津丹島 3
「うふ、うふふふ。あははははは。
ざまあないわね月鈴詩織ちゃん?
きゃはははは!」
「…」
晴れた煙、その先にあるのは腹に矢がささり身体が裂けた詩織だった。
「そっかそっか。びっくりしすぎて何も言えないんだね?あーあ、可哀想に。
じゃあ、そんな可哀想な月鈴詩織ちゃんを楽にしてあげないと。大丈夫。あなたが縛られることなんてもうないわ。そう、何も、何ひとつ貴方を縛るものはない。」
ゆっくりと詩織に歩み寄り、下を向いている詩織の頭に人差し指でそっと触れて、
「さようなら。詩織お姉ちゃん♪」
と言い、 小さい結界を脳内に入れた。
「が、があ。ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃ‼︎‼︎‼︎」
「うふ、うふふふ。」
と、都が笑っていると真後ろに詩織の姿がある。が、都はそれにきづかず、詩織は作り出したバットで首の後ろを殴る。
「っ」
たちまち都は倒れる。
「やっぱ、あんたまがいもんだわ。
本当の都ならあの時点で偽物の可能性を考えるもの。それに都は自分の結界を解いたりしないわ。」
「…まてよ?それなら、あの人も…。
奴らの狙いは次の…?」
「それなら辻褄が合う」
* * * *
…ふかふかで気持ちがいい。
疲れが抜けてすっきりしたこの感じが目覚めようとする私を妨害する。
不意にペラと紙をめくる音がする。
「やっぱりここか…」
聞きなれた、無意識にすがってしまう声に反射的に起き上がる。
「しおねえ。私、一体何を…?
それにここはどこ?」
回転椅子に座った詩織はくるっと都の方に向く。
「私の時間停止空間。
都、あなた乗っ取られてたみたいよ。」
「な、何に?」
詩織の手には開かれたままの本があった。ページを人差し指と薬指で止めて、都に突き出す。
何かの言語であるそれは、都ですら見たことはなかったがその文字は日本語にすり替わってゆく。
「悪魔に」
「…」
「悪魔の能力とは、人を騙したり、欺く物で、直接の攻撃手段にはなり得ない。
生物という生物を操る。それが悪魔の能力。
人間と契約することで生活に困らず、楽して生きていける。それをするのは私達にとって一番みじかな レショナルデビル。苦しみや悲しみを糧に生きる悪魔にとって、魔法、自分の力の半分を差し出すことで半永久的に食べ物を提供される。人間に手懐けられた悪魔とでも言おうかしらね。
問題なのはもう一種類ベルセルクデビル。
もともとの人を呪い、苦しめ、操ることで食を得る。本来の悪魔。
今回、あなたを操ったのはベルセルクデビルで間違えないはずよ。」
「…その根拠は?
私自身の問題かもだし、他にもそんなことする生物はいるわよ」
「根拠というより、推理ね。
あの人がおかしいのもきっと悪魔のせい。それを仕掛けるようにしたのはあいつ。
いったい、何を考えてるんだか。私にはさっぱり。他に方法あるだろうに。
あと、都の問題ってのはないわね。
貴方が打った矢で煙ができた。それなのに私の脱出を疑わないなんて、本気で勝負したい人間のすることじゃないわ。」
「そういえばしおねえ、どうやって脱出を?」
「自分の周りに結界を張ってタイミングを合わせて、あともう少しでささるところで拘束結界が緩むから偽の私を作って瞬間移動。
想定外だったのは矢の後も拘束結界が緩んでたこと。
結界と結界が衝突した一瞬、結界が消えることを都が知らないはずないし」
空間は一瞬で元どうりになり、島の外側が瞳に映る。
「待って、お姉ちゃん。大会、出るの?」
「ええ。きっと強制参加よ」
そう言って詩織は消えた。
詩織は学園内に戻り、掲示板をふと見る。
"魔法大会"のチラシだ。