侍女マリーと侍従ジェフの仕える関係(2)〜王宮の噂話
最近の王宮内、もしくは王宮を訪れる貴族の侍女達の間で話題になっている事がある。それはルーク王太子とその侍従ジェフが恋仲だという噂だった。ルーク王太子は金色の髪に濃いグリーンの瞳。ジェフは黒髪のオールバックでキレのある細い目をしていた。同性のしかもかなりの身分差がある、まさに実らない恋である。応援するだの悲しすぎるなど、2人の恋は彼女達に饒舌語られて広まっていった。
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噂の人物のひとり侍従ジェフは、最近恋仲になったばかりの侍女マリーと王宮医師団室で薬草の葉と実を分けてちぎる仕事をしていた。
「これは私の仕事だからジェフは手伝わなくてもいいのよ?」
「マリーと他で会う場所が無いだろ。ここなら気兼ねなく話せる。この場を借りられるんだ、仕事するさ。」
「真面目ね、良い事だわ。ところで自分の仕事の方はどうなの?」
「今まで休憩も無い位、忙しかったからね。だから休憩時間を多くもらえてる。」
「大変そうだったものね、良かった。ところで最近気になる噂を聴いたんだけど。」
「噂?どういう内容なんだ?」
「ジェフとルーク殿下が恋仲だって。」
「……俺と誰が?!」
「ルーク殿下。」
「何故そんな……あぁ、なるほど、合点がいった。最近、王宮にいる侍女達が妙な態度だなと思ってたんだ。そのせいか?」
ジェフは自分の額に手をあてた。
「もう彼女達に甘い声をかけてないわよね?」
「ここ一カ月は、思わせぶりな態度で相手を懐柔、情報を集める事はしていないよ。ただ、急に態度を変えたから怒る女性もいたけどね。」
「そう。彼女達に同情するわ。」
「君を好きになったのが原因なんだけどね。」
「まって…。ジェフの今までの行いの報いであって、私を原因にしないで。」
呆れ顔のマリーにきゅんとするジェフ。手を止めてマリーを覗きこむ。
「その顔に痺れる。」
マリーは急に顔を近づけるジェフの口に薬草を突っ込んだ。
「薬草は無いだろう。」
ケホケホとむせるジェフ。
「今は仕事中、場所をわきまえてよ。その薬草は胃薬になるものだから害はないわ。」
「いつになったら2人きりになれるんだか。……ところでさっきの俺と王太子はどんな話になってるんだ?」
医師団室で働いている医師見習いが近づいてきたのでマリーは声をひそめた。
「心して聞いてね。侍従ジェフとルーク王太子の叶わぬ恋の物語よ…」
そう言ってマリーは薬草を捌きつつ話始めた。
侍従ジェフとルーク王太子の悲恋はだいたい次のようなものだった。 ルーク王太子が一年前婚約解消となってから婚約の話がなに一つ出ないのはおかしい。公に出来ない恋人がいるのでは?と憶測がなされた結果、いつも側にいる侍従ジェフが怪しいとなった。そしてその証拠として、「ジェフを見る目が艶っぽい」「王太子の腰に手をあてていた。」「見つめ合う2人には入る隙間がない」等、妄想で言われていた。
「一体、どうしたらそうなるのか教えてほしいもんだな。」
ジェフは肩を落とした。
「明日、デイジーお嬢様の屋敷に来れる?お嬢様に相談してみない?」
ジェフは王太子に報告する前にデイジー嬢に会う事にした。
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デイジー伯爵令嬢は異世界からの転生者だ。その事を知っているのは王宮医師のセオドアだけだった。デイジーは転生前、日本にいた為、多種多様の漫画や小説を読んでいる。なので恋愛経験は少ないが、恋愛話には詳しいとマリーには伝えていた。デイジーが客間にいるとマリーがジェフを連れてきた。
「デイジー嬢、失礼致します。この度は私と殿下の件でご助力を宜しくお願い致します。」
「来てくれて嬉しいわ、座って頂戴。ルーク殿下には大変お世話になっているし、何か力になれると良いんだけど。……そうね、貴方なら噂になってもおかしくないわね。」
デイジーはジェフを見て頷いた。
デイジーはマリーに紅茶を三つ用意してもらい、ジェフの隣に座るよう指示した。。
「マリーからだいたいの話は聞いています。女性が大好きな悲恋の話、侍女の口に戸は立てられられません。そのうち令嬢達にも広がるでしょう。しかもお相手が殿下となれば薄い本……いえ戯曲になり得るわ。」
「本?…戯曲ですか?」
青ざめるジェフを見てマリーは笑いを堪えた。
「私、戯曲には詳しいの。大衆向けの戯曲では色々な悲恋を扱ってあると聞いています。勿論、噂から出来た話しであれば多少名前を変えるとも聞いています。」
「その前になんとかなりませんか?殿下にも報告しなければなりませんし。」
「あなた達、恋人なのよね?」
マリーとジェフがハイと頷く。
「皆に公表したらどうかしら?それが一番簡単でしょう?マリーはどう?嫌かしら。」
「……相手がジェフですし、あまり注目されたくないですが、仕方がないですね。」
マリーは想像してうなだれた。
「公表といってもどうされますか?」
ジェフが真面目な顔で質問する。
「噂には噂で上書きしましょう。次の王太子妃主催のお茶会で貴方達の仲を見られる、すると侍女からでも噂が広がる筈よ。そうね……お茶会では集まった令嬢の侍女達が、庭園脇で各々控えるでしょ、そこを狙ってマリーとジェフが………。」
「キスをしましょうか。」
真顔のジェフがさらっと言う。
「全力で拒否します。」
マリーの言葉にジェフが横を向き二人で睨み合う。
「……貴方達、本当に恋人同士なのよね?」
デイジーの疑問に二人同士にハイと頷いた。
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庭園でのお茶会当日、ジェフはマリーに花束を渡す手筈になり、そして愛の告白をする事になった。こっそり告白するつもりが、垣根越しに見られていたという筋書きだ。お茶会がスタートし少し経つとジェフがマリーを見つけ離れた位置からこれから行くと合図をした。垣根越しに他の侍女が二人程いたので丁度良い。
デイジーがお茶会を抜けだし、庭園脇にいくと丁度ジェフがマリーに歩み寄るところだった。しかしその時、駆け足で走ってくる人影が見えた。マリーに駆け寄る侍従のマックだった。マックはマリーと仲が良く、赤茶の癖毛で童顔という可愛いらしさがある。
マックはマリーに近づいたがつまづいて転びかけた。
しかし側にいたジェフがマックの細い腰に手を回しスッと抱き上げた。その時、持っていた花束を持たせ、両手でそっとマックを地面に下ろした。転びかけた恥ずかしさにマックは花束を持ちながら赤面した。
近くで侍女たちの小さな黄色い悲鳴が上がり、デイジーが自分の額をペチンと叩いた。
「役者が完璧。……計画は失敗ね。」
え?とマリーとジェフがデイジーと周囲を見ると、思った以上の侍女達がいてざわめいていた。
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後日、ジェフと童顔の可愛らしいマックが恋に落ち、三角関係になったのでは?!という噂が広がった。そして、王太子とは身分差から別れる筈だと、最後はジェフとマックが恋をしているで落ちついたようだった。
ルーク王太子と侍従ジェフは王宮の執務室にいた。ジェフが今回の噂を報告し終えた所だった。ルークはこめかみに手をあて聞いていたが顔を上げた。
「では、私とジェフの恋は実らなかった訳だな。」
「身分差のある悲恋だったそうです。」
ルークはなんとなく気まずいため息を吐いた。
「そう言う話が出回るとは、娯楽が少ないのかもしれないな。戯曲の舞台を増やすとか、脚本家も探すか。」
「戯曲についてはデイジー嬢がかなりお詳しいようでした。」
「そうか。ではデイジー嬢の協力を得て戯曲の件は話を進めようか。あと、今回の三角関係の噂は綺麗に潰す。私の縁談に支障があってはならないからな。」
ジェフは笑顔のルークに相当お怒りだと感じた。
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ルーク王太子が動き、ルークとジェフの悲恋関係の噂は消えた。そして、戯曲の舞台を増やす為、ジェフは奔走する羽目になった。マリーはジェフと会えない日々が続いた。
そんなある日、マリーは薬草畑のベンチにマックと座っていた。デイジー嬢にベンチで待つように言われていたのだ。薬草畑はすっかり整備され、中央にはブロックを敷き詰め、丸いテーブルと椅子がいくつか置いてある。薬草畑は庭園のように姿を変えていた。二人が話をしていると、ジェフが久しぶりに顔を見せた。
「俺の元恋人と今の恋人がそろっているな。」
ジェフはそう言いながら二人の間に座った。
「マックがレオ様の為にハーブを取りに来たのよ。心を癒す効果のあるものがあるんですって。」
マリーがマックを見て説明した。
「僕、ハーブを頂いたのでこれで失礼します。ジェフさん、噂の件はもみ消してくれてありがとうございました!」
マックは可愛い笑顔で席を立ち、去って行った。
「マック、あれから随分モテて困ってるらしいわ。男女問わず。」
「男女問わず……大分影響が残っているな。それは早く相手を見つけないと。」
「それよりジェフ、ちゃんと食べてる?忙しいからと食事を疎かにしたらダメよ。」
マリーはポケットからクッキーが入った包みを渡した。ジェフは礼をいってポリポリと食べ始めた。
「忙しくて愛しい君に会えないのが辛い。」
クッキーをモグモグしながらマリーを見た。
「モグモグしながら言う事なの?」
ちょっと呆れてマリーが言うと、ジェフは手を軽く叩いてクッキーくずを落とした。そして自分のポケットから小さな箱を出して片膝をついた。そして、きょとんとするマリーにかしこまった。
「貴方とこれからの人生を歩んでいきたい。マリー、私と結婚して下さい。」
小さな箱には指輪が入っていた。
「…え。一体どういう事?!」
「もう一度言う?」
「いえ…はい。宜しくお願いします?」
すると周りから拍手が巻き起こった!びっくりしたマリーが周囲を見ると、いつもの王宮医師見習いの皆や仲間の侍女達、セオドア医師、デイジー嬢まで隠れていたようで出てきた。そして、マリー達に花びらを巻き、笛やラッパで音楽を奏で始めた。
「え?!何??」
「デイジー嬢に協力してもらったんだ。素敵な演出を考えてくれた。」
「もう極端なのよ!!でも嬉しい…。ありがとう。」
マリーはそっと指輪をはめてもらった。二人に笑顔がこぼれる。
帰った筈のマックも現れ、マリーとジェフにそれぞれ花束を渡した。そして薬草畑は集まった皆に飲み物やお茶菓子が振る舞われ、知った顔も見知らぬ顔もワイワイと音楽や歌が響いた。
END
「伯爵令嬢は異世界転生前の片思いを実らせたい」のスピンオフ「侍女マリーと侍従ジェフの仕える関係」の後日談になります。しかし、独立した短編として読めるように書き上げました。
読んで下さった方、ありがとうございます!もし良ければ評価を下さると嬉しいです。




