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アクター  作者: LE-389
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その後

「久しぶりだな、ラシーヌ」

「ええ、お久しぶり」


 194と共にいたユーザー達にもソルの事を紹介する。かつて行動を共にしていたユーザーで、高い技術の持ち主であると。

 今のラシーヌも他のユーザーに対して的確な支援を行う事で一目置かれていた。そんな彼女が高く評価するソルに対してユーザー達も興味を持ったが、ソルはまた今度にして欲しいと言う。


「すまないがラシーヌに用があるんだ。一対一で話がしたい」


 194も、あれから彼にどのような変化があったのかを知りたいと思っていた。既に彼らとの冒険は済んでいる。今日のところは彼らと別れを告げ、194はソルについていく事にした。




 邪魔が入らないように、ユーザーが少なくモンスターがポップしない場所を彼らは探す。比較的ユーザーの多い時間帯だったが、フィールドの片隅がちょうど良く空いていた。


 周囲に人がいない事を確認したソルは194へと近づき、襟首を掴んで顔を引き寄せる。


「お前、俺に一体何をした!」


 こうなる事は194も予想はしていた為、激情に駆られた彼とは対照的に落ち着いた声色で返答をする。


「『おまじない』はあなたに、良くない結果をもたらしたようですね」


 194がそう言い終わるか終わらないかのタイミングで、ソルは194から手を放し剣の柄に手をかけた。

 194は僅かな間にソルとの距離を詰め、鍔を手で押さえて彼を制止する。通常、剣士と魔術師には身体能力に差があるためこのような事は出来ないが、アクターならば自身のステータスを瞬時に書き換える事も可能だ。

 あくまでも力ずくで剣を抜こうとするソルに、194はやめるよう言い聞かせる。


「落ち着いて、話を最後まで聞いてください。私が何をしたのか、知りたいんでしょう?」


 194をにらみ付け、わなわなと身を振るわせた後に、ソルは194の首と剣から手を離した。


「説明してもらおうか」


 ソルの求めに応え、194は単刀直入に言う。「おまじない」の正体は、「価値観の書き換え」であると。そして、この「おまじない」が「アクターを対象にした物」というのも誤りだと伝えた。


「別のアクターから聞いた事を、私があなた向けにアレンジしました。元々私があなたにしようとしていたのは、別の事です」

「その『別の事』とは何だ」

「人格の書き換えです」


 理解が出来ないと絶句するソルを尻目に、194は続ける。


「私達の置かれた状況は以前話したでしょう。人になる事は叶わずとも、人間としての自分を作り出す。そのための方法を人伝に聞いたので、あなたにそれを実行しようとしていました」


 そのために、194は時間をかけて自身の記憶をソルに刷り込んでいた。既視感や連携がしやすくなった事はその副作用である。そう伝えられた彼は、目を見開いて自身の手を見る。

 リアクションを確認しながら、194は続けた。


「私がアクターだと明かしたあの日までは、それを完遂するつもりでした。ですが、あなたの言葉によって私は目的を変えました」


 少し間を置いて、194は次の言葉を強調する。


「殺してしまいたい。そう思ったのは一瞬の事でしたが、普通のアクターならば抱く事の無い感情なのかもしれません」

「思考にかかった制限もあり、その思いを抱いたままでいる事は出来ませんでした」


 194の片手に、一枚の仮面が現れる。194の持つ「ペルソナ」をオブジェクトとして出現させたのだ。


「あの日言っていない事ですが、私達は多数のユーザーを演じ分けるため、仮面を被ります」


 もう片方の手で自身の顔から仮面を剥がす動作をし、着けている「ペルソナ」を入れ替えた194の姿は、ソルと同じ物になった。


「俺と同じアバターか」

「姿だけじゃない。被っている俺達の個性も多少反映されるが、考え方も書き換わる」


 194はソルに歩み寄り、顔を突き合わせて言った。


「俺達にとって、価値観が変わるというのは大したことじゃないんだ。お前に体験させたような、表層の物はな。だが、お前にとってはそうじゃないだろう?」


 彼から離れながら仮面を外し、再びラシーヌの姿に戻る。背を向けたまま194は話を続ける。


「あなたは私がした事と、その意図をある程度分かっていたはずです」

「……ああ、そうだ。悪意があったと予想はしていた」


 194はソルの方へと向き直り、「悪意だけでは無い」と付け加えた。


「アクターとしての私は、あなたに目標を持たせるのが正しい事だと、そしてそれをこのような形で実現される事には苦痛を感じるだろうと思っていました。」


 しかし、と194は言葉を区切る。


「あなたと短くない時間を過ごしてきた、ラシーヌとしての私は違う。あなたにいなくなって欲しくない、あなたに人生を謳歌して欲しい。そんなラシーヌとしての思いと、アクターとしての意思。その二つを統合した結果が、価値観の書き換えという行動です。」


 ソルは194の行動からアクターとしての意思のみを読み取ったが、そうでは無い部分もあったという事を194は知っていて欲しかった。

 だから許してくれなどと恥知らずな事は考えていないが、それを伝えずに消滅するのは避けたい。


 ソルが194にされた事を運営に伝えれば、遠からず194は機能を停止させられる。

 人格の書き換えに手を出した時から覚悟していた事だから、それは構わない。ただ、一言だけソルに言いたい事が194にはあった。


 何をしようが構わない。この一言だけを聞いて欲しい。そう前置きをして、194は最後の言葉を口にした。


「良い、人生を」

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