第38話 ハンマーじゃねぇ。両手で……剣……か
カッチン工房の中は広かった。店に入ってすぐに既製品と思わしき剣や槍等が入った樽が幾つか置いてあり、壁際には鎧や兜といった防具に靴などが並べられている。奥の方には工場へ繋がる道のようなものがあり、その前でエプロンを身に着けた女性が箒をぱたぱたと動かしている。また奥側の壁際ではで5,6人の職人らしき人物がハンマーを振るったり、皮に針を通したりとそれぞれ忙しそうに働いているのが目に入る。
懐かしい風景だ。父親を迎えに、この店の出入り口をくぐった記憶が思い起こされる。
「あら。あんた……あんた、タロゥかい。タラの息子のタロゥだね! おやまぁこんなに大きくなって!」
店の暖簾をくぐった俺たちに店の奥の方から声がかけられた。箒を持っていた女性だ。たしか、この店の女将さんだったかな。父親を迎えに来た時に甘い砂糖菓子をくれた覚えがある。
「タラの息子だって!?」
「おいおい、本当だ。見覚えがある。孤児院に預けられたって聞いてたが大きくなって」
「見て見ろよ。目元がタラにそっくりだ」
「顔は奥さんだなぁ。タラに似なくてよかった」
女将さんの声を聞いて、奥の方で作業をしていた職人たちがわらわらと集まってくる。口々に好き勝手な事を言いながら大きな手を俺の身体に手を伸ばし、頭に手を伸ばしてもみくちゃにしてくる職人たちに目を白黒させていると、女将さんがごほん、と咳ばらいを一つした。
「こら、あんた達。仕事ほっぽりだして何してんだい。タロゥは私が可愛がるからアンタ達は引っ込んでな!」
「そらねぇよ姐さん」
「ちぇっケチだねぇ」
女将さんの鶴の一声で職人たちは不承不承という体で仕事に戻っていく。その後ろ姿にしっしと手を払う様な仕草をして見せた後、カッチン工房の女将さんは笑顔を浮かべて俺たちに向き直った。
「久しぶりだねぇ、タロゥ。タラとリリティアが亡くなって以来かねぇ。うちの亭主がアンタとシスティを連れてレンツェル様の所に預けたって聞いた時はなんでうちで引き取らないんだって大喧嘩しちゃったけど。あんたがこんなに立派に大きくなってるなら亭主が正しかったのかねぇ。ああ、ほら。そんな入り口に突っ立ってないでこっちに来なさい。後ろの子らはお友達かい? 二人も一緒にお上がりなさいな。砂糖菓子でも食べるかい?」
「あ、いえ。今日は買い物に来たので」
にこにことした女将さんのマシンガントークに適切なタイミングで言葉を挟み、会話の主導権を握り返す。パルメザンギルド長相手の会話で学んだテクニックが早速役に立っている。三日間の経験がここで活きることになるとは思わなかった。いや、本当に。
そんな表の騒ぎを聞きつけたのか。奥の通路から姿を現した髭もじゃの背の低い初老の男性が、ふんっと鼻息を荒くしながら声を張り上げた。
「おい、おい。なんの騒ぎかと思えば言いたい放題言いやがって。ありゃあ街の取り決めで仕方なくっつったろうがよぉ。三日も飯ぃ抜きやがって」
「なんだい、大の大人がたかか三日くらい」
「死ぬわ! ぶっ倒れるかと思ったぞ!」
女将さんの物言いに苦言を呈しながら男性はこっちを見て、俺の姿を認めるなり目を見開き。つかつかと歩み寄ってきて、パン。と肩に手を置いた。分厚く堅い手。父親と同じ、鍛冶師の手だ。
その手で俺の肩にぐっと力を籠め、うん。と小さく頷いた。
「……しっかりと鍛えられた付き方をしている。手のマメは、得物を振り回したものだな。ハンマーじゃねぇ。両手で……剣……か」
「分かるんですか」
「分からいでか。俺ぁ街一番の鍛冶屋だ。少なくとも、そう自負している。触りゃ分かるさ……お前の身体は、頑張りものの身体だ」
そう言って髭もじゃの男性は。この工房の主、カッチンさんはにかっと笑顔を浮かべた。
「とっても素敵な黒髪ね! フードで隠すのはもったいないわ! 帽子ならこの皮の帽子なんてどうかしら。耳の邪魔をしないように調整もできるわよ!」
「え。えぇ……どうしよう。ね、タロゥどう? うち、似合う?」
「うん。似合うと思うよ。ネネの黒髪によく映える」
「耳をじゃましないならーおれもぼうしほしいなー」
「そっちの熊の坊主! お前さんのガタイなら帽子より兜なんてどうだ! 鎖を編んでつくるコイフなら成長に合わせてサイズを変えることも出来るぞ!」
「えぇー……なやむなー。タロゥはどう思う?」
「うーん。決まった大きさの兜や帽子だとザンムはすぐ小さくなっちゃうかもだから、大きさがある程度調整できるものなら良いんじゃないかな」
一緒に来たネネとザンムの装備品を買いたいと伝えると、女将さんや職人さんは口をそろえて頭部用にしなさいと言ってきた。これは年齢的にすぐに成長して体が大きくなるから、一品物を買ったとしてもすぐに使えなくなる可能性が高いという事と、頭部用のものならそこそこ値段を抑えて良いものが買えるからだ。
最初は遠慮していた二人も、実際に物を見ると考えが変わったのか。あれがいい、これはちょっとと商品を手に取り、自分が欲しいと思えるものを見繕い始めた。うんうん。ショッピングを楽しんでくれているならなによりだ。あ、後で妹のためになにか小物でも買っていってあげようかな。
「ちょっとでかめの靴に買い替えちまえ。詰め物をして誤魔化せば暫く使える。森を走るんなら履物には気を使った方が良いぞ。」
「あー、やっぱりサンダルじゃダメですか」
「ダメじゃねぇがケガを考えればな。冒険者の死因で一番多いのは街の外で動けなくなるパターンだから、それを避ける意味でもサンダルよりは靴のが良いぞ」
二人の買い物の相談に乗りながら、俺の方もこの機会にと靴の購入を検討している。今までは外街の市場で売っているサンダルを履いていたんだが、これあっという間に底がすり減るから消費が凄いんだよね。
まぁザンムが言われているように靴とかは体の成長と共に履けなくなるけど、俺の場合はザンムと違って普人種だから、履けなくなったら市場で売ってしまって新しいものを買うという手が使える。熊人種とかと違って普人種は人口が多いからね。
「なぁタロゥ」
「はい?」
良さそうなサイズの靴を見繕いながら、カッチンさんが話しかけてきた。座ったままそれに応えると、カッチンさんは昔を思い出すように目を細めて俺を見て、小さく笑顔を浮かべる。
「この街の取り決めじゃな。10になるまでの孤児は、親族以外は引き取っちゃいけない事になってんだ。昔、俺のじいさんくらいの時代に人買いが横行した事があってな。親を殺して、その子供を引き取るつって売りさばく外道がいたのよ。それ以来、10に満たない孤児は街の子供として孤児院で育ててるんだ」
「はい、知ってます」
この法律が孤児院に10歳以上の子供がほとんど居ない理由だ。この法律が原因で俺と妹は外街の孤児院に入って、そこで餓死しかけた。適用されるのは街で生まれ育った市民の子供だけで、基本的にそんな子供は街の中に親族が居るから、実は孤児院に預けられる数はそれほど多くないって事も含めて知っている。俺の父さんと母さんは二人とも親族が居なかったんだよな。
まぁ、あの餓死しかけた件に関しては中抜きしてた役人と経営能力が皆無のレンツェル神父が悪いからこの法律どうこうにはそれほど興味はない。俺にとってはもう終わった話なのだ。レンツェル神父にはなんだかんだ引き取って育ててもらった恩があるし、中抜きした役人はこないだ町の広場で首くくられて死んでるしね。
俺たちが餓死しかけたという件はおそらくカッチンさん夫妻には伝わっていないだろう。孤児院出の子供は年長になると自分で働きに出て食い扶持を稼いでいたし、彼らが余裕がある時に年少組を食わせる形でこれまで孤児院は回っていた。俺が餓死しかけたのは妹に俺の分の食い物を渡し過ぎて加減をミスったからってのが大きいんだ。そしてこの事実は明らかにサニム政府の失態だから公表しちゃいけない話になる。この件を理由に折角サニム政府から多めに支援を引き出してるのだから、公表しても良いことなんてないからね。
「だが、10を過ぎればその縛りはなくなる。引き取るなり、徒弟として抱えるなり出来るようになる」
「そうですね。うちの孤児院でも、今年10になるピーターがパン屋のリッキーさん所で養子になってます」
俺の言葉にカッチンさんは頷いて、靴を探す手を止めて俺を見た。
「どうだ、タロゥ。10になったとき、うちの工房に来ねぇか? お前が来ればシスティをお前が引き取れば良い。タラの息子だ、皆歓迎する。鍛冶の業だって、俺がタラの代わりにお前に仕込んでやる」
そう語るカッチンさんの目は、真摯だった。
タロゥ(6歳・普人種男)
生力24 (24.0)
信力80 (80.0)
知力23 (23.0)
腕力26 (26.0)
速さ24 (24.0)
器用23 (23.0)
魅力23 (23.0)
幸運13 (13.0)UP
体力24 (24.0)
技能
市民 レベル3 (62/100)
商人 レベル2 (97/100)
狩人 レベル3 (46/100)
調理師 レベル3 (89/100)
地図士 レベル2 (15/100)
薬師 レベル1 (49/100)
我流剣士 レベル2 (6/100)
木こり レベル1 (96/100)
楽士 レベル1 (61/100)
教師 レベル1 (3/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル1 (70/100)
鍛冶師 レベル0(0/100)NEW
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)ー
直感 レベル2 (8/100)
格闘術 レベル0 (56/100)
剣術 レベル2 (53/100)
弓術 レベル1 (10/100)
小剣術 レベル1 (10/100)
暗器術 レベル1 (10/100)
フォークダンス レベル5(20/100)
フォークマスター レベル0 (20/100)




