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作者: 一兎

 オフィスにある、ヴォリュームが豊かな肘掛や表面を覆う起毛が見るからに柔らかそうなソファに顔をうずめるたび、私は昨日と今日の境目が分からなくなる。


 ――それと同時に家の匂いを忘れる。


 疲れを感じる、最近、穏やかな気持ちでいる時間がめっきりと少なくなった。「穏やかな気持ち」というと「リラックスしている」という意味合いにも取れるが、そればかりではなく「心を広く持ち、落ち着いた対応が取れる状態」という取り方の方がしっくりとくる。私は短気な性格ではないと自負するが、ここのところ声を荒げるなど自分で思う自分らしくない振る舞いを繰り返しているため、自らの状態を「疲れを感じる」と表現した。


 疲れていると、自分のことで精一杯になってしまう。他人を思いやる気持ちが後退し、「少しは私を思いやってくれ」と、寂しさに似た気持ちがやってくる。なぜ、こういった状況に自分はあるのか。その原因は分かっている。「眠い」のだ。しかし、原因が分かっていたとしても解決できないことはある。そして解決できない問題は、その人の本質になり得る。私は短気でいたいとは思わない。穏やかな気持ちでいたい。ならば、この問題を解決しよう。


 私の持論では「機嫌が悪い原因は相対睡眠時間に依拠する」。これの起源は「他者(対象となる人物)の機嫌が悪いのは私のせいではなく、当人の自己管理に問題があるのであって、私がくよくよする必要はない」という私なりの処世術にある。これは正面から責任を負うのではなくある程度人のせいにしストレスを緩和する策である……ものは言いようである。もちろん口に出して指摘してはいけない。


 私は自分を他者のように扱い、この論理に当てはめてみることで自らを許すことが出来た。私はソファの上で甘えている。ソファの上で睡眠を補っている。このソファのためにオフィスに。


――帰ろう。


 私はソファが与えるまどろみを抜け、立ち上がった。空はまだ暗い。

 さらば、魅惑のソファよ! 忘れかけていた家の匂いを嗅ぎに帰る。

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