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光と影  作者: k.moc
とある日常
2/3

A daily accident~日常の異変~

 ―三日前―

 俺、江波薫が着くと既にクラスは何やらざわついていた。

「おう薫。見たか?聞いたか?」

 早速興奮気味にこう切り出してきたわが悪友、中村和也に答えを返す。

「カズ、お前が言ってんのって例の死体のこと、だよな?まぁ詳しいことはよく知らないけど。」

 クラスの皆がざわつくのも無理はない。時は情報化の一途を辿る平成の真っただ中。日々リアルタイムに聞きたくも無い芸能スキャンダルやら耳を塞ぎたくなる政治家の不祥事、海外の凶悪犯罪のニュースが入ってくる世の中ではあったしそんなものは特に珍しくもない。“他人事”だからだ。

 しかし俺たちの住むこんな片田舎で死因不明の遺体が見つかるなんてことはそうあることではない。

「ちゃんとニュース見てねえのか?まあ確かにそこまで詳しくは言ってなかったけど。親父の話を聞くとどうも変死体らしい。なんでも全身擦り傷やら切り傷だらけだったらしいんだけどな。」

 ちなみにカズの父は駅前の交番に勤めるまあいわゆるお巡りさんである。どうやら事件現場の検証の際に動員されたらしい。

 カズの答えに俺は顔をしかめた。確かに体中に傷があるってのは変だけどそれが変死体?内臓の疾患とか持病とかが原因ってだけなんじゃ・・・。

 そんな俺の内心を見てとったようでカズは続けた。

「問題はその続き。傷以外に目立った外傷は無かった。ところがさ、死体解剖してみたらなかったんだよ。あるはずのものがさ。」

「何が無かったんだよ?」

「肋骨。一本だけな。手術かなにかのせいかもしれないそうだけど切開した痕は無いらしいからどうにも奇妙なんだよ。まぁ警察は今のところ外傷の原因を突き止めようとしてるらしいけど殺人の線は薄いと見てるらしい。俺が思うにだな・・・・・」

 しかしカズが言い終える前に担任が教室に入ってきたのでとりあえず話はここで途切れた。

「行ってみねぇ?」

 こうカズが切り出して来たのは放課後すぐのことだ。

「何処にだよ?」

 そう言ってカズを見ると、こいつニヤニヤしていた。

「現場だよ。現場!見たいだろ?」

「現場ってあの変死体のあった場所かよ?んなとこ行ったって警察が徹底的に調べた後だしどうせなんも残ってねぇだろ?だいたいそんな現場に入れるのか?」

 すかさずカズは答えてきた。

「何か面白いものあるかもしれねえだろ?無かったら無かったでゲーセンなりカラオケなり行きゃいいじゃん。もし無駄足だったら驕るからさ。まあ入れるかどうかは全く分からんが。どうにかなるだろ。」

 

 で結局俺たちは例の現場に来ていた。これが何処か遠くの土地なら絶対に勝手は違っただろう。しかし地元で起きた事件ということもあって俺自身少しは興味があったし放課後は暇だった。ならちょっとくらい友達に付き合うのも悪くは無かろう。そんな風に考えたのだった。

 幸いかどうかはわからないが警察は既に撤収した後のようで、テープやら立ち入り禁止の柵なんかは色々立てられていたりしたが中にはもう誰もいないようだった。

「んじゃま行きますか。」

「ん。まぁなんもないと思うけどな。」

 柵を乗り越えようとしたその時だった。

「待ちたまえ。何をしてる。」

 俺たちが驚いて後ろを見るとそこには一人の男が立っていた。長身でがっしりしていて身なりは地味だ。だがその顔立ちは身なりとは裏腹に横を通り過ぎれば思わず顔を向けてしまう、男の俺が言うのもなんだかかなり整った顔立ちの男で、年はまだ若い。おそらく二十代後半から三十代前半といったところか。

「え~っ、あのぉ、ちょっと興味があって近くで見たいなって・・・。お兄さんは警察の方ですか。」

 若干テンパりながらもカズが答えた。

「ああその通りだ。そんなことより立ち入り禁止の文言が見えないのかな。興味本意でこういう事件に首を突っ込んじゃいけないよ。さ、帰りなさい。」

 男はそういって手で促した。俺は黙って従おうとしたがカズはなにか引っかかったらしい。食い下がった。

「失礼ですけどこの事件の担当の方ですか。県警の方ですか。できたら警察手帳見せて貰えます。そしたら自分も引き下がります。」

「い、いや。そんなものを見せる必要はないだろう。ここは立ち入り禁止なんだ。分かったら早く帰りなさい。」

 なんだ、様子がおかしいぞ。カズも攻勢を強めて続けた。

「この事件はほとんど事故だと判断されてるはずですが、私服でここに張っていたって言うなら私服警官つまりは刑事さんということになる。おかしいですよねこんな事件で刑事さんが一人で張り込みなんて。だから見せてくださいよ、手帳。」

 そうだよ。確かに変だ。片田舎の殺人の線もかなり薄い事件ともいえない事件に刑事が現場で張り込んでるなんて。しかも一人で。男は一瞬躊躇う素振りを見せたが意を決したらしい。こう言った。

「分かった。身分を明かそう。本来明かすべきでは無いのだがしかしそうもいかないからね。僕は警察ではない。内閣府外局機関NPSC、すなわち国家公安委員会の斉藤隆一だ。これがその証明書だ。」

 俺はドラマで見た警察手帳以外の証明書なんてせいぜい運転免許証くらいしか知らないがおそらくこれは偽物なんかではないだろう。証明印やら書式をみてそれだけはなんとなく分かった。しかしこいつは凄いことになったもんだ。まさか国家公安委員会とは。政経の時間に習った。確か警察を統括する機関だったはずだ。後は何をするのかは良く分からんが、しかしそんなところから人間が来るってことはこの事件なにかあるのではないか。せいぜい暇つぶし程度に考えてたが、これはとんでもないことになるかもしれない。このとき俺はそんな期待がふつふつと沸いてきていたのだった。



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