第8話 特攻露西亜丸《ぶっこみろしあがん》
命からがら林から逃げ出した俺たちは急いで孤児院に駆け込んだ。俺たちの住む孤児院は林からほど近い場所にあるため真っ先に襲われる可能性が高いが、レンツェル神父が居るこの場所がこの近隣で最も安全な場所であるのも間違いないのだ。
「コボルトが?」
「3ひきいました。みんなゆみをもってました」
そう言ってレンツェル神父に矢が刺さったままの背負いかごを見せると、レンツェル神父は眉間に皺を寄せる。
「……エリック! 街の兵舎に走ってください。コボルトが数匹、街近隣に現れたと。エリザ、近くの住民たちに避難する準備をと伝えてください。準備が出来たら老人や子供はこの孤児院に。健康なものは街の城壁付近まで走る様に」
レンツェル神父は年長の二人にそう指示を出し、残りの年長者には窓や出入り口からの侵入を防ぐために家具を移動するよう言いつけて自室へと戻っていった。
先ほど出くわしたコボルトたちがハグレだったら簡単だ。こいつらを仕留めるかどこかへ行くのを待てばいい。だがもしも先遣部隊だったら、その後ろには更に大勢の略奪部隊が居る可能性が高くなる。コボルトの略奪部隊は苛烈で、時には村を住んでいる人ごと奪い去っていく事もあるという。
サニムはこの近隣で最大の都市だ。当然抱えている兵力だってそれなり以上のものになる。そのためサニム自体が陥落することはないと思うが、人口が多い分、城壁の外に町が広がっているためそこが襲われる可能性は高い。そして俺たちがいる孤児院は城壁の外で、城壁の外にある建物ではかなり大きな部類になる。略奪があれば間違いなく襲われる場所の一つだ。
もしここが襲われれば。そして略奪を受ければ、幼く労働力にもならない妹はコボルトどもに食われてしまう可能性が高い。絶対に、命に代えてもここを守らなければいけないのだ。
やがて自室から出てきたレンツェル神父は煌めくような白い鎧を身に纏っていた。腰に差した銀色の剣の持ち手には見事な装飾が施されており、腰に佩いた状態でもかなりの一品だというのが分かる代物だ。
年少組がどよめく中、年長組は驚きもせずにレンツェル神父を一瞥したあとそれぞれの作業へと戻っていく。この反応を見るに年長組はレンツェル神父のこの姿を知ってたんだろう。
鎧を着たレンツェル神父は普段の優しい風貌からは想像できないほどに険しい表情で周囲を見回した後、俺に視線を向けて声をかけてくる。
「タロゥ、森では犬人避けの薬を撒いたとザンムが言っていたが、それはまだ出せるか?」
「はい。まだいけます。でもあくまでいやがらせくらいにしかなりません」
「それでいい。相手の攻め口を多少誘導できれば良いからね」
特攻露西亜丸は安い奴なら大瓶700円とかで買えるからな。さっきは緊急時だったため小さいもっと安いものを呼び出したが、時間が経過して信力も回復してきた。大瓶を一つ買って周囲にばら撒いておけばこの近隣はどこもあの苦い薬品だろうなという嫌な臭いに包まれるはずだ。
その有様を想像したのか、実際に嗅いだことのあるザンムが嫌そうな表情を浮かべるが命がかかっているんだし勘弁してほしい。
「私は先行して森を見てきます。兵士が来たらその旨を伝えて指示を仰ぎなさい」
レンツェル神父がそう言って孤児院の建物を出た瞬間、森に向かって走り始める。その速さは四つ足で走っていたザンムですら比べ物にならない速度で、瞬くほどの間に神父の背中は見えなくなった。時速何キロ出てるのかも分からない位の速さだ。
ステータスが上がると、ここまで差が出るのか。知識としては知っていたが、実際にレンツェル神父の本気の動きを見ると100倍近い差があるんだと肌で実感することが出来た。この世界の強者は、それこそ普通の人間が何人束になって挑んでも敵わないような人たちなんだろうな。
神父が森に向かってから十数分後。完全武装の兵隊さんたちが孤児院にやってきた。隊長さんらしいワイルドなおじさんにザンムと一緒に呼ばれると、コボルトの兵士と遭遇した時の事を話してほしいと言われたためその時の現場の状況と気付いた事。それとレンツェル神父にも見せた矢の刺さった背負いかごを見せて話すと、隊長さんはうん、と一つ頷いて背後に立つ兵士さんに声をかける。
「ハグレがこんな上等な矢玉を使う訳がない。少なくとも大規模かは分からんがコボルトの群れが近場に居る可能性は高いな」
「森林を走れる部隊を呼びましょうか?」
「普人種の部隊だけにしろよ。狼人の兵士は使ったら神父に間違えて殺されかねん……坊主たち、お手柄だったぞ」
隊長さんはそう言って、俺とザンムの頭を撫でて孤児院を出ていった。
それから近隣の老人子供が避難してきたり、応援の兵士さんが孤児院に来たり、孤児院の近くに巻いた特攻露西亜丸のせいで狼人種の兵士さんがひっどい顔をしていたりと色々あったが、空が夕焼けに染まる頃合いには血まみれになったレンツェル神父がおなじく血まみれになった隊長さんたちと一緒に帰ってきて事態は一先ず収束した。なんで血まみれかって? 全部返り血だったよ。
孤児院の年長組は手慣れた様子で持ってきた湯桶で鎧についた血を流し、レンツェル神父が鎧を脱ぐのを手伝っている。
「みんななれてるね」
「こういう騒ぎのときはね。神父さまがいっつもいの一番にでてくのよ! 外街の守護騎士様なんだから!」
俺の言葉に年長女子組のリーダー、炊事担当のエリザが我が事のようにそう言うと、レンツェル神父は照れくさそうに苦笑を浮かべる。その苦笑を見て、スキルなんかでこの人の人格を疑っていた自分が少し恥ずかしくなった。自分の為じゃなく街の為に命をかけられる。この人はやっぱり誰からも頼られる人格者なのだ。
「エリザ。あまり褒めないでください。私はただ信仰に従いよき隣人たちを助けているだけなのですから」
「でもでも神父さま! ちいちゃい子たちにも神父さまのすごいところをおしえないと!」
「いいんですよエリザ。私はただマリア様の教えに従っただけ……」
そう言ってレンツェル神父は言葉を切り。両手の指と指を組み合わせてマリア教の祈りのポーズをとった。
「異端に走った犬っころどもを一匹でも多く地獄に叩き込むのは全マリア教信徒の務め。一日の朝にパンを食べるのと同じように、ごくごく当然の事なのですよ」
朝にパンを食べるように異端をぶっ殺すのは当然じゃないんじゃないかな。思わず口から出そうになった言葉を必死に飲み込んで、説法を始めたレンツェル神父とお目目をキラキラさせたエリザからゆっくりと離れる。気分はある日森の中を歩いていたら戦車でも潰せそうな人食い虎に出会った気分だ。
ああ、無性にラーメンが食べたい。今夜は奮発してとんこつラーメン半チャーセットに餃子もつけようかな。
タロゥ(5歳・普人種男)
生力9 (9.8)
信力15 (15.3)
知力4 (4.9)
腕力3 (3.6)
速さ5 (5.1)
器用5 (5.3)
魅力4 (4.1)
幸運2 (2.8)
体力4 (4.7)
技能
市民 レベル1 (21/100)
商人 レベル0 (27/100)
狩人 レベル0 (78/100)
調理師 レベル0(62/100)
スキル
夢想具現 レベル1 (33/100)
直感 レベル0 (2/100)
近隣の地図
https://kakuyomu.jp/users/patipati123/news/822139838339258832




