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バインドミラー  作者: 結城 優希
1/3

1人目のトモダチ

以前から異世界ものと会話劇を書きたいと思っていました。

これは異世界転生、とも少し違う気がしますが。

会話部分ももう少し捻っていきたいですね。



「ん、ん〜」

 朝だ。

 夜寝て、いくらか時間が経てば自然とやってくる、憎いやつだ。

 僕の寝る部屋のカーテン越しに朝日が透けて見え、枕元のスマホが起床時間を示していた。

 寝ぼけ眼で、AM6;00を主張するスマホを操作してホーム画面を表示する。

 瞬間、

「おはようございます、今日も頑張りましょう」

 と、画面に表示された女性のキャラクターから挨拶が発せられた。

 別に僕の所有するスマホは、最新のやつじゃない。

 むしろ古い方で、新作が発表される度に買い換えたいと思っていた。

 では、この律儀に挨拶してくれる機能付きのスマホは、一体誰の物なのかと問われれば、しかし僕の物なのだ。

 つまり、"現在"の僕の所有物。

("現在"の僕が持つ道具は他にもあるけれど、今は割愛させて頂く。)

 さて。話がややこしくなりそうなので、率直に、短く、分かりやすく今の状況を説明することにしよう。


 僕は、異世界にいる。


 いやいや、そんな状況があるのか?と思った人もいるかも知れない。

 だが、これが今の現状の全てを物語っている。

 これ以上の説明はあるまい。

 補足すると、僕の元々生きていた世界よりも、少し科学技術が進歩した世界だ。

 だから、型落ちしたスマホでも喋るし(こっちの世界でも、僕は最新型に手が出せていないみたいだ)、ドアは全部自動だし、車はタッチパネルで目的地を決めれば勝手に走る。

 他にも確認出来ていない所はありそうだが、何処もかしこも便利な物で溢れていて、どうやら異世界だと結論を出した。

 これが、未来の生活を体験してみよう!みたいなアトラクションだったら最高の体験なのだが、果たしてそうでは無かった。

 何故分かるかって?

 そりゃ、自分の身体が変わってたら、そう考えるしかないだろう?

 気付いたのは、つい1日前だ。

 目が覚めると、自分の部屋で寝ていた筈が、病院の一室に寝ていた。

 どうやらこっちの僕は交通事故に遭って入院していたらしい。

 その際、頭を強く打ったらしく、記憶(異世界限定の)が無いことは記憶喪失だと説明された。

 厳密に言うと違うが、いくら便利な道具があるからと言っても異世界に自由に行けるとは限らないので、話を合わせておいた。

 下手に「僕は異世界の住人だ」なんて言ったら、頭の精密検査を受けかねない。

 ちょうどそのタイミングでお見舞いに来てくれた友達(女子、しかも幼馴染らしい!)と話す機会があり、生活に支障が出ないようにと色々教わった。

 幸いなことに、科学技術以外はあまり元の世界と変わっておらず、生活には苦労しなさそうだ。

 その後は、身体に異常は無く、数日間付き添いがいることを条件で退院する運びとなった。

 ついでに言うと、僕は高校二年生の一人暮らしなので、付き添い人の任務は幼馴染が果たすらしい。

 幼馴染とは同じ高校で都合が良く、僕のことをよく知っているから。とのことだったが、正直女子と付きっきりなんて初めてで緊張している。

 もちろん外出時限定でだが。

 とは言え、幼馴染の容姿ははっきり言ってタイプで、病院帰りの車の中はドキドキしっぱなしだった。

 道中の見慣れたはずの街並みはどこか近未来的で、自分の部屋のある建物を目の前にしてもやはり安心はできなかった。

 二重の意味でドキドキして心の休まる瞬間がない。

「じゃあ、また明日。何か分からないことがあったら連絡してね」

「ああ、ありがとう、武蔵」

 ちゃっかり教えてもらった名前を呼んでみて、僕の部屋の前で武蔵と別れた。

 幼馴染の名前は、武蔵透華。

 よし、覚えたぞ。

 真剣な面持ちで名前を復習した僕は、自動ドアをくぐって部屋に入る。

 部屋の中のインテリアは意外に元の世界と同じで、そそくさとベットにダイブして目を閉じる。

 途中ツッコミを入れたくなる、もしくは弄りたくなる道具が視界に入ったが、直ぐにどうでも良くなった。

 今まで寝ていたにも関わらず、瞼が重たくなって意識が朦朧としてきたからだ。

 ボケットから辛うじて引っ張りだしたスマホの時刻はPM18;56と、少し眠るには早い時間を表示していたが、電源を消して枕元に放り出して、意識も同時に手放した。

 ああ、目が覚めたら元の身体で、「夢オチなんてさいてー!」って叫ぶぞー。と薄ぼんやりと考えたものだが。

 目が覚めてみても状況変わらず。

 現状維持されていて、異世界の朝が普通に来ることが憎く思えた。

「だけど、着替えないと。かな」

 武蔵が明日、つまりは今日も付き添ってくれる場所は学校だった。

 学生の本業は勉学。

 確かに退院したのなら、翌日から学校に通うのは当たり前だし、ほんのちょっとだがこっちの学校にも興味はあった。

 こっちのクラスメイトはどんな人なのかな、とか、黒板はあるのだろうか、とか。

 元の世界に戻る方法は後で考える事にして、僕は支度をする。

「うわっ、凄っ」

 衣装タンスからシャツを取り出して、袖を通そうとした時に新たな発見が。

 鏡の中の僕の身体がびっくりするほど鍛えられていた。

 腹筋は見事に割れてるし、鏡を通して見た僕は、以前の僕よりもがっしりした体格をしていた。

 どことなくボクサーを彷彿とさせる。

 顔もなんとなく凛々しいような……。

 ピンポーン

 僕がナルシストのように半裸で鏡を見ていると、どうやら武蔵が迎えに来たらしい。

 約束の時間五分前だ。

「おはよう。大丈夫?起きてる?」

「お、おう。おはよう」

 壁に武蔵の上半身が映しだされて、びっくりした僕は動揺して隠れながら挨拶を返したが、あちらからは見えていないようだ。

 まだまだ知らないことがあるな……。

 よく見ると壁がディスプレイの様な素材で出来ていた。

 どうやら、外の様子が部屋の壁に映る仕組みらしい。

 インターホンの映像の中で、武蔵が笑顔を作る。

「うん、じゃあそろそろ行くよー」

「ちょっと待っててくれ!」

 急いで制服を着て、学校指定の鞄を引っ掴んで玄関に向かう。

 扉をくぐると、そこには制服姿のメガネをかけた武蔵が立っていた。

「ん?あれ、それ」

 昨日は着けていなかった筈だが、コンタクトなのだろうか?

「気付いた?前に君から褒められたから何となく、ね」

「へ、へぇ。うん、似合ってると思う」

 僕はあくまで平常心を保って喋っているつもりだが、顔に出ていたらどうしよう。

 ヤバい、可愛すぎ。

 見ているこっちがニヤけてくる。

 メガネ無しでもタイプだったのに、メガネが足されることによって、結婚しなければならないレベルにまで一気に魅力が上がった感じがする。

 結婚は双方の同意が必要だが、一人で二人分の同意を生み出せそうだ。

 今からでも籍を入れようか!

 ……もちろん冗談だが。

 そんな僕の邪な妄想は知る由もなく、武蔵は笑顔を零す。

「やっぱり記憶は無くても、好みは変わんないね〜。そういうの嬉しいかも」

「ん?好みって――」

 車に武蔵、僕と乗り込んで武蔵がタッチパネルを操作する。

 その横顔は質問を拒否している風には見えなかったので、僕は思い切ってみた。

 さっきのフレーズだと、僕が勘違いしかねないからだ。

 こっちの僕は武蔵さんが好きだったんじゃないかと。

「立ち入った質問するけど、僕と武蔵さんの関係は幼馴染ってだけ?」

「だけ?ってどう言う意味かな?」

 あと武蔵でいいよ〜、昨日みたいに。と、はにかみながら悪戯っぽく質問返しする武蔵に僕は戸惑ってしまう。

 顔がタッチパネルに向いているのが唯一の救いか。

 しかし、僕でも男としての意地がある。

 ここまで来たら引き返さない。

 この答え次第で、今後の距離感の取り方にも影響が出るからな。

「だからつまり、武蔵さ……。武蔵は僕と彼氏彼女の関係だったのかってこと」

「彼氏彼女、ね」

「……」

「そうね……」

「……」

 車が殆ど無音で発進してもなお、正面を見つめて呟く武蔵の姿は、憂いを帯びているようだった。

 しまった、地雷踏んだか?これだから男女の会話は難しい!と、頭で反省しながら答えを待つ。

 この沈黙は、たっぷりと30秒を使ったところで破れた。

「違うよ」

「えっ?」

「違う違う。ちょっと曖昧なんだけど、友達以上、恋人未満未満って感じかな」

「恋人未満未満……」

「これは勘なんだけど、少なくとも君には嫌われてなかったと思うんだ、私。今の君にはその記憶が無いけれど、髪型とか、アクセサリーなんか変えても直ぐに気付いてくれたしね」

 丁度、今朝みたいに。

 そう語る武蔵は、嬉しさを隠しもしなかった。

「そっか、凄いなそれ」

 僕は元々女子と接する機会が少なかったので、そこら辺の気遣いが足りていないように思える。

 だとしたら、今朝のメガネ指摘は正解だったのだろう。変化としては抜群で指摘せざるを得なかったけれど、細かな髪型の変化を今後僕が見分けられるとは思えない。

 明日から会うたびに間違い探しをしないといけないのか。

 どんどん難易度が上がっていくとしたら、先が思いやられる。

 今日の変化は、前髪が2mm短いでしたー。とか。

 まあ、こんなに嬉しそうにしてくれるなら、その努力も吝かではないが。

「ってのは口実で、実は私が一方的に君のことが気になっていたりして」

「なんだって!?」

 何てことだ!幼馴染のメガネ女子から告白紛いな事を言われたぞ!

 今夜は赤飯だ!

 一人色めき立つ僕を横目で見てクスクスと武蔵が笑う。

 何を笑ってるんだ?

「君って反応が面白いね、なんだか弟みたい」

「弟だって!?」

 寧ろそっちでも全然OKだけども!

 と、ちょっと待て。

 流石の僕でもからかわれていることくらい気付く。

 リセットして真面目モードだ。

「弟さんいるんだ」

「そうだよ。君と一緒だね」

「いや僕にはいもう、じゃなかった。そっか、弟だったか」

 言われて思い出したが、こっちでは家族構成が少し変わっていた。僕のひとつ下の妹が、弟になっている。

 それでも十分な変化だが、吃驚に免疫のできた僕としては、心穏やかだった。

 しかし弟とはこっちに来てから会ったこともないし、写真だって見ていない。

 なんだか憚られたのだ。

 他人の家族を覗き見しているみたいで。

 同じ理由で両親の顔も見ていない。

「あ、そろそろ着きそうだよ」

 言われて自然と下がっていた視界を上げると、右手に校門、奥に校舎が見えた。

 学校に付くまでずっと話し込んでいたみたいだ。車で来ると流石に早い。

 元の世界じゃ、自転車で30分は掛かったのに。

 生徒が次々に車から出てくるターミナルのような場所で、武蔵と一緒に車を降りる。

 車は地下に続いているであろうトンネルの穴の中に飲み込まれて行った。

「君の教室はBだよ」

 車を見送った後で武蔵に案内されて、僕はそのBクラスの扉の前に立った。

 いざ学校に来たものの、なんだろう。教室を前にして不思議な緊張感がある。

 これが転校生の心持ちなのだろうか。

 廊下ですれ違う生徒も、やはり見慣れた学校の生徒に見えなかったし、何より武蔵が違うクラスなのが痛い。

 なんだよ、幼馴染がずっと付きっきりでお世話してくれるんじゃないのかよ。お約束だろーよ。と思うものの、仕方ないものは仕方ない。

 背後で可愛くファイトー、と小さな声で応援してくれる武蔵に背中を押され、僕は手を扉に掛けようとした。が、

 ウィーン

 と、滑らかに自ら開く扉にフリーズした。

 あ、そっか。ここ異世界だった。

 開いた扉の前で不自然に起動停止する僕を見る視線が怖い。特にクラスメイトらしき、B教室内の生徒からの。

 約3秒後、今度は物理的に武蔵から背中を押されて、何とか教室に入ることができた。

 傍から見ると、退院してきたばかりで教室に入るのを躊躇した人にみえたのだろうか。だといいな。

 多少、挙動不審になりながらも僕は事前に教えてもらっていた自分の席に座る。

 廊下側の列、前から三番目。

 僕としては嬉しい席だ。隣が壁なのは気が楽でいい。

 出来る限りのポーカーフェイスを保って前を凝視する。

 僕が来たことで騒がしかった教室内が静かになったのは、たぶん気のせいだ。

 被害妄想の自意識過剰。

 いけないいけない。

 僕はこれから真面目な学校生活を送るんだ。

 少し落ち着いたところで、教室を見渡すと目新しい物ばかりだった。

 黒板ではなく白板 (ホワイトボードらしきもの)だし、机はやけに機械チックでボタンが数個付いており、紙が何処にも見当たらない。

 教室や学び舎では紙媒体が主流だが、こっちではどうやら今朝のインターホンのように、ディスプレイの役割を果たす壁等に直接映し出されている。

 鞄の中にもタブレットしか入っていなかったところから、授業でもこれを使うらしい。

 そこまで考えたところで、教室に女性の大人が入ってきた。見たところ教師だ。

「皆さんおはようございます。えー、今日は古坂君が登校して来たらしいですが、」

 ここで机の表面が光った。いや、電源が入ったようだ。机もディスプレイらしい。

 机には恐らく僕の学生証だろう、個人情報が書かれた欄が画面が映し出されていて、登校時間も秒単位で記録されていた。

 しかし僕はそんな事よりも、左側に表示された顔写真に注目していた。

 え、これこそ冗談じゃない?

「古坂君、随分印象変わりましたね」

 先生は何となく嬉しそうに言った。

 全然、随分どころじゃない。

 だって退院前、つまり異世界の僕の髪色は紛う事無き"真っ赤"だった。

 おしゃれなバンドマンの髪色なんて目じゃない、原色の、燃えるような赤だ。

 そんなとんでも証明写真があってたまるか。

 どんな高校デビューだよ。

 皆さんは勘違いしないで欲しい。

 僕はいつでも(どちらの世界でも)黒髪清純派で通している。

 こっちの僕は入院前まではこの髪色だっただろうが、僕が目覚める頃には黒髪になっていた。

 どう言うべきか、こっちに来てから最大のショックを受けた。

 こっちの僕は何をしている!

「えっと……」

 先生の視線に釣られて、クラスメイトの視線が僕に集まっていたので、立ち上がって(何でだ)挨拶をした。

 ここでも僕はポーカーフェイスだが、心の中は戦々恐々である。

「退院しました、古坂です。色々分からないことがあるので、これからよろしくお願いします」

 言い終わって着席するが、クラスメイトが須く口をポカーンと開けているのはご愛嬌だろうか。

(ちなみに"須く"、を本来の意味である『当然だ』と、厳密には違う意味の『皆んな』とを使う人がそれぞれいるらしいが、僕は後者の方だ)

 ついでに先生も呆けた顔をしていたが、気を取り直すことに成功したらしく、僕が記憶喪失しているためサポートして欲しいと皆に報告した。

 先生が出て行くと、僕は転校生ばりに質問攻めに――遭わなかった。

 どころか、異物を見るかのように距離をとって観察された。

 その中で偶然に隣の女子と目があったので、爽やかなスマイルを添えて挨拶をすると、

「もう古坂様って呼ばなくていいんだよね?」

 と伏し目がちに返された。

 本当に、こっちの僕はどんな性格だったんだ!

 僕は心の中で全力の土下座を繰り出しつつ、被害者の彼女に謝罪をした。

 謝りますから、これから仲良くしてやって下さい。

 あと呼ぶ時は普通に古坂でお願いします。

 その後も、こっちの僕の有り得ない所業が次々に明らかになっていくのだが、それはまた、別の機会に話すことにしよう。


 時間は流れて放課後。

 学校の授業では僕としては初めての体験が多すぎて、何度も心が折れそうになった。

 その度に取引先のサラリーマンの如く、頭を極限まで下げてお願いをしてクラスメイトに手伝って貰った。

 入院前との変わりようで若干引かれていたが、僕に至っては気に止める余裕は無かった。

「にしても訊いてなかったよ。僕があんな髪色であんな性格だったなんて」

「ふふふっ、びっくりした?ちょっと悪趣味なサプライズだったかしら」

 下校の車の中で武蔵に愚痴めいたことをぶつけるが、さらりと受け流された。

 見た目以上に武蔵は強かなのかも知れない。

 僕の"あんな"のフレーズには様々な意味が込められていたが、彼女はそれだけで大体察したようだ。

「そんな傍若無人な君が、目を覚ましたって訊いたからお見舞いに行ったら、こんなになってるなんてね。正直面食らっちゃった」

「だよな」

 あまりにも普通になりすぎた。

 それは普通を通り越して異常になったと言うべきで、とんだ逆高校デビューだ。

 そりゃあ中身が違うから仕方のない事だけれども。

 僕も混乱したが、最初に話した武蔵も相当混乱したことだろう。

 そう考えると最初に土下座し、謝罪するべき相手は武蔵だったのかも知れない。

「昨日まで、メガネ三つ編みで僕を叱ってくれ!って土下座しながら頼んできた人とは思えないくらい」

「そんなことまでしてたのか!」

 メガネ三つ編みはスルーするとして(人の趣味趣向には口出ししない主義だ)、こっちの僕も土下座の常習犯だったらしい。

 思わぬ共通点もあったものだ。

 頼みごとが限りなくアウトに近いため、かなりいかがわしい絵面になるが。

「うん、黒タイツの脚で踏んでくれとか、寧ろ蹴ってくれとか、メガネのつるで◯◯◯してくれとかも言われた」

「限りなくアウトに近いアウト!」

 幼馴染に伏せ字にしないといけないような頼みごとするなよ!

 お前の人間性は今現在を持って地獄に堕ちたよ!

 頭の中でこっちの僕を罵倒しつつ、車の中にも関わらずに土下座した。

 車の中はかなり余裕があり、座席であるソファの前には人一人寝られそうな空間がある。

 僕はそこに両手をついて土下座した。

 ご安心願いたい、この自動車にはそもそもシートベルトのような安全装置は無く、どんな格好で乗っていても安全は保証されている。

 問題はそこじゃない?

 気のせいだろうよ。

 少なくとも今は、僕の安全よりも謝罪が優先だ。

 しかし流石は土下座慣れした身体だ、座っている時よりもしっくり来る。

「……」

「……」

 そのままでいると、武蔵が黙ってしまった。

 しまった。つい悦に入ってしまっていた、と判断して僕は顔を上げずに謝罪を口にした。

「悪かった。いや、申し訳ありませんでした。これまでの非礼を詫びます。二度とこんな事にならないよう、努力していく所存でありますので、どうかこれからも仲良くして下さいませんか?」

 本来はこっちの僕がすべき事だったが、やらずには居られなかった。

 流石にこっちの僕はやり過ぎている嫌いがある。

 少なくともそんな迷惑をかけてきた、そして絶賛迷惑かけ中である幼馴染に対して、少しでも報いたかった。

 きっとこれまでも多大な迷惑をかけてきたにも関わらず、それでもなお、僕を気にかけてくれている人。

 そんな人が、他に現れるのだろうか?

「頭を上げて、古坂君。確かに君は何かと折に触れて土下座する人だったけど、私は友達の土下座を見て楽しむような人間じゃないんだよ?」

 不意に頭に優しく触られる感触を感じ、上目遣いで武蔵を見る。

 そのまま頭をポンポンと、撫でるように触る彼女の表情は、慈しみに溢れていて、

「それに幼馴染なんだし、ちょっとくらいふざけ合ったっていいじゃない。互いに迷惑かけないように、なんて固っ苦しいだけでしょ?」

 それでもって痛みを耐えているようで。

 密かに眉にしわを寄せる彼女に、僕は自然と言葉を紡いだ。

「じゃあ、これからも迷惑をかけるかもしれないし、ふざけたり、事あるごとに土下座をするかもしれないけれど、」

 僕は武蔵を真っ直ぐに見る。

「友達になってくれませんか?」

 告白とは違う。

 しかしそれ以上に緊張している僕を見て、武蔵は今日何度目かの悪戯っぽい笑顔を見せた。

 待ってました、と言わんばかりに。

「うん、いいよ。これからよろしくね」


 こうして僕はこっちで初めての友達ができた。

 元の世界にはいなかった、幼馴染の女子だ。

 異世界に飛ばされて、大変な事ばかりだったけど、案外こっちの世界も捨てたもんじゃない。と、思えるようになった。

 さあ、明日も学校だ。

 しっかり寝て、朝の間違い探しのために英気を養うことにしよう。

この後も古坂の友達作りは続きます。

多分私自身もそうすると思いますのでね(笑)

その後から徐々にSFっぽさが出ればなーって思っています


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