Ⅰ◆始まり
異世界トリップもの。
なるべく明るくサクサク主人公には頑張ってもらいたいと思いますが、この主人公、一人でぐるぐるしちゃうかもしれません。
らぶらぶハッピーエンドを目指します!!
あの日。
独りになった、
独りだと知ったあの瞬間。
誓ったことは、今でも褪せることなく、私を動かす力になってる。
ただ…
あの時から変わらずに、時折起こるこの痛みを、どう扱ったらいいのか分からなくて、酷く戸惑っている。
ただ、それだけ。
*******
「ふわぁ……」
もぞもぞ。
ベット横のローテーブルに手を伸ばし、4:29を指す目覚ましを解除する。
私は寝起きがいいのだ。
実際、この目覚まし時計が鳴った音なんて、買った時に確認して以来、一度も聞いたことがない。
……いや、つい昨日、時計をテーブルに置きそこなって起きぬけに踏ん付け、5分以上鳴り続けたんだった。
治ってよかったけど、盤にひび割れ出来てしまった。
買い替えようかな。
まぁ。とりあえず、やるべきことをやってから考えよう。
1DKのこの部屋は、安い割にはしっかりしてて住み心地もまぁまぁだけど、やっぱり12月の日の出前は寒い。
軽くベットの上でストレッチをして、体をほぐしてから動き出す。
吊りやすいんだよね。
顔を冷水で洗って、髪を結わう。
寝巻の格好そのままに、ダッフルコートを羽織って、まだ暗い玄関の外へでた。
誰もいない道を街灯に照らされながら歩く。踵から地面に着くように心掛けて、なるべく大股で一歩一歩確かめるようにいつもとおなじ道をいく。
アパート一階の部屋から、比較的狭い路地を抜け、商店街を避けて、小さなこの町を軽く一周。
それでも1時間弱は掛かるこの散歩を、一人暮らしを始めてから2年続けている。
一人暮らし自体、初めは反対されたのだ。最低このくらい出来なければ納得してくれないだろう。
まあ、こんな人気のない時間にやっていることを知ったら、それこそ連れ戻すと言われそうだが。
とはいえ、日の出前の暗闇は、いかに暗いとはいへ全く不安にならない。
未だ白んでもいない空も清んだような空気も、夜のそれとはまったく違うものに感じるのだから不思議だ。
冷たい風が耳に当たってジンジンするが、さして気にもせず足を進める。
携帯も何も持っていないが、それもまぁ。
代わりに護身のためと歌でも歌ったら、それこそ、近所迷惑。というよりこちらが不審者か、と。
背筋を伸ばしてスタスタとね。
道程を半分ほど行ったところで、寂れた公園をショートカットする。
垣根も木も無いような開けた公園だから大丈夫。
私だって、一応女としての危機感くらい持ってますよ。
ここには猫一匹隠れる所もありません。
………って、あ。
居ました、猫。
って、言っても所詮は猫ですよ。気にするほどのものじゃあ、ありません。
…なのに、なんだろう。背筋がゾワゾワするこの感じは。
目の前のそれは、公園中央で立ち止まり、私を見つめてくる。
野良にしては艶やか過ぎる黒。瞳は満月のような黄金色だ。
寂れた公園にはあまりに不釣り合いに見える、華奢な脚は、まるで汚れた地面との接面を少なくしているかのようにピンと伸びている。
ただ、キレイだ。と思うにはあまりに異質に見えたそれに凝視され、一瞬、自分がどこにいるのか忘れて固まってしまった。
砂の巻き上がる音もブランコの軋む音も何も聞こえない。闇に浮かび上がるような二つ光が私を捕らえ離さない。
……その光が歪んだ。
そう思った時にはもう、その呪縛から解放されていて、黒い尻尾が低い柵の向こうへ消えていくところだった。
私は、すぐに動くことも出来ず、ただ呆然と足跡も残っていない地面を見つめていた。
笑った?