黄金の魔窟
男はヘルメットのヘッドランプを二度つけた。
「よしいいぞ、もっと降ろしてくれ」
遥か上方でゴンドラを操作する者に合図を送りつつ、男は未踏の大洞窟に挑むことの喜びに打ち震える。
赤い服に青いオーバーオール。
これは洞窟で遭難した場合に発見され易いよう、目立つ配色を選んだつもりだ。
そうとも、これは探索をスムーズに進める為の知恵だ。この業界じゃあ俺が初で、誰も真似なんかしちゃいない。
そう自負している。
洞窟探険家だとか、トレジャーハンターだとか、言い様は沢山ある。
それでもこんな職業は、一般社会じゃあ英英辞書の埋め合わせ程度でしかないのさ。
構うものかい。
この洞窟の奥地に眠ると言われる黄金ピラミッドを発見できれば、俺には十分な富と名声が、
辞書には「無謀な洞窟探検野郎」という項目が追加されるはずだ。
それはハイスクールの学生達にとっては、少なくとも「スペルト小麦」よりも意味のある言葉さ。
男は次は三度、ヘッドランプをつけた。
「よし、ここでいい。横穴が見える」
上方の操作者は暗闇の明滅を見て取り、ゴンドラを停止させた。
「随分と深いじゃないの。それに隣のイタリア人が作ったピザ焼き窯よりもイカしてやがる」
男は手元のブラスターがしっかりと充電されているのを確認し、横穴への一歩を踏み出そうとする。
あまりに偉大な冒険の訪れに、自然と足が震えてくる。
不随意な己が足を押さえつけ、無理矢理にでも一歩を踏み出してやろう。
ゴンドラから先にあるのは、四メートルほどに切り抜かれた無粋な円形劇場だけだ。
「やってやるかな」
途端。
男はゴンドラと横穴の隙間に足をすべらせた。
男は自身の背丈分ほど洞窟へと落下した所で、意識が途絶えることを意識した。
こうして男は死んだ。
To be continued...