第35話 本職の料理人に頼みましょうよ
神聖歴579年 秋の始まり月 9日
夏も終わり、今年も秋がやってきた。
「あーきあきあき」
「ご機嫌だな、ザンム」
「ごきげんだよー! だってあきだもん!」
薬草を摘みながら肩を揺らして歌うザンムは終始ご機嫌だ。この上機嫌の秘密は、この季節になると食べられる秋の味覚にある。薬草が生い茂る群生地の傍は不思議とキノコや木の実が多く生えるエリアで、大喰らいのザンムでも満足できるくらいに森のご馳走が食べられるのだ。
ザンムの身長は今年に入ってからもぐんぐんと伸びており、上背は長身のレンツェル神父よりも高くなっているほどだ。熊人種は基本的に成長が早く、大柄になりやすい人種らしいのだが、その中でもザンムは頭一つ抜けた成長速度らしい。
当然、他の孤児と同じ量の飯ではザンムの腹は到底満たすことは出来ず、罠猟で取ったアホ鳥や森の幸、それに稼いだ金で外食したりして必要なエネルギーを賄っているのだが、秋の森はそんなザンムが満足できるくらいに食料が豊富に存在する。
「あんまり一か所で食べると良くない。森の幸は人間だけのものじゃない」
「うんーわかったー」
とはいえ、食料が豊富だからとどんどん食べて良いわけではない。この森の幸は森にすむ生き物全てが厳しい冬を越すためのエネルギー源になるのだ。森の維持管理を行う森番の娘として、ネネがザンムにそう伝えると、ザンムは素直に頷いた。必要なエネルギーを賄えるならどこで食べてもそれほど変わりはないからだ。
今日の分の薬草を採り、小腹を満たした後に街への道を歩く。ここつい10日前までは重く感じた服の重りも今ではすっかり慣れ親しんだ重さに代わってきている。恐らく数日中にまた重りの追加があるだろう。
そろそろ鉄板でも張り付けるくらいの重さになっているんだが、そんな重さをぶら下げて大丈夫な服はあるんだろうか。そう疑問に思いながら森を抜けてギルドに向かうと、ギルドの職員であるライラが俺の姿を見つけるなりぶんぶんと腕を振ってきた。
非常に嫌な予感がするが、無視するともっと嫌なことが起きそうな予感もする。直感スキルさん、こういう時に仕事をしないで欲しいんだが。
「おお、良い所に帰ってきたタロゥ! ちょっとギルド長の所まで付いてこい!」
「ギルドちょー? タローすごいね」
ライラの言葉にザンムが我が事のように喜んで俺の肩を叩く。大人よりも怪力の熊人種の肩たたきはポンポンとかではなくバンバンって感じだが、成長した俺のステータスはそんな大人の張り手みたいな一発も余裕で受けることが出来る。ただしとっても痛い。
痛い上にギルド長からの呼び出し? 冒険者ギルドは兵士や傭兵なんかが行わない外の仕事を一手に請け負う何でも屋のようなギルドだが、この世界は人間の生存圏から離れれば離れるほど命の危険が格段に増していく。当然、街の外で活動する冒険者たちは一部を除いて腕っぷし自慢が多く、それを束ねるギルド長も荒くれ者の元締めみたいなものであり、権力も暴力もそれなり以上に備えているサニムでもトップ層に位置する権力者だ。
そんな人が俺みたいに薬草摘みしかしてない子供を呼び出す? どう転んでも厄介なことになりそうだ。
「やあ、よく来てくれたねタロゥくん」
ライラに連れられて冒険者ギルドの奥深くへと歩いていき、その中でもひときわ豪華なドアの中に入る。そこには上質な木製の執務机だけが置かれた殺風景な石壁の部屋で、机に座っていた壮年の男性は俺の姿を見た瞬間ガバっと立ち上がってそう口にした。
この人が俺が所属する冒険者ギルドのギルド長、パルメザン・ソースだ。
彼は机から立ち上がった後に俺の前まで歩いてきて、俺の右手を取り、ぎゅっと力強く握手してきた。思っていた対応と違ったため少し面食らっていると、パルメザンギルド長は俺の表情をくみ取ってくれたのか我に返ったように「ああ!」と小さく叫び、俺の手をはなす。
「すまない、感極まってしまってね。私は昔からこうなんだ。ついつい感情に任せて行動してしまうから、レイラにはいつも笑われてしまうんだよ。レイラは知っているよね? 君がレイラと一緒になって夏祭りで行ったフォークダンス大会は最高だったね! あの時ほど議会の一員ではない事を悔やんだ事はないよ。ああ、すまない。また話がそれてしまった。どうにも話を纏めて伝えるというのが苦手でね。腕力なら自信があるんだがこう人と話すというのはそれとはまた別の才能が必要なんだよ。大人って難しいよね。私は気軽な冒険者家業が性に合っているのに多少家柄が良いからってみんなが私に厄介ごとを押し付けてくるんだ。5年前までは私も君と同じで一冒険者として冒険していたんだよ。あの森の向こうの山々があるだろう? あの山脈地帯の地図の半分は私が所属したパーティで作成したものなんだ。私のパーティーは皆が地図作成のスキルを持っていてね。ああ、君が森の中を描いた地図は見たよ! 兵舎に提出している奴。あれは良いね、どこに何があるのかを記入してあるから森で必要な物資を手に入れる時に非常に役に立つものだ。あ、もちろん公表とかはしないよ。あれはあくまでも君たちパーティーが作った成果物だからね。ギルドで管理運用する事はあっても他者にゆだねるようなことはしないとも」
壊れた噴水のように話し続けるパルメザンギルド長に来た事を早速後悔しながら、ライラに視線を送る。ライラは俺の視線を受けた後、小さくため息を吐いてこほん! と少し大きめな咳ばらいを行った。
その咳払いで再び我に返ったかのように「ああ!」とパルメザンギルド長は小さく叫び、ぽりぽりと自分の頭をかく。
「いやはやまいったな。少し私も興奮しているみたいだね。君とは一度じっくり話してみたいと思っていたからつい。っと、また話がズレてしまう前に本題を話しておこう。ライラに怒られてしまうからね」
「私は怒ったりしておりません」
「ははは。そうだね、ライラはいつも優しい。ええと、そう! そうだ。君に冒険者ギルドのギルド長として一つ依頼があるんだ。レイラから聴いたんだけど、君は冒険者でありながら非常に美味な食事を作ることが出来るそうだね?」
そう前置きを置いた後、パルメザンギルド長は俺の目を見ながら口を開いた。
「近日、北部にあるレキストンの街の冒険者ギルド長がサニムにやってくるんだがね。うちのギルドからのもてなしとして、ぜひ君に料理を作ってほしいんだ。あの噂の、ラーメンというものを」
パルメザンギルド長は俺の手を取り、目を見て真摯に頼んでくる。無茶を言っているのは分かっているのだろう。俺のような下っ端相手に組織のトップが頭を下げているのだ。これ以上にないほどの誠意を込めて。
そんなパルメザンギルド長の誠意に答えて、俺は小さく頷いて答えを返した。
「本職の料理人に頼みましょうよ」
「本職の料理人からあんなのいきなり作れるかって断られたんだよねぇ」
俺の火の玉ストレート正論に、パルメザンギルド長はため息とともにそう答えた。まぁこの街でも1,2を争う腕前のイールィス家のシェフですら再現するのに数か月かかった料理だからな、ラーメン。食べた事が無い奴が伝聞だけで作るのは流石に難易度高すぎるか。
作るのは良いし、この機会に更にサニムの上層部にラーメンを布教出来るのも望むところなんだけども。なぜか未だに胸の奥をくすぶり続ける嫌な予感が終わらないんだよね。どうしたもんかな。
タロゥ(6歳・普人種男)
生力24 (24.0)
信力75 (77.0)
知力22 (22.0)
腕力25 (25.0)
速さ24 (24.0)
器用22 (22.0)
魅力22 (22.0)
幸運12 (12.0)
体力24 (24.0)
技能
市民 レベル3 (47/100)UP
商人 レベル2 (75/100)UP
狩人 レベル3 (38/100)UP
調理師 レベル3 (51/100)UP
地図士 レベル2 (3/100)UP
薬師 レベル1 (41/100)UP
我流剣士 レベル1 (92/100)UP
木こり レベル1 (93/100)UP
楽士 レベル1 (38/100)UP
教師 レベル0 (96/100)UP
パチン・コ流戦闘術 レベル1 (58/100)UP
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)ー
直感 レベル2 (3/100)UP
格闘術 レベル0 (38/100)UP
剣術 レベル2 (38/100)UP
弓術 レベル0 (99/100)UP
小剣術 レベル0 (99/100)UP
暗器術 レベル0 (99/100)UP
フォークダンス レベル5(15/100)UP
フォークマスター レベル0 (15/100)UP




