故に巻き込まれやすい場所ではなさそうだし。

 寧ろ一本道で安全な方だ。

 そんな事に思いを馳せながら黙々と僕は着々と距離を稼ぎ、約一時間のランニングを終えた。

 爽やかに流れる汗が心地よい。

 このままシャワーに直行だー、とタオルで汗を拭う僕は安心しきって部屋に向かう。

 もちろん前があまり見えていなかった。否、足元が見えていなかった。

「ふぐっ」

 タオルで覆われた視界からは見えない、僕の進行方向右側の床に何かがいた。

 何か?いや、誰かが。

 奇妙な声が聴こえたはずだ。

 お隣さんだったらやだなーと思いながら、僕は右足に当たった誰かさんを確認しようと、顔を拭くタオルを肩にかける。

「……」

 果たして、僕の足下にいた人物は。

 幼い少女だった。

 幼い少女が三角座りで僕の部屋の前にいる。

 うん、何だろう。

 字面が妙にいかがわしい。

 誤解を招かないよう、ここに誓いを立てておくが、僕は決してロリコンじゃない。

 それどころか年上のほうが好みだし、何より子供が苦手だ。

 だって何か起きたら、年上である僕が全て悪く言われるから。

 小学生の頃に散々思い知らされて以来、僕は年下とは極力関わらないようにしてきた。

 まさかこんなシチュエーションでそれが破られることになろうとは。

 さて、どうしたものか。

 ぶつかった以上、謝らなければいけないが土下座は流石に、年端も行かないいたいけな少女には些か刺激が強すぎるだろう。

 ここはあくまで大人として優しく接するべきだ、と思う。

 えーっと、まずは名前か?

「君、お名前は?」

「……」

 それとも年齢?

「君、いくつ?」

「……」

 ええい、好きな食べ物だ!

「君、好きな食べ物は?」

「砂肝」

「はっ!?」

 反応した。え、そこ反応するんだ。

 つーか砂肝?そんなもの、僕なんてまともに食べたことがないのだけれど。

 答えはどうであれ、一応会話が成り立ったことに喜びを感じる。

 まともに年下と話した経験がないからかな?

 相手の少女の顔が不機嫌なのは、きっと照れ隠しだろう。

 正直に喜べばいいのに。僕みたいに。

 そして、どうやら声から察するに小学生高学年程度だろう、とおよその年齢を考察して会話を再開する。

「君はどこの娘?」

「不思議の子」

 ……いやごめん。たしかに君の"み"が"みぃー"ってなったけれども。

 別に乗ってくれなくても良かったんだよ?

 乗ってくれなかったらボケも成立しなかったんだし。

 しかしどうして、小学生の割に融通がきくようだ。

 僕は気を取り直して、改めて質問する前にしゃがんで視線を合わせてみた。

 ……うむ。

 意外と目線の高さが同じだと話し易いもんなんだな。

 なんとなくの行動だったが、結果として話しやすくなって結果オーライだ。

「君はどこの家の娘かな?」

「それより先に謝れ。お前は人の顔を蹴ったんだぞ」

 正確には膝蹴りだ、と少女は怒りを露わにした。

「……えっ?」

 一瞬何が起こったか理解できなかったが、どうやら僕は先ほど少女を蹴ったらしい。

 なるほど不機嫌にもなる訳だ。

 蹴ったことを謝りもせず、普通に会話するなんて失礼極まりない。

 今更ながら恥ずかしくなってきた。

 このまま普通に謝ることも出来たのだが、しかしこうなっては仕方あるまい。

 僕は伝家の宝刀、土下座を繰り出した。

 しゃがんだ膝を床に付き、頭を床に付ける。

 これで怒りの矛先を収めてもらおう。

 僕の好感度なんか知ったこっちゃない。

 自分が悪いと思えば、何時でも何処でも土下座が出来る男。それが僕である。

 余談だが、土下座の瞬間にふと思った。

 このスムーズな土下座をするために僕は身体を鍛えているのではないだろうか、と。

 どうして?なんて愚問は受け付けない。

 もし理解できない人がいたら試してほしい。何時でも何処でも正座を。

 土下座でも、何度も繰り返しやると疲れることが実感できるだろう。

 それはそうと、早速謝罪を開始。

「ごめんなさい。……えっと名前は?」

 折角、対小学生用の謝罪文をこの短時間で拵えたと言うのに、名前を知らないと全て言えない。

 僕は出来る限りの上目遣いで顔を上げる。

 至近距離の視界の先では、少女は三角座りのまま、しかし少し胸を張って答えた。

「ボクの名前は武蔵真野。透華ねえちゃんの弟だ」

「……」

 今度はこっちが黙る番だった。

 ん?何だって?

 武蔵の弟?つまり男なのか?

 いやでもどこからどう見てもロリ、いや少女なのだが。

 それに透華お姉ちゃん、って……。

 困惑する僕を見下ろす武蔵(弟)は、初対面の筈なのに見覚えのある笑みを浮かべて、悪戯っぽく続けた。

「ふんっ、やすやすと土下座をする辺り、お姉ちゃんの話通りか。弱くなったものだな」

 ……どうやら本物らしい。

 なぜ確証が持てるかというと、僕は武蔵(姉)にしか土下座をしたことがないからである。

 それはこっちの僕もそうらしく、僕からしてもやけに堂に入った徹底ぶりだった。

 特定の人物にだけ執拗に土下座するって。

 只の変態じゃないか。

 それはさて置き(このことは後々言及しよう)。

 武蔵(弟)、この際分かりやすく下の名前で真野と呼ぶが、真野の最後の言葉が気になった。

『弱くなったものだ』?

 確かに今の僕は以前のこっちの僕と比べたら、トレーニングの差で物理的に弱くなってるかもしれないけれど。

 一目見ただけで分かるものなのか?

 それとも小学生にして中二病か。

 もしかすると、こっちの僕とそういう遊びをしていたのかも知れないが、記憶の無い僕に対して言うのだから本気なのだろう。

 この年齢で中二病を患うとは、精神年齢が高いのか低いのか判断しかねるが。

 しかし、武蔵の弟だ。

 そんなことは無く、逆に僕の精神年齢を疑いたくなることを聞かされた。

 いや、怒鳴りつけられたと言う方が正しいかもしれないが――。

「言っておくが、お前はボクの手の届かない物を余裕顔で取って煽ってくるし、珍しく勉強を見てくれたと思ったら絶妙に解りづらいミスを誘発させるし、あろうことかボクに向かって◯◯◯◯と言ったんだ!」

「えっと――」

「しかもそのせいで最近まで日本地図を逆さに書いていたんだぞ!どうしてくれる!」

「あの――」

「先生に指名されて、皆の前で逆さの日本地図を描いたボクの気持ちがわかるか!?ああ、きっとわからないだろうさ!先生を含めたクラス皆が憐れむような目で見てくることなんてそうそう無いからな!どうだ満足かっ!?どうせお前のことだ、他にもボクについている嘘があるんだろ!それ全部ひっくるめて絶対に許さないからな!!」

 両目に涙を浮かべ、真っ赤になった顔で激怒する真野。

 途中またもや登場した伏せ字に恐怖しながらも、僕はこれ以上真野の顔を見ないようにと頭を下げる。

 子供の泣き顔というものは、どの場面でも見るに忍びない。

 しかしそんなことよりも早くなんとかしないと。

 ご近所迷惑はもちろんのこと、癇癪を起こすロリ(傍目から見て)に土下座する僕の姿なんて誰にも見られたくはない。

 速やかにここから追い出されてしまう。

 永遠に語り継がれる変態として。

 こっちの僕の為にも、それだけはどうしても回避したい。

「悪かった、本当に申し訳ない!なんだったら、たった今からでも自分の過ちを正したいと考えていた所なんだよ。気晴らしに僕の頭ならいくらでも足蹴にしてくれても構わないから、一旦部屋に入らないか?頼むよ」

「え、でも……」

 一歩間違えれば犯罪じみた僕の台詞で、何故か急に塩らしくなった真野に僕は止めの一撃を放った。

「ご近所迷惑だから」

「……分かっ、た」

 流石は武蔵の弟である。

 きちんと場を弁えること知っている。

 何となく自分でも叫び過ぎたのだと自覚していたのだろう。

 部屋に通す前に、どの口が言ってる……と至近距離で言われた気がするが、まあ気のせいだ。

 朝っぱらからロリ(正確にはショタ)に叱られながら土下座するのは、ご近所迷惑じゃないだろう?

 何だったら叱ってるほうがご近所迷惑だよ。

 と、僕は自信満々だったけれど。

 真野としては"場を弁える"の部分を指しての発言だった、とは僕に知る術は無かった。


「で、どうして武蔵の弟であるところの真野がうちの前にいたんだ?まさかとは思うが、迷子か?」

 真野を部屋に招き入れた後、椅子もないのでベッドに腰掛けるように言ったが、真野は頑なに床に座りたがるので仕方なく座らせておいて、僕はお茶を淹れていた。

 その作業の傍らに、扉の前にいた理由を聞き出す事にする。

 最後の迷子の線は半分冗談のつもりだが、半分は可能性ありだと思っている。

 実際、この建物と武蔵家は歩いて数分もしない近所なのだ。いつもは通らない道を通ってうっかり、という事も有り得るだろう。

 しかし逆に言うとそれ程の道程なので、迷うほうが難しいと思うが。

 極度の方向音痴ならともかくな。

 僕の予想はそんなところだったが、真野の答えは至ってシンプルだった。

 つまるところ、

「お姉ちゃんの代わり」

 だそうだ。

 武蔵は昨晩から体調不良を訴えており、今朝になって本格的に熱が出たらしい。

 そんな彼女の代わりに、弟が付き添い人となる、とのこと。

「一応伝言頼まれたけど、言わないでおくな。だってお前には必要ないだろ」

「待て少年。それは流石におかしくないか?その伝言が僕の命に関わることだったらどうするんだ」

「だから必要ないって言ってる」

 あー。つまり(お前の命は)必要ないって事ね。

 こいつ、先回りして悪口を言いやがった。

 涼しい顔してやってくれるぜ。

 言葉の端々に棘があるのも憎らしい。

 しかし僕は、そんな餓鬼でも武蔵の弟だと思うと可愛く思えた。

 仕方ねえ、熱いお茶を淹れることぐらいで勘弁してやるか。

 僕は出来上がった熱々の液体をコップに注ぎ、真野に手渡す。

 ハハハッ、猫舌なら致命傷だぜ。

 案の定、少しカップに口をつけた真野は顔をしかめ、フーフーと冷まし始める。

 息を吹きかける度に曇るメガネがまた面白い。

 今度武蔵にやってもらおうか。

「ダメだ。そんなことはさせない」

「なんだと?」

「お前の欲望のためにお姉ちゃんは渡さない」

「おいおい、どうやって僕の心を読んだかは知らないが、それは聞き捨てならないな。そんなの真野には関係ないだろう?」

 僕のちょっとしたお願いにはもちろん武蔵自身に拒否権はあるし、そもそもそこまでの要求は今までしたことが無いはずだ。

 友達になった翌日から、かなりどうでもいいお願いばかりをしてみてはいるだが、武蔵が承諾した例はない。

 どうやら、おふざけのお願いごとに対するフィルターは厚いらしい。

 例外として休日や放課後の買い物に付き合ってもらう程度で、真野にこれほど阻まれる理由が見当たらない。

 ……んー?いや、そうか。ある。

 つまり――嫉妬、だ。

 かなり身の固い武蔵のことだ、僕のように特定の男子と一緒にいる場面はあまりないのだろう。

 だからこそ、弟の真野がここまで拒否反応を起こしたのだ。

 彼の目には、僕が彼女を食いものにする悪い男に見えているに違いない。

 自分だけの"お姉ちゃん"に害をなす存在。

 それが今の彼から見える僕だ。

 だとすれば、まずは誤解を解かないといけない。

「よく聞くんだ少年。確かに僕は武蔵と仲良くしたいと考えているが、決してやましい気持ちがある訳じゃない。ただ、今の僕には彼女しか頼れる人がいないんだよ」

 異世界に来たばかりの僕には。とは流石に言えないけれど、ありのままの本心を語る。

 子供と仲良くするのは難しそうだが、真野とは仲良くなりたい。

 だったら彼には胸襟を開いて、腹を割って話すべきだ。

「これからも武蔵を頼ることになると思う。ってことは今回みたいに真野にも頼ることがあるかもしれない。だから、これからは仲良くしてくれないか?僕にとっての大切な友達として」

 こっちの僕がやったことは、これからは僕が責任を持つ。

 真野に嘘の知識を教えたなら、正しい知識を改めて教えてやればいい。

 僕に対する敵意があるなら、仲良くなってしまえばいい。

 幸い僕には、それを行う時間も余裕もある。

 それら全ての責任を解消してからでも、元の世界に戻る方法を探すのは遅くないはずだ。

「ふんっ、臭い台詞を言いやがって。そんな言葉だけじゃ、信用しないぞ」

「ああ、分かってる。今日からでも勉強を教えるために勉強会を開こう。場所はどこだって駆けつけるから」

「それが嘘じゃないことを祈るよ」

 そう言うと、真野は飲みかけのコップを僕に手渡してきた。

 ん?友情の盃か?

 まだ僕達の友情は入り口に立っているかどうかも怪しいのだが。

「もう時間だ。……熱すぎて全部飲めなかった」

「ああ、そうか。悪い」

 スマホで時間を見ると、確かに遅刻すれすれの時間だった。

 車がなければ絶対に間に合わない時間帯。

 結局話し込んでいて、シャワーに入るタイミングを逃してしまったようだ。

 少し汗臭いがこのままで学校に行こう。直ぐに部室棟のシャワーを使えば問題ないだろう。

 真野は車で待ってる、と言って部屋から出て行った。

 悪戯にちょっぴりの罪悪感を感じながらコップを片付け、僕は鞄と制服を掴んでささっと身なりを整えた。

 最近は出来るだけ僕の評判を良くしようと、様々なことに気を遣っている。

 身なりから礼儀、言葉遣いを特に。

 それだけでかなり印象が変わり、僕が教室にいても変な雰囲気になることが少なくなった。

 まだクラスメイトとは打ち解けていないので、そこら辺がこれからの課題だ。

 きっちりと準備を済ませると僕は部屋から飛び出し、真野の待つ車に乗り込む。

「ところで、記憶喪失とはどの程度なんだ?」

 車が発進したところで、おもむろに真野が口を開いた。

 確かに、僕がどのくらいこちらの世界を知っているのか、または記憶があるのかを彼はまだ知らない。

 厳密に言うと、武蔵にもはっきりとは教えていないが。

 病院で目覚めた時点では混乱していて、余計なことを喋ってボロが出ないようにと、最低限の事しか答えていないからだ。

 いい機会だ、と思う。

 この先、誰に何時聞かれるかわからない質問だし、真野にはその対応の練習台になってもらおう。

 僕は頭をフル回転して、へましないように、慎重に言葉を選んだ。

「武蔵家、つまり真野の家族についての記憶はない。それどころか、僕の家族の記憶も曖昧なところがある。その他にも、皆が当たり前に使っている道具の使い方が分からなかったりする。生きていく上では苦労しないけど、不便ではあるな」

「ふーん。なるほどね、そんなもんか」

 真野は少し肩を竦めて納得した。

 見た目は少女の癖にいちいち男らしい。

 まあ、男なんだけれども。

 しかしどうやら今の説明で不自然な点はなかったらしい。

 真野は疑う様子はなく、すんなりと信じてくれた。

「それじゃあ、逆にボクに質問はないか?記憶が無くて知りたいことだったら、答えられる範囲で答えるけど」

「うーん……」

 心遣いは大変有り難いのだが。

 こっちの世界で感じた疑問は、全て武蔵に答えてもらっているので、現時点で差し迫った問題は今のところ無かった。

 警察でも見つけられていない、事故の犯人を彼が知っているはずもないだろうし。

 だが、このまま何も質問しないのでは真野の面目を潰すかもしれない。

 どうせなら彼のプロフィールでも教えてもらおうか。

 スリーサイズは?なんて冗談でも訊ける度胸は僕には無いので、あくまで普通の質問だ。

「じゃあ、年はいくつだ?」

「15。中学三年生」

「……嘘だ」

「嘘じゃない」

「それじゃあ人を嘘つき呼ばわりできないぞ?」

「だから本当だって」

「いや、どう見ても小学生だろ!?第二次成長期を迎えているようには見えないぞ!」

「……否定はしない。だけど、残念ながら真実だ」

 真野は苦い顔をしながら胸ポケットからスマホを取り出した。

 電源を点けて、指で何度か画面をタップしてからこちらに向けてくる。

 画面には真野の学生証らしきものが映っていて、僕はじっくりと観察した。

『武蔵真野(15) 第三学年』

 年度はもちろん今年で、顔写真もきちんと真野のロリ顔だった。

 学生証は生徒一人ひとりのスマホに情報として記録されているシステムが主流なので、万が一のために高度なセキュリティが施してある。従って、データの偽装、改ざんの可能性は極めて低い。

 つまりは真野が男だと証明していた。

 彼はこんなに可憐な少女の見た目をしているが、中学男児なのだ。

 よく見てみると、武蔵の顔のパーツに似ている部分があり、男版武蔵に見えなくはないが……。

 僕がそのまま顔写真を凝視していると、真野が慌ててスマホを仕舞う。

 その顔が僅かに紅潮しているのは何故だ?

「ボ、ボクだってうんざりしているよ。この顔で馬鹿にされたのだって一度や二度じゃない」

「そうなのか。けしからん奴等もいたもんだな」

「うん、けしからんよ全く」

 口調を真似するな。

 お前が言うとちょっと可愛くなるだろ!

「それはそうと、最近目が悪くなったのか?さっきの写真じゃそれ掛けていなかったけど」

「ああ、これはお姉ちゃんが貸してくれたんだ。お前が喜ぶから、って」

「僕はそこまで見境無くメガネ好きって訳じゃない」

 女子限定だ。

 男が掛けるのは全然萌ない。

 女子が掛けるとマジックアイテムもかくやという魅力アップ効果があるのに、男が掛けるとガリ勉エリートにしか見えなくなるのだ。

(ただし、少女に見える男子中学生は例外とする。)

 だから女性の諸君には是非、メガネを掛けて頂きたい。

 シャープなメガネでも、大き目のおしゃれメガネでも構わないから。

 メガネが嫌でコンタクトにした人も、どうかメガネに戻って欲しい。

 主に僕が喜ぶ。

「そこまで行くと見境が無くなっていると思う」

「だから真野。どうやってるかは知らないが、僕のモノローグを勝手に見ないでくれ。おちおち妄想も出来ないじゃないか」

「だったら妄想をするな」

「それは呼吸をするなと言ってるのと同じだぜ、少年。いいか、健全な男子高校生なんだ、妄想の一つや三つ四つぐらいは常に考えてるもんだろ」

 全国の男子高校生よ、そうだろう?

 僕だってこっちに来てからは現実が忙しくてそんな暇はなかったが、元の世界では暇さえあれば妄想空想をしていたものだ。

 ん、いや?最近は余裕ができて武蔵のことをあれこれ考えてたんだったっけ?

「そう考えてみると、僕の妄想の中に武蔵が登場するのが嫌なんだっけか?おいおい、どこまでシスコンなんだよ」

「そんなこと……無い」

「妙な間を取るなよ。もう自覚してんじゃねーか」

「じゃあ、じゃあお前は弟が嫌いなのか?家族なのに」

「うーん、そりゃ特別嫌いって訳じゃないだろうけど……」

 何せ会ったこともない、殆ど他人と言える弟との距離感なんて計り知れない。

「だったらお前もブラコンじゃないか」

「黒か白かで考えるな。世の中にはもっと曖昧なニュアンスがある」

「都合の良いことばかり言って。だとしたらお前は、グレーゾーンのブラコンでいいんだな?」

「グレーゾーンって、もっと怪しさが増してるだろ。せめて鉛白色にしろ」

「どうしてマイナーな色を出すことで微かな可能性を残そうとしたんだ?そこは白にしておけよ」

「いや、かつての僕がブラコンだったら怒られるかなって」

「余計な心配をするな……?」

「今の時代訴えられたら厄介だからね、っと着いたみたいだ」

 外を見てみると、見慣れた校舎が目の前に現れていた。

 登校時間ギリギリのせいか、急いで学校に入っていく生徒がちらほらと見てる。

「じゃあ僕はここで降りるけど、帰りも真野が来てくれるんだろ?」

「ああそうだ。待ち合わせ時間は連絡するから、校門の前で待っててくれ」

「わかった、宜しく頼むよ」

 そう言って車を降りると、真野を乗せた車は走り去っていった。

 そのまま中学校に向かったらしい。

「さぁーて、今日も頑張りますか」

 遠ざかる車を見送りながら伸びをする。

 今日は朝から友達が出来た。

 この調子で、クラスメイトの誰かが友達になってくれないだろうか?

 もしくは学校内の誰でもいいけれど。

 僕はそんな密かな期待を胸に、校門をくぐった。

はい、ロリではなくショタでした!

言葉遣いは男らしいですが、ちゃんと見た目はロリですよ!

あと二人目の友達ができましたね。

次は幼馴染の家に行くことに――??

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