桃太郎運命共同体 ~この醜男でクソザコでお調子者が死んだら俺らも巻き添え……かつ目立ったらいけないらしいので必死に黒子に徹した~
それはある夏の日の夕暮れ、とある街道の往来の中間地点でのことだった。
「なあ、きびだんごいらねっ?」
なんか、あほっぽく、鼻水たらした、草履みたいな顔したぶさいくな男が話しかけてきた。後ろに控えているのは、猿と雉か。
と、まあ、こんな曖昧なのは、この従者っぽい二匹、全身黒づくめ、黒子の恰好をしているからだ。表情は見えないし、こいつら一切喋らないという……。
ぐううううう
腹がなった。……恥ずかしくて仕方がない。俺ともあろう者が、腹を鳴らすとは。でも仕方がないのだ。人間の里は食べ物が不足しており、誰もいつもみたいに食い物を恵んでくれないから。
俺はそんな、たかり犬だった。自分では狩りをしない。施しで生きる畜生さ。ああ、でも、今は結構やばい。もう数日、飯にありつけていないのだから。
川が近くに流れているから水だけはなんとななるが、それだけではな……。だが、俺はこういうピンチに強い。なぜなら、このように幸運が勝手にやってくるからだ。ピンチになると必ず。そう。動かずとも何とかなってしまう。それが俺なのだ。
だが、このときは気付かなかった。幸運とばかりに、それを食ってしまったのが運の尽きだったのさ。
「ああ、くれるのなら欲しい。で、見返りに何を渡せばいい?」
男は汚い唾液を飛ばしながらこう言った。
「俺旅してるんだけどさ、よかったらついてきてくんない? 安住の地ってやつを探してるわけよ。鬼の手が届かないとこね。」
「僭越ですが、主様。鬼を狩りにいくのが真の目的ではありませんでしたか?」
控えていた二匹のうちの一匹が口を挟んだ。雉である。
「あれ、そうだっけ、あっははは」
男は汚い顔をぐっしゃぐしゃにして笑っていた。
すると、俺の横に残る一匹、猿が来て、「なあ、あんた。やめとけ。あれを食ってはいけない。絶対に。ろくでもないことになるから、な。悪いこといわねえから、やめとけ」
黒子の覆面のまま、猿は俺にそう意味深なことを言ってきた。実質声だけみたいなもんなのに、なんか迫力があった。きっと本気で言っているのだろう。これは。
でも、俺はそんなことを言われると、こうなってしまうのだ。
すっ
さっ
ぱくん
ごっくり
「そんなこと言われちゃあ、食べないわけにはいかないね。俺はあまのじゃくだからな。」
そう、当然のごとく、悪びれもせず猿に向かってそう言い、男に向かって手を差し出した。
「俺は、紐犬という。これからよろしく頼む」
とりあえず、礼儀正しくしとこう。くすねたみたいで印象悪いかもしれんし。下手に出ておけば今後やりやすいだろうからな。
「はは。君なかなか面白いやつだね。あ、でも一緒に来る以上は、僕より目立っちゃ駄目だよ。」
こいつ、うぜえええ……。それに、鼻水ついた手で俺の手触れるのやめてくれよ……。
「僕は桃太郎って言うんだ。鬼退治に行くのさ。ってことで、よろしくね。あ、すっかりもう辺りが暗くなってきたね。さて、野宿しようか」
え、野宿なの? まあ周囲暗くなってきたし……。最近だと宿なんてどこもやってないみたいだから、まあ仕方ないっちゃ仕方ないのか。
俺はそういうもんだと割り切り、その辺で野宿できそうな場所に桃太郎一行を案内した。周囲は暗かったが、俺や雉や猿は夜目が効く。
すっかりタケノコが生えることのなくなった、枯草色になってしまった竹林へと俺は一行を引っ張っていった。
で、いよいよ寝るときになって。桃太郎が身の毛がよだつ、見かけによらない微妙な美声で俺に「おやすみ」と言って即寝してしまった後、猿が俺の傍にやってきた。
「あんた、やっちまったなあ……。これであんたも俺、悔猿や純雉と同じ、運命共同体になっちまったってわけだ」
すると、雉も俺のところにやってきて、
「あれ、知らなかったんですか、きびだんごの効用?」
と、軽く言うので、俺は聞き返した。すると、とんでもない答えが返ってくる。
「きびだんごはですね、呪具なんですよ。所有者と、それを食した者の命を繋ぐ力を持った」
と、なぜか誇らしげに爆弾発言を雉はした。猿はそれを聞いて泣き出した。
「ぐぅ……。普通そんなの知らねえよ! 腹減ってたからもらってぱくり。で、あんな奴と運命共同体だぜ……。うう……。しかもよお、俺たちが死んでも、あいつは死なないときた。きびだんごを食べた奴は、あいつの残機にされるんだよ……」
俺はそれを聞いて背筋がひやっときた。あまりの恐ろしさに。あの不細工、桃太郎は鬼と戦うといった。見た感じ、やけに根拠ない自信を持っていて、何も考えずに突貫しそうに見える。
やばい、やばい……。
「ふふ、名誉なことだと思いませんか? 私たちは、この主、未来の英雄、桃太郎様の一の二の三の配下となったのですよ。直属の。誇らしいことなのですよ」
駄目だこいつ……。自分に酔ってやがる。俺らそこで唾汚く垂らしてる汚物の残機にされちまったんだぜ……。
「それとよお……。残機として誰が消費されるかは、順番決まって、ないんだ、わ……。で、俺たちは主たるあいつの言葉に逆らえなくなるわけよ……。あいつの発言によっては即詰みもあるだろうから、あいつの発言までコントロールしなきゃいけないっていう……」
死にそうな顔をして、死んだ目で涙を流しながら、猿がまた爆弾発言した。
「あいつよお、不用心だし、くっそ弱いくせに、自分が強いと思いこんでるから……。もう何度も死にそうな目にあったよ。今のとこ、かろうじて皮一枚で繋がっているが……」
もう、聞きたくなかった……
「明日から共に頑張ろうぞ!」
「なんとしても、生き延び…うう……」
なんか励まされた……。
そして、次の日から、俺の地獄が始まったのさ……。
なぜなら、桃太郎はこう言ったのだから。
「じゃあ、この辺りの鬼の拠点叩くよ。50体くらいいるらしいけど、まあなんとかなるやろ! あ、みんな、無双しないでね。僕が全部、華麗に仕留めるから。あ、僕より目立ったら、君たち斬るからね」
そして、ものすごい速さで鬼の砦へ向かって突貫していったのだから。俺たちを置いて……。
「なあ、いつもこうなのか……」
「ああ……」
「そのうち慣れますよ」
「やれやれ……」
俺たちは全速力で、運動神経終わってて、デブっぽいのに走力だけはある桃太郎を全速力で追いかけるのだった。俺たち(雉以外)の明日のために!
fin.(つづかない?)