第123話 ザス! ザス! ザス!
神聖歴583年 夏の終わり月 7日
ザス! ザス! ザス!
おおよそ20人ほどの門下生が掛け声に合わせて木で作った人型、木人に拳を打ち込んでいく。パチン・コ流では拳の握り方と振るい方は最初に教え、体に叩き込む項目だ。下手なやり方だと拳を傷めるから、ちゃんとした突きを身に着けるまでは指導員が傍に付いてみっちりと教え込むんだ。
そしてある程度突きが出来るようになったら今目の前で行われているような集団での突きの練習に混ざる事が出来るようになり、ここから門下生と言われるようになる。それまでは門下生ですらない練習生という扱いだね。
彼ら門下生の指導は基本的に一人の指導員が4~5人グループを見て行っていく。ちょうど今、指導員の一人である豚人種のトンテキさんが突きを行っていた門下生の一人を見咎めて、列から連れ出していくように。一人だけ突きの型が崩れていたから、何かしらトラブルがあったのだろう。拳でも痛めたかな。
「トンテキさん。トラブルですか?」
「ぶひぃ! 師範代。ええ、どうも彼の拳の皮が、かなり大きく破けてしまったみたいで」
「ああ」
トンテキさんの言葉を受け、門下生の手に視線を向けると拳から酷く出血をしているのが見て取れた。木人のような硬いものを殴る以上、避けては通れない怪我の一つだ。破けた拳は治った時により頑丈になっていくため、これを繰り返す事で分厚く丈夫な拳を作る事が出来るんだが。
「皮が破けた状態での木人稽古は悪影響がありますね。君は拳が治るまでは型稽古にしよう。治療するから手を見せてくれ。トンテキさん、彼は俺が見ておきますんで他の門下生の指導をお願いします」
「はい、師範代!」
「よろしくお願いします」
トンテキさんから引き継いだ彼。カルデラで入門した狼人種の男の子の手を見る。狼人種は全体的に毛量が多いのだが、その毛の中から肉が見えるくらいに皮が破れてしまっている。これはかなり痛むだろうな。
庭先にある井戸からきれいな水を汲み、まずは手の汚れを水で落とした後にアルコール消毒液を振りかけて消毒。少年がギャイン、と痛そうに吠えるがそこは我慢してくれ。次に備蓄してある薬品の中で外傷に効果がある塗り薬を取り出し、傷口に塗った後に柔らかい布を当てて包帯を巻きつける。
「さっきも言ったけど、暫くは拳は使わないように。代わりに歩法や型稽古の時間に充てるから」
「わかりました! ありがとうございます!」
元気よく返事をした狼人種の少年は、バタバタと道場の中に駆け戻り木人稽古に混ざろうとしてトンテキさんにつまみ出されてがみがみと叱られていた。元気よくわかりましたって言ってたのは何だったんだ。もしかして俺、舐められてる???
「今日も賑やかね。カルデラでの門下生も大分増えてきたじゃない」
「ああ。ありがたいことにね。今日は稽古に?」
「そうね……そうしたい所だけど、別件があるわ」
道場の中へ戻ろうかという時、玄関先からロゼッタが声をかけてきた。ロゼッタもパチン・コ流の門下生であり、学業が忙しいためサニムに居た頃ほどではないが、カルデラに来てからも定期的に稽古には顔を出している。なんなら大学でのうっ憤を稽古で晴らしている様で、熱心さはサニムに居た頃以上かもしれない。
そろそろ初伝を渡しても良いかもしれないな。そう思っていたのだが、どうやら今日は違う用件のようだ。
「ラーメンレストランの二号店をカルデラに!!?」
「ええ。サニムの方で教育していた店長候補に目途が立ったの」
ロゼッタの用件は、正に福音と呼ぶべき内容だった。数年前、俺が立ち上げに関わったラーメンレストラン一号店はサニムでも最高のレストランという位置づけの名店となっており、カルデラでもその名は知られ始めている。その一号店で修行した料理人を料理長として、イールィス家はカルデラでもラーメン旋風を巻き起こそうとしているのだ。
これは……これは戦争になる。ラーメンがカルデラの外食産業をぎったぎたのめっためたにする大戦争になるぞ! ラーメンがネゼ・カルデラ全体の食品の頂点に君臨する時が来たのだ!
「いや、流石にそうはならないでしょ。サニムでもブームにはなったけど他のお店が潰れたわけじゃないもの」
「そういう気概で戦わないと天辺なんてとれねぇんだよ!!!」
「う、うん。それはそうかもしれないけど」
ズイっと顔を寄せてそう叫ぶと、ロゼッタは俺の気迫に押されたのか視線を逸らした。ダメだな。俺程度の気迫に押されるようじゃ魑魅魍魎蔓延るカルデラの外食産業を制するなんて不可能だ。これは俺がテコ入れしてラーメンをネゼ・カルデラ都市国家連合群の国民食にするしかない。帝国と並んで東部諸国すべてでラーメンが食べられる世界。最高かよ。ラーメンは最高だったわ。
「と、とにかくね。そういう予定なんだけど、幾つか困ったことがあるから相談したいのよ」
「聞くぞ。解決する。早く言ってくれ」
「だ、だから顔が近いってば……ええと、まずは人員よね。サニムからは料理長と見習い料理人が二人、店舗の支配人、それに給仕長とベテランの給仕5名が来るんだけど、当然これだけじゃ店舗は回せないわ。せめて倍は人数が居ないと。それに役職持ちの者以外は1年でサニムに戻る予定だから後に残る人員をこっちで育てないといけないの」
「あー、まぁ、そりゃそうか」
サニムに地盤があるならサニムに帰りたいだろうしな。俺も道場の事がなければサニムに戻って妹と触れ合いたいし。いや、3日で往復できるんだからそろそろ帰っても良い頃合いじゃないか? サニム総督なんて名ばかりの役職だが、一応サニムのお偉いさんな訳だし研修だって言い張って3日くらい戻るのもアリかもしれん。いや、戻るか。そろそろ妹と一緒にラーメンを食べたい。心の中の予定表に書き込んでおこう。
「それで、人を雇わなきゃいけないってのは分かったが、俺に相談って話になる理由は? 人を雇うっていうならそれこそお前の領分だと思うんだけど」
「雇うだけならすぐできるけどね。誰でも良いって訳じゃないのよ。ラーメンのレシピは門外不出だから、それを扱う人間は当然信頼のできる相手じゃないと」
「ふむ……信頼。まぁ、それは分からんでもないが」
「もちろん信頼した相手が裏切るなんて事はいつだって起こり得るから完全に信じるなんてのは難しいけどね。でもただその辺を歩いてる人を雇うよりは見知った、ある程度関わりのある相手を雇った方が信じやすい。そうでしょ?」
ロゼッタはそう言いながら、道場でザス! ザス! と叫びながら木人に拳を打ち込む門下生たちに視線を向ける。
ああ、なるほど。
「つまりロゼッタはうちの門下生をリクルートしたいわけだ。よござんしょ、お話をお聞かせくだされ」
「リクルー? ええと、まぁ雇用したいって訳なら、その通り。え、良いの?」
「働き口を探してる奴なんて山ほどいるからね。まぁ、当人たちの希望も聞いた上でになるけど」
新興の武術道場に通う奴なんて冒険者だとか武張った仕事に付いてる奴か付きたい奴ばっかりだからな。特にうちの場合は俺の有名や釣り師としての名声で何故か人が集まってる所があるから、定職についてる奴なんてそう多くない。そこに街中でそこそこ高給取りになれる仕事が降って湧いたら、多分やりたがる奴は多いんじゃないかな。
あ、もちろん紹介したらうちにも旨味はあると考えて良いよね? うちも指導員を食べさせるためにカツカツだからさぁ。同じサニム生まれ同士、もちつもたれつで皆で幸せになろうよ。ね?
お気に入り・☆評価よろしくお願いします!
タロゥ(10歳・普人種男)
生力68 (68.0)UP
信力135 (135.3)UP
知力53 (53.0)
腕力72 (72.0)
速さ70 (70.0)
器用60 (60.0)
魅力64 (64.0)
幸運37 (37.0)UP
体力72 (72.0)
技能
市民 レベル4 (88/100)UP
商人 レベル3 (100/100)ー
狩人 レベル4 (66/100)
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル3 (100/100)ー
薬師 レベル3 (51/100)
剣士 レベル6 (21/100)
木こり レベル2 (70/10)
楽士 レベル3 (58/100)
教師 レベル3 (89/100)UP
パチン・コ流戦闘術 レベル6 (100/100)ー
テイマー レベル2 (92/100)UP
絵師 レベル3 (90/100)
語り部(紙芝居) レベル5 (100/100)ー
水兵 レベル2 (45/100)
執事 レベル3(100/100)ー
乗馬 レベル0(37/100)UP
スキル
夢想具現 レベル3 (100/100)ー
直感 レベル5 (15/100)UP
パチン・コ流格闘術 レベル6(100/100)ー
パチン・コ流武器術 レベル6(100/100)ー
飛行術 レベル3 (69/100)UP
フォークダンス レベル5(100/100)ー
フォークマスター レベル1 (100/100)ー
念話 レベル2 (72/100)
女たらし レベル6 (93/100)UP
野獣の眼光 レベル0(21/100)
ネゼ・カルデラ式マナー レベル3 (46/100)
釣り師 レベル4(45/100)UP
英雄スキル
夢想具現仏恥義理
カルデラ近隣地図
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