Ⅲ◆困惑と旅立ち
本日二話目 !!
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ジリジリジリジリジリジリジリジリ………
あまりに耳障りな音に目が覚めた。
右耳すぐそばのローテーブルで、小刻みに震えながら鳴るそれを見て、げんなりした。
…まだ夜中の1時じゃん。
意外に響く金属音に眉をひそめつつ、目覚ましの頭部分を叩いて停止させる。
夢も見ず熟睡していたが、鳴り始めてからさほど時間はたっていないだろう。
お隣りさんに迷惑が掛かっていないことを祈りつつ、再び毛布に包まる。
もう、4時間近く眠ったようだが、まだまだ足らない。
昨日のダメージは大きいのだ。
すぐさま襲ってくる睡魔に身を委ね、さあ、夢の世界へ!と意識がまどろみかけたその時。
ジリジリジリジリジリジリ……
再び鳴りだすポンコツ時計。
……電池抜いておくんだった。
二度の睡眠妨害に、さすがの私も、苛立ちを抑え切れず、先ほどよりいささか乱暴に叩くと、電池を抜き、盤が下になるように時計を倒した。
すぐに買い替えなかった自分が腹立たしい。
仕方なく、携帯の目覚まし機能を使おうとベットをでて、玄関先に放置してある鞄を取りに行く。
別に無くても起きられるが、人間万が一ということもある。目覚ましは欠かせないのだ。
裸足で歩くフローリングの床はひどく冷たくて、殊更ポンコツ目覚ましが恨めしく思われる。
爪先立ちぎみで、胸の前で組むようにした腕を摩りながら、鞄を取って返すと、ベットの左手、ちっさいベランダに続く窓のカーテンが全開になっていて、満月がくっきり見えた。
アパートを囲むように私の背丈(154㎝)より少し高い塀があるので、道からまる見えというわけではないが、女の一人暮らしで、これはちと無用心だ。
何で今まで気付かなかったかな、間抜けだな、自分。
等と思いつつ、早速カーテンを閉めようと窓に近付いた。
その足が、止まる。
窓の外、地面からさほど高くない位置にある双つの月がそこにあった。
相変わらず美しいその肢体を私に向け、まっすぐ見つめてくる黒猫に、なにか言い知れないものを感じて、足がすくんだ。
この猫、絶対普通じゃない。
背中に伝う汗に今朝の感じたものは思い違いではなかったと実感した。
若干見上げるようにベランダに座るそれは、流れるような動作で、一歩踏み出すと、トンッと前足を窓にかけ、ミャアと可愛らしい声で鳴いた。
……開けろといいたいのだろうか。
心臓が早鐘のようにバクバクと脈を刻む。開けるつもりはないが、このまま突っ立っている訳にもいかないので、磨るようにして窓に近付いた。
すると突然、パァンッッ!!いう風船が割れたような音がしたと思ったら、スッと足元にさっきまで外にいた黒猫が現れた。
ぎょっとして数歩後退る。
窓をちらりと見れば、機械で開けたような円形の穴が開いていた。
えっ?なに?!
何が起きたのか理解できずに混乱している私を、それ以上は近づこうとはせずに見ている猫は、なんだか愉快そうに輝く瞳を歪めている。
棚にぶつかり、それ以上後退できなくなったわたしは、じっと、睨み付けるようにして目線を合わせた。
『クククッ、いい目だ』
突如聞こえた男の声に思わず窓を見るが、誰もいない。
『泣くかと思ったんだが、意外と根性すわってるねぇ』
声が思いがけず近くから聞こえるので部屋を見渡すが、私意外誰も……
まさか。
「…まさか、きみ…?」
私を見上げるそれは、先ほどよりいっそう顔を歪めて、ニタァと笑った。
……不気味だ。
『なんだ、叫ばないのか?つまらない』
と言いつつニヤニヤとしている猫、もとい化け猫に、自分ははたして夢でも見ているのだろうかと考えたが、窓から入ってくる冷たい風と足のかじかむような痛みが、そうでないことを伝えてきた。
「なにし…」
『いやぁ、やっと見つけた光の子がおまえみたいなのでよかったよ。実際喚かれたりしたら面倒だし』
「…は?」
何言ってるんだ、この化け猫は。やっと見つけたって…光の子??かずのこみたいに食べられるのか?
私を、食べるのか?
「生贄?」
混乱を極めたわたしの頭はなんだかとんでもない答えを導き出したぞ?
だいたい、表に出ないだけで、私だってかなり怖いんだ。どんどん目の前の生き物が恐ろしく見えてくる。
『おぉ。よく分かったな。そんなもんだ。人間でも、賢い奴は嫌いじゃない』
マジで?
へたっと力が抜けてその場に座り込む。化け猫と目線が近くなってしまったが、もう一度立つ気力は残っていない。
それでも、睨み付けるのだけは止めない。
泣いて請うても結果は変わらないだろうし。
せめて、この恐怖に屈しないという意志だけは示さなければ。
『クハハハハハッ!!気に入った!その態度!いいね、ホントに。向こうにやるのがもったいないくらいだ』
「………ここでない所で殺すの」
口にだしてみて、戦慄する。
無理だと本能で分かっているが、何とかして逃げ出せないものかとかんがえてしまう。
『はぁ?殺す?……あぁ、何も教えてないから勘違いもするわな。俺はお前を捕って食おうってんじゃないよ。まぁ、この世界からは消えてもらうが』
「なにがちがうのよッ!」
思わず大きな声が出てしまった。
命が掛かっていると思うと、興奮してしまう。
『まぁ、聞け。お前には俺の変わりに仕事をしてもらう』
……なんだか、話のベクトルが思っていたのと違うようだ。
私の表情から困惑を読み取ったのか、いくらか穏やかともとれる声音で話始める化け猫。威圧感はバリバリだが。
『いいか。まず始めにお前には拒否権はないから、今後のために黙って聞いていろよ』
「!っ…」
言い返そうとした言葉をすんでのところで飲み込んだ。
混乱するあまり、これまで感じていた恐怖が、怒りにとって変わりつつあり、私の沸点は異常に低くなっている。下手をすると、後先考えずに目の前の小さい化け物を投げ飛ばしてしまいそうだ。
落ち着け、私。 君は本来そんな子じゃないでしょ。
『お前には異世界に行ってもらう。行くだけでいい。何をしろということではなく、均衡を保つために俺の変わりになる存在が、あっちの世界にあればいいだけだから』
「……へ?って、え。なに?異世界って……………本気で言ってんの?」
なんのファンタジーだよ。
『なに、信じらんねえの。しゃべる猫が目の前にいるのに?ホント変な奴だな』
……なにその心底理解できないって顔は。
『お前が信じようが信じまいが関係ないが、ここで納得しておなかいと後で苦労すると思うぞ』
それはまあ、そうだけどさ。
化けとはいえ、猫に言われても説得力ないし。
そもそも化け物と異世界とでは次元が違うだろうよ。
「…事実だとして、なんで私なの。私も化け猫になっちゃうってこと?」
『化け猫って……俺は猫じゃないぞ。お前と話をするためにこいつの身体を借りているだけだ。』
「じゃあ、あなたは何」
理解不能なことが多すぎて、軽くキレぎみである。
『俺は、世界を管理する者。いうなれば、神だな』
もう、いい。もうなにも言うまい。
どちらにせよ、私には逃れる術がないのだから。
腹立たしいことだが。
黙り込んで全くしゃべらなくなったわたしを見て、納得したと思ったのか、自称神(様)は話を続ける
『で、何でお前かといえば、俺の変わりになれる器がお前しかいないからだ。何せ神の代わりだ。力を付与するにあたってその力を受け止められるだけのでかい器をもってる人間なんてそうそういるもんでもなくてな。いゃあ、世界中探し回ったってようやくお前を見つけた時は、流石の俺も感激した』
今朝、あの時公園を通らなければ、こんなことにはなっていなかったんだろうか…自分の薄幸ぐあいに泣けてくる。
『何て嫌そうな顔してんだ。神の使いとして行くんだ、名誉なことだと思って受け入れろ』
暴君だ。神ではなくて悪魔なのではないだろうか?
悪魔に憑かれるようなことした覚えはないが。
「そんな、のう、っくしゅんッ」
緊張しすぎて忘れていたが、外気が入ってくるこの部屋で、自分の格好は薄すぎる。今更寒さを感じてぶるぶる震えてしまう。
『あ…人間相手にこんなとこで長く話すぎたな。俺も暇じゃない。風邪を引かれる前にさっさと行ってもらおう』
「えっ、ちょっとまって!!まだ向こうの世界のこととか、何も知らないし。心の準備……仕事も引き継がなきゃだしッ!!」
行くのは不本意だが、それで人に迷惑をかけるわけにはいかない。しっかり始末をつけてからでないと……
『そうゆう面倒なのはいいから。気にすんな。神である俺が許す』
「何勝手なこといっ…」
『生活必要な言葉とかも与えといてやるから、まあ、適当に頑張れ』
そういうやいなや、私の足元に来た猫、いや神は、とんッと、窓に穴開けたときのように前足で床を叩いた。
途端にそこから黒い穴が広がっていく。
それは、わたしの座る床までも侵食していき……
「…ッいぁあああああぁぁぁ」
逃げる間もなく落ちて行った。
あぁ、落ちちゃった…
突っ走りすぎてちょっと作者もハァハァしてます。




