第36話 豚骨ラーメン替え玉スタイル
神聖歴579年 秋の中月 15日
「久しぶりだなパルメザン。息災のようでなによりだ」
「そちらこそ元気そうだね、オイスター。お嫁さんは元気かい?」
「ああ。相変わらず尻に敷かれているよ」
真っ黒に塗装された帆船から降りてきた熊人種の男性とパルメザンギルド長が固い握手をかわす。北方にある城壁都市レキストンの冒険者ギルド長、オイスター氏は冒険者上がりのたたき上げであり、現役時代にパルメザンギルド長と幾度か組んだ事があるそうだ。
同じ釜の飯を食う、という言葉が前世にもあるが共に行動をしたことがあるというのは人間関係では結構大きくて、この二人がギルド長に就任した辺りからサニムとレキストンの冒険者ギルドは様々な形で協力関係にあるらしい。
今回のオイスター氏の訪問もその協力関係構築のための一つ、というかここ最近騒がしい山脈地帯の動向を話し合い、互いのギルドで情報共有となにかがあった時の援助を互いに行おう、というものだそうだ。
軽く聞いただけでも非常に重要な会談だということが分かる。俺も無関係の立場であれば「上層部も仕事してんだなぁ」くらいの無責任な放言が出来たんだが……残念なことに今回は間近で二人のやり取りを見ている関係者枠だ。
俺を巻き込みやがったライラはしれっと受付業務がーという理由でこの場には居ない。あいつもいつかキャーン言わせたるかんな(漆黒の意思)
「ああ、オイスター。この子がうちの期待の新人だよ。今回の会食は彼が手配してくれているんだ。サニムで最近話題の料理だから、楽しみにしてくれ」
「タロゥです。本日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む……おいおいパルメザン。この子、幾つなんだ。明らかに10は超えていないように見えるが」
「もうすぐ7つだったかな。大丈夫だよオイスター。彼の料理はこの街の5大商家の一つ、イールィス家の当主が直接契約を交わすほどの代物なんだ。今回だって彼が冒険者ギルド所属だからって頼み込んでようやく叶ったものなんだよ」
「そ、それほどのものか……イールィス家と言ったらサニム海軍の。いったいどのようなものがでてくるんだ……」
紹介されて頭を下げただけなのに勝手にハードルがガンガン上がっていっている。なんだこれは一体。頭がおかしくなりそうだ。
まぁ、どれだけハードルが上がってもラーメンだったらクリアできるのは自明の理なわけだが、今回の目的はただ美味い! と叫ばせるだけではない。あくまでも会食はこの後の会談が上手くいかせるための潤滑油。ラーメンで頭が一杯になって会談がポシャったりしたら目も当てられない。
今回の会談は互いの街の防衛計画において非常に重要なものだ。山脈で活動するようなものは一部の狩人を除いたら冒険者か冒険商人くらいであり、彼らがもたらす情報は少しでも多く欲しいのが現状である。互いの街の冒険者が持ち帰る情報を二つのギルドで共有できれば、情報の確度は間違いなく向上する。
ここ最近の騒動で孤児院の警備体制は去年とは比較にならないほどだが、それでもコボルトの軍勢が突如として襲い掛かってくればどうなるか分からない。事前に山脈の情報を集め、緊急事態に備える。これは絶対におろそかに出来ない事だ。
孤児院を守るため。ひいては妹の安全を更に確実なものにするため。この会談は絶対に成功させる必要がある。そのために必要なものは自然さだ。ふと気づいたら食べ終わっている、ただただ残るのは満足感だけ。次の会談につなげるという意味ではこれ以上のものはないだろう。
会食の為、冒険者ギルドの一室を飾り付けた臨時の食堂で、向かい合わせに座る二人のギルド長に一礼。銀製のお盆に乗せたラーメンを、二人の前に置く。
「ほぉ!」
「これは……なんとかぐわしい匂い」
臨時の食堂の中を、豚骨スープの匂いが満たしていく。
「豚骨ラーメン替え玉スタイルです。食べ終えた後、物足りなければお声がけください。新しい麵を追加させていただきます」
「ほぉ! それは嬉しい。ううむ、では早速」
「タロゥくん。これはフォークで食べるものかい?」
「ええ、それで大丈夫です。熱いと感じた時はフォークで絡めて、そちらのレンゲという食器の上で冷ましてお食べください」
「おお、こいつは珍しい形の匙だな」
そう言いながらオイスター氏はウキウキとした様子でフォークとレンゲを持って、不格好ながらも麺を掬っていく。ふーっ、と息を数回吹きかけ、ぱくりと冷ました麺を一口。
「……これは、面白い! いや、美味い!」
「ううむ、予想以上だ! レイラが食べたがるのも分かる気がするよ」
ラーメンを頬張り喝采をあげる二人のギルド長に「そうだろう、そうだろう」と頷きながら、二人が食べる量を見極める。豚骨ラーメン替え玉スタイルと長ったらしい名前で呼んでいるが、これは本来は長浜ラーメンと呼ぶべき存在だ。ただこの世界には当然存在しない地名のため、直球の名前を勝手に当てはめただけである。
長浜ラーメン。それは博多ラーメンの源流の一つとも言われるものであり、魚市場で働く人たちのために作られたラーメンだ。細麺のためあっという間に茹で上がり、注文されればすぐに提供できるラーメンで店に入った瞬間から店員が勝手にゆで始め、食券を買った瞬間にラーメンがトレイにのって出てくる。また麺が伸びやすいという特徴もあるため量を少なくして代わりに替え玉というお替りで量を補うという工夫に工夫を凝らしたラーメンだ。
「むっ、もうなくなってしまった。タロゥくん、その。少し物足りな」
「はい替え玉一丁!」
こちらに視線を向けられた瞬間に、お盆に隠していた風に見せて夢想具現した替え玉をオイスター氏のラーメン器にシューッ! 超! エキサイティン!
なんてハイテンションでは流石に行わないが、替え玉が欲しそうな気配を感じたら即座にラーメン器に替え玉を入れるのが長浜流ラーメン道である。
もちろんこんな事をしてたらどんどんスープが薄くなっていくのでラーメンのたれという物があり、味が薄くなったと思ったらこれをスープにかければ良い。ラーメンを食べる。替え玉をする。ラーメンたれを入れる。この繰り返しで長浜ラーメンは無限に食べることが出来るのだ。ラーメン版わんこそばなんて呼ばれるくらいだからな。わんこそば並に皿を重ねることも訓練を積めば可能になる。
ただ、今回の会食では流石に無限ループラーメンを発動させてはいけないため、二人の顔を伺い満足そうな表情が見えたら替え玉を止めなければいけない。ごくごく自然に箸が進むため二人は気付けば食べ終わっていた状態だと錯覚する。完ぺきな計画だな。
「……馳走になった」
「ああ。大満足だ」
替え玉用の器を積み重ねて、二人のギルド長はふぅぅ、と大きく重い息を吐いた。オイスター氏が15皿でパルメザンギルド長が8皿か。ザンムだけかとも思っていたが、やはり熊人種は種族として大喰らいらしい。
「いやぁ。まさか肉以外のものでここまで食べれるとは思わなかった。パルメザン、お前の言った通りだったよ」
「ああ。僕も、こんなにものを食べたのはいつ以来だ。現役の頃の食いだめでもここまで食べてなかったんじゃないかな」
二人の大満足、という反応に内心でガッツポーズをとりながら、二人の前の食器を片していく。今日の仕事は完ぺきに熟せたようだ。それに今回の会食で使ったラーメン器はイールィス家から借りているという事になってるからな。このままイールィス家に運んでいって全部ロゼッタに売りつけるから、臨時収入にもなる。それに会食を用意した仕事料も入ってくるからたった一日で随分と銀貨が積もる事になるだろうな。どうしよう、妹の新しいおべべでも買ってあげるべきだろうか。
「すいすいと食べれてなぁ。うっぷ。ちょっと食べ過ぎちまった」
「そうだねぇ」
「会談は後回しにしてちょっと仮眠するか」
「それもいいねぇ」
「……えっ」
なんて余裕をぶっこいていたらいい年したおっさん二人は、シェスタシェスタと言わんばかりに深く椅子にもたれかかって目を閉じてしまった。いや。いやいや貴方達このギルド長会談のために忙しい時間を縫ってわざわざ船まで出して顔を合わせたんでしょうが。てか早いよオイスター氏、もうイビキかいてんじゃん。
策士、策に溺れるという言葉がある。回りすぎる頭も時には逆効果になるという意味合いの言葉で、まさに今の俺を指す言葉と言っていいだろう。まさか、ラーメンが美味すぎて食べさせ過ぎたせいでギルド長二人がそのまま昼寝に入るなんて。見抜けなかった、このタロゥの目をもってしても!
タロゥ(6歳・普人種男)
生力24 (24.0)
信力79 (79.8)UP
知力23 (23.0)UP
腕力26 (26.0)UP
速さ24 (24.0)
器用23 (23.0)UP
魅力22 (22.0)
幸運12 (12.0)
体力24 (24.0)
技能
市民 レベル3 (61/100)UP
商人 レベル2 (93/100)UP
狩人 レベル3 (46/100)UP
調理師 レベル3 (75/100)UP
地図士 レベル2 (15/100)UP
薬師 レベル1 (49/100)UP
我流剣士 レベル2 (6/100)UP
木こり レベル1 (96/100)UP
楽士 レベル1 (61/100)UP
教師 レベル1 (3/100)UP
パチン・コ流戦闘術 レベル1 (70/100)UP
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)ー
直感 レベル2 (8/100)UP
格闘術 レベル0 (56/100)UP
剣術 レベル2 (53/100)UP
弓術 レベル1 (10/100)UP
小剣術 レベル1 (10/100)UP
暗器術 レベル1 (10/100)UP
フォークダンス レベル5(20/100)UP
フォークマスター レベル0 (20/100)UP




