4ー5 私の選択
「………。
私は決めなければならない。
読み札を選ばなければならない。
…酷い独り言だ。
本当は選択しているのに、他人の迷惑を考えて選びきれない。
心の中ではわかってる。優先順位なんて決まってるのに、最終確認で"はい"って言えない自分がいる。」
彼女、詩織は歩きながら静かにつぶやく。
長々たらしく、同じことを繰り返す。
歩く中で階段があったり、ドアがあったり、綺麗とは言えない造り。そして彼女が親しみを感じているところだ。昔、落書きして怒られてる子を、わたしが馬鹿にしてたな。最近、友達の所に深夜行って、怒られたな。広くてめんどいから、いつもは歩いたりしないのに。そう思いながらひたすら歩く。
「決めた。」
そうつぶやく。
本当は前から決めていた事に今やっと決心がつく。
広い建物からやっと脱出する。
扉を開けたそこは草原だった。
少し奥に小川が見える。
決して後ろを振り向かずひたすら歩く。
「おい。まてよ」
詩織の声ではない。
どこか幼さが感じられる気がする、男子の声だ。
「怒っているの?もしそうならごめんなさい。」
それでも後ろを振り向かず、詩織は返答する。
「どこに行くんだ」
ひたすら彼は追いかけてくる。
「ちょっと気分晴らしに」
それでもひたすら前を向く。
「なあ、行き先ぐらい教えろよ。
…お前はどっちにつくんだ。」
そう言い彼は彼女の腕を掴む。
「ごめんなさい。貴方を縛り付ける事をして。
でも、私がしないといけない。私しかできない事なの。」
彼女は歩みを止める、下を向いて答える。
彼は後ろを一瞬見ると一言口にする。
「いいんだ。お前がどこに行くか分かった。頑張れよ」
彼女は小川まで歩く。夕日は美しく、影にはホタルが光る。そんな綺麗な場所で彼女は立ち止まる。
「ねぇ、綺麗よね。
昔から変わらず。
覚えてる?むかし、ここを境界線にして、
国王ごっこしたの。
ほら、魔法で建国してどっちがいい国を作れるかって奴。」
でも、彼女は振り返らない。
「お前、記憶が戻って…。
ああ、覚えてるさ。
ここで終わりなんだな、俺らの国は。」
彼に横顔を見せながら、彼に返答した。
「ええ、そう。
ここからは私の国。奴らの国はあっちにあるわ。
だから、ここで終わり。」
ゆっくりと振り返り、彼に顔を見せる。
静かに雫を流し、頬を濡らす笑顔の詩織が彼に見えた。
そして詩織の視界には、予想どうりの人物「河端 青那」が見える。
彼女はまた振り返り、小川を越えた。
そこから少し歩くと門も越え、そのあとは誰も知らない道に入っていく。
その道に進んで振り返ると、草っ原だった。
道などないのだ。