中学生の恋愛
いよいよ楽しい中学生。と言いたい所だが、制服は結局女子のもの。当たり前か…
入学式の日まで一度もスカートなどはいたことない俺は嫌で嫌で仕方なかったが、登校拒否をするような勇気もないので、できるだけ長めにしていた。
小学の時からの友達に爆笑され、初日からまさに地獄だった。
それでも俺はポジティブなガキだったので、
2日目からはあまり気にせず、すぐに体操着に着替え中学生活を満喫しはじめた。
小学の時から、ボーイッシュで運動が得意、人を笑わせる事が得意だった俺は、性同一性障害という悩みを抱えながらも、明るい性格で、そこそこ人気者だった。家族以外の学校の友達にはカミングアウトもしていた。
「僕は女みたいだけど、男になりたいんだ。女でいたくないんだ。今は仕方ないけど、気持ちは男だ!」
と言っていた気がする。
入学して、何日かたち、クラスで仲良くなり始めた頃、ついに恋をした。
これはまさしく恋だ。
ある仲のイイ女の子の顔がみれなくなった。
部活の仮入部を決める頃…
「ユウ〜部活決めた?一緒に見学いかない?」
と言ってくれてるのはクラスで1番可愛いであろう女子の
神山 舞ちゃん。
「あー、いいけど、僕はバスケ部って決めてるから。」
ぶっきらぼうに答える。
「じゃあアタシもバスケ部見にいく!」
残念ながら、俺は戸籍上女なので、女子バスケ部に見学に行く事にした。
ぶっきらぼうに受け答えしたものの、俺の内心は嬉しくて仕方なかった。
これが初恋か…
所詮中学1年生。女同士、2人で歩いていても何もおかしな事はない。
それでも俺は嬉しかった。
「アタシもバスケ部にしよっかな〜」
…バスケ部入れ!バスケ部入れ!俺は念じていた。
でも出た言葉は、
「神山はバレーとかの方があってるって!
ほら、向こう楽しそうだよ。あっち見てこいよ。」
好きなコにいじわるする小学生の男子だ。
結局、神山 舞ちゃんはバレー部に入部した。
せっかく3年間の部活動を好きな子とすごせるはずが、
自分の不器用さに呆れる。
しばらくはバスケに燃えていた。
バスケをしている時は女である事も、神山 舞ちゃんの事も全てを忘れていた。
一年生は大体別メニューの基礎トレからなので、先輩と練習する事はないのだが、
俺は、バスケが上手かったようだ。
先生に呼ばれ、先輩に混ざり練習をする事になった。
…が、今度はバスケ部の3年の先輩に一目惚れ⁈
『ムチャクチャ可愛い〜♡こんな人がいるんかぁ。やる気でるわ〜』
なーんて言ってるのもつかの間。
一年生で三年生の練習に入れるのは本当に特例のようで、その日の練習終わりに三年生15人くらいに呼び出され、部室で囲まれた。
部長「先崎、あんた先生にちょっと気に入られたからって調子乗らないでよね。
一年の分際で生意気なんだよ。」
※※※※※※※※
いやーよく殴られた。買ったばかりのバッシュもズタズタ。
俺は気持ちは男なので女を殴る趣味はない。
特に反撃もしなかった。
そして俺は小学生の時、ガキ大将だったので、女に殴られる程度では大したことなく、先輩もついに殴り疲れて帰っていった。
例の可愛い先輩もその中にいて、俺を殴ってた。
俺の一目惚れも一瞬で終わった。
【花火大会】
俺の地元には年に一度ビックな花火大会がある。俺は毎年、家族と庭でBBQをしながら花火を見るのだが、
今年はクラスの女子に一緒に行こうと誘われたので、渋々河川敷まで見にいく事にした。
俺は人混みが嫌いなので、正直やめとけば良かった、家族といつもの花火大会を過ごせば良かったと後悔していた。
しばらくすると、友達2人は俺を置いてどっかに行ってしまった。俺はボーッと焼きそばをほおばりながら花火をみていた。
「ユウ!ユウ!ここにいたんだ!探したんだよ!」
顔を上げるとそこには花火の光でうっすら見える浴衣姿の神山 舞が立っていた。
「かっ神山っどうしてここにいるんだ?」
「花火大会だよ〜いるに決まってるじゃん!」
たっ確かに。俺はなんて質問をしてるんだろうか。
「ユウが来てるって聞いてたからずっと探してたんだよ。さっきそこで友達にあってここ教えてもらったの。横座っていい?」
「あぁ、いいけど、連れは?」
俺は相変わらず神山に対してはぶっきらぼうだ 笑
「向こうの方の席にいると思う。ユウの事探してくるって言ってきたから。」
と言って神山は俺の横に座った。
「何で僕の事探したの?用事?」
「何かユウ、最近学校で話てくれないから。
何でかなーって聞きたくて。」
「そうか?そんな事ねーよ。」
そうです。俺は一丁前に神山の前でカッコつけていた。
クラスではギャグを言い、笑いをとったりしている俺が、
神山の前だけクールなキャラを演じていたのだ。
買い込んだお菓子を食べながらたわいもない話をしていたが、
しばらくすると2人とも黙り込んだ。
「ユウ…キスしよっか…」
⁇⁇⁇⁇⁇⁇⁇⁇
えぇぇぇぇぇぇーーーーーー‼︎
何何?どういうことー?何でそうなるの?
俺はわけがわからなくなっていた。
もちろん中学1年の俺はキスなどした事はない。
そもそも女の俺にキスをしようという考えがわからない。単なるスキンシップか!?
明らかに同様している俺を見ながら、
神山はこちらを向いて眼を閉じた。
( うわーメッチャ待ってる、、何だこのシチ ュエーション。)
俺は震えながら神山の肩に手を置き、
そっと唇を重ねた…
本当に一瞬だった。
俺も神山も相当恥ずかしかったのだろう。
すぐに前を向き、花火に目を移した。
「キスしちゃったね…アタシ、ユウが初めてなんだよ…」
いやいやいや、俺もモチのロン初めてですから〜 大体まだ中1だしっ!
フワフワしたまま、友達もいつの間にか帰ってきて、花火も終わっていた。
俺のファーストキス。
最高なはずなのだが、全く覚えてない。
緊張しすぎていた。でもイチゴの味やレモンの味でない事は確かだ。
たぶん、焼きそば味だった…
【初?!彼女⁉︎】
夏休み真っ只中、俺は相変わらずバスケに明け暮れていた。
言わなくてもわかるだろうが、勉強は全くしていない。
花火大会後が気になる。
俺も気になる。
しかし、部活も違い、当時携帯はもちろん、
ポケベルさえもない。
神山 舞と顔を合わせるどころか、連絡をとることもなかった。
あるオフの朝、家の電話が鳴っている。
俺は電話が嫌いなので誰もいなくても絶対に出ない。
ずっと鳴っている電話。
しつこいなぁ、留守番機能になっていない。
親かもしれないのでめずらしく受話器を取る。
「…」
無言で出てみた。
親じゃなかったらすぐに切ろう。
「もしもし…神山といいますが、ユウさんいらっしゃいますか?」
ん?
受話器を置こうとする手をもう一度耳元に戻し、
「神山?ユウだけど。」
「ユウ?良かった、家にいたんだ、バスケ部の友達に聞いたんだけど、今日休みなんだよね?これから会えない⁇」
な、なんと神山の方から。
ラッキーすぎる。断る理由などない。
「あぁ、少しならいいよ。」
どこまでカッコつけるのか、本当に俺はアホだ。
とにかく、近くの公園で会うことにして電話を切った。
少しばかりオシャレをして公園に向かうと、神山はすでに待っていた。
「ユウ〜!休みの日に呼び出してごめんね。来てくれてありがとう。」
なっなんて可愛いんだ。いつも制服姿しか見ていなかった俺は、ショートカットの髪型にワンピース姿の神山 舞を見てドキドキした。
「いや、別にいいんだけど、何?」
ドキドキしてるくせにこの態度。相変わらずだ。
「あのさ、、ベンチ座ろっか。」
2人はひとまず近くのベンチに腰を下ろした。
「この間の花火大会からユウの事がずっと気になって…」
恥ずかしそうに神山は話し出した。
「あの日、どうしてユウとあんな事しちゃったのかな、ってずっと考えてたの。
アタシ…ユウの事が好き。」
「え…?」
どっひゃー!いきなりの告白⁇
ウソだろ?オイオイ。どうなるの?
心臓が口から出そうです。
「こんな事言っていいのか迷ったの。だってユウは女の子だし、
でもユウがあの日キスしてくれたから、
ユウの気持ちが聞きたくて…」
「…」
やばい。黙ってる場合じゃないぞ俺!
ここは男を出すしかない!(女だけど)
行け〜先崎優 !
「入学した頃から、神山の事が好きだった。
ずっと…ホントは僕から言えば良かったけど、言えなかった。カッコ悪いね。
今さらだけど…
神山の事が好きだ。」
神山は突然泣きだした。
俺は男は何度も泣かせてきたが、女を泣かせた事がなかったのでとても焦った。
「ど、どうして泣くんだよ。」
「…だって、嬉しくて。ユウ最近ずっと冷たかったから、絶対嫌われてるんだと思ってたんだもん。ユウのバカ‼︎ 」
パカパカと俺を叩く神山。
俺は泣いている神山を抱き寄せてそっとキスをした。
ヒューヒュー!
中1のくせにませてるな。
恋愛ドラマ見すぎなんじゃないだろうか。
「ユウ、もう一つ話があるの…
アタシ、2学期から転校することになったの。」
神山はまた泣いている。
「嘘だろ、遠いの?」
「うん、お父さんが転勤で横浜に引越す事になったの。」
田舎に住んでいた俺は横浜が何処かさえもよくわからなかった。
「手紙書いてもいい?」
そんな神山の声は俺にはもう聞こえていない。やっと好きなコに告白できて、キスまでして。
ここから俺のバラ色の恋愛人生がスタートするはずが…
一瞬にして崩れていった。
「そっか、そりゃ仕方ないよな、横浜わかんないけど、元気でな!
あ、そろそろ行かないとだ。ごめん、またな!」
俺は立ち上がり、溢れてくる涙をこらえながら足早に去った。
たぶん泣いてるのバレていただろう。
家に帰って号泣した。
夏休み終わり頃、友達から神山の引越し前日にみんなでお別れ会をすると連絡をもらったが、俺は行かなかった。
初めての告白。初めてのキス。初めての失恋。
俺の最初の恋は中1の夏であっけなく終わった。
【低身長】
初恋も終わり、しばらくは引きずってはいたものの、俺は忘れっぽいので、バスケ三昧になっていた。
そして何より、俺の身体が女であっても女の子に好きになってもらえるという事がかなりの自信になっていた。
しかし、次の悩みがあった。
2年になり、バスケ部でもエースになり、試合でも活躍していた。
でも、身長は140㎝ほどしかなかった。
そもそも、バスケを始めた理由が身長を伸ばしたいからと、女でもカッコよくなれるであろうという、不純な動機だった。
いっこうに背は伸びない。もちろん、背の順で並ぶと1番前だ。
牛乳も毎日2リットルくらい飲んだが、残念な感じだ。
何故身長の事ばかり気にしてるかというと、
初恋の後もそれなりに好きな子ができていた。
でもみんな俺より背が高かった。
だから好きになってもアタックできずにいた。
恋愛には消極的で中学時代は初恋くらいしかまともにしていなかった。