第111話 俺の家族は、どこだ……!
見た目だけを言うならば、エルヴィンは普通の普人種の男だった。船乗りがよく着る水夫服だけが彼を船乗りだと教えてくれる。それぐらいの特徴のない、初老の男だ。
だが、たった一つ。それを見れば間違いなくこの男が尋常ではないと教えてくれるものがある。
目だ。
エルヴィンの目には意思があった。エルヴィンの眼差しには力があった。ただ見据えるだけで気圧される何かがエルヴィンの瞳にはあったのだ。
「サニム……総帥? 知らねぇな。サニムは商人の寄り合い所帯の町だろう」
「ああ。今もそうだ。だが、ムリーナスト内海で帝国と商いを広げてな。海の治安を守るのに海軍を率いる奴が必要で、俺がそれだ」
俺の言葉を聞いて、エルヴィンは目をひくひくと動かしながら視線を周囲に向ける。警戒しているんだろう。気狂いとも呼ばれる男だ、慎重に言葉を選ぶ必要がある。エルヴィンを知る人間からは「話が通じるようで通じない。だが、人に危害は加えない」と聞いているが、一先ず今のところは意思疎通は取れているように思える。
運がいい。まさか一度会ってみたいと思っていたこの男とこんなに早く遭遇するとは思わなかった。こと海上においては随一とも言われる男だ。戦いを直接見る事が出来ればそれが一番なんだが、流石にそこまでは求めすぎだろう。
「なるほど。じゃあ、あんたはサニムのお偉いさんだ」
「そうなるな。が、海の男としてはあんたが先達だ。キンタロゥと呼び捨てにしてくれていいぜ」
「そうか。じゃあキンタロゥと呼ぶ。港に船があると言ったな。アレは俺の船だ。俺の女神だ」
エルヴィンは一つ一つ、確認を取る様な話し方をする男だった。
「俺の女神は俺が守る。海の男の助け合いはありがたいが、俺の女神は何一つ不自由なく快適な船だ。手出しはいらねぇ」
「そうか。わかった」
「俺は学がねぇが海の事は分かる。あんたは海の男の助け合いをもちかけた。俺には不要だったが心意気はありがてぇ。海の男は心意気で生きてる。心意気は返さないといけねぇがこの小さな村じゃお偉いさんの口に合う酒も用意できねぇ」
「ああ……だろうな」
エルヴィンの言葉に周囲を見渡す。見渡す限りの廃屋とぼうぼうと伸びた雑草ばかりの荒れ地だ。こんな場所で地酒なんて出てきたら逆に驚いたぞ。
「余計なお世話になっちまったからな、礼は返さないでくれ。ああ、ただ。できればサニムの船が困っているのを見かけたら助けてやってくれないか」
「いいだろう。当然だ。海の男は例え敵であろうと困っている相手は助けるもんだからな。それが海の男の助け合いだ。この海の上で最も平等なルールだ」
「そうか、ありがとよ。じゃあ、俺は水を飲んだら行く。邪魔して悪かったな」
どうやら穏便に会話を終えられたらしい。一先ず、顔を見ることは出来たから今回はこの辺で満足しておこう。そう思い、別れのつもりでそう口にした瞬間。
ぶわりと、エルヴィンの気配が膨れ上がるのを感じた。
「邪魔? お前は何故邪魔だと言った。ここはネトラの港。誰しもに港は開かれている」
エルヴィンはそう言って、ぱちぱちと瞬きをして首をかしげる。何を言われたのか分からない、そんな表情を浮かべた後、エルヴィンはふっと周囲を見渡した。
「ここは、ネトラの港………」
おうむ返しのように繰り返し言って、エルヴィンは何度も周囲を見渡し、そして最後にゆっくりと振り返る。廃屋になった彼の家らしき場所を見て、エルヴィンは動きを止めた。
「俺の、家」
少しずつ、少しずつ。エルヴィンが放つ信力が、空間を歪めていく。いや、実際に変化が起きている。地面に立っている筈なのにまるで大海原のど真ん中に立っているかのような錯覚が俺に襲い掛かってくる。
これは、まさかだが。信力で海をここまで持ってきたのか? それとも海を再現したのか? 分からないが、もしも後者なら信じられないほどの出力だ。
「俺の、家族。家族は……家族は……」
エルヴィンの呟く声に合わせて、どんどん海が周囲を侵食していく。この爺さん、信力だけで自然環境を創り出してやがる。凄まじいな、どうやってるんだこれ。って感心してる場合じゃないな、速く止めないと島がそのまま海に飲み込まれかねん。
「俺の家族は、どこだ……!」
「ストップだ、エルヴィン爺さん」
その言葉が絞り出された瞬間、俺はエルヴィンを止めに入った。このまま放置すれば間違いなく島が消える。それは良くない。伝え聞いた程度の事情しか知らないが、それは決して良くない事だと思ったからだ。
信力を全身に回しながらエルヴィンの肩に手を置くと、置いた手の皮が圧力に耐えられずに割けた。嘘だろ、触っただけだぞ。戦闘状態でもないのにこれって事は、殺る気になったエルヴィン爺さんはどうなるんだよ。
俺の言葉にエルヴィンは反応しなかったが、信力を込めた俺の手には気付いたようでゆっくりとこちらに視線を向けてくる。その視線がこちらを捉えたのを確認した後、俺は信力を込めて言葉を紡いだ。
「ここは陸で、あんたの船は港だ。海を呼んだら村もあんたも沈んじまうぞ」
「お前は何を言っている。俺は海を呼んでいない。何故ならここに船はない。船が無ければ海には出れんのだ」
「ああ。だが実際に海がそこまで迫ってる。高潮だ」
「高潮か。それは不味い、家は濡れると木材が腐る。大工に渡りを付けなければ。レイラ! 大工のトールマンはどこに引っ越したんだったか!」
信力を乗せた言葉は、なんとかエルヴィンに届いたらしい。エルヴィンは先ほどまでの破裂しそうなほどの信力の圧を霧散させて、慌てたように家の中へと駆け込んでいった。エルヴィンの行動に合わせるように周囲を覆っていた海もさぁっと引き潮のように海へと戻っていく。
それを確認した後、深くため息を吐く。今のは危なかった。冗談抜きでこの島を消滅させかねない状況だったぞ。なにが人には無害だよ。俺が普通の船乗りだったら今頃海に沈んでたぞ。
しかし、なるほどな。復讐者エルヴィンが海上を制するというのはこれか。文字通り海を創って操るのか、あの爺さんは。そりゃ海上でエルヴィン爺さんに勝てる奴は居ないだろ。文字通り回り全部が敵になるんだから。
エルヴィン爺さんは家の中に入った後、家が濡れてしまった時の対処法を一から順番に話始め、時折聞き返されたのか少し戻ってもう一度同じ説明を続ける。言葉は通じるが話が通じない狂人と聞いていたが、実際に話してみると少し印象は変わったな。あれは話が通じないわけじゃない。ただ、爺さんにとっては他者の言葉は理解できないだけなんだろう。爺さんと他の人間とじゃ見てるものが違うから、話がかみ合わない。
そりゃあそうだ。爺さんの中では未だに時間が止まってるんだから。この島が滅ぶ前で。
「随分と美人な嫁さん、貰ったんだな。爺さん」
崩れた壁の向こう側で、エルヴィン爺さんの言葉を笑ったり、首を傾げたりして聞いている彼女は、綺麗な人だった。黒い肌の地人種で、幼い見た目とは裏腹に母性に溢れた人懐こい笑顔の人だった。彼女の声は俺には聞こえない。恐らく、エルヴィン爺さんにしか聞こえない。
ゴーストというアンデッドが居る。未練を残したりした人の魂が信力によって形作られて生まれる魔物で、中には知性を残している者も居るため魔族か魔物かが曖昧な種族だ。彼女は恐らくこのゴーストの亜種のようなものだろう。土地に縛られているのは間違いない。だが、縛り付けているのは彼女の未練じゃない。エルヴィン爺さんの未練だ。
彼女は、エルヴィン爺さんの信力でこの世に繋ぎ留められている。何故分かるのかというと、俺も似たようなスキルを持っているからだ。夢想具現で創り出した物品は俺の信力を固定化してこの世界に創り出されている。エルヴィン爺さんがやってることはそれに近い。だが、決定的に違うのは、エルヴィン爺さんの信力が他者の魂を内包してゴーストとはいえこの世に形を創り出した点だろう。
俺の場合は魂を扱える気がしない。そもそも魂というものがどういうものかも良く分かっていないのに、それを信力で覆うなんてどうやるのかも分からない。だが、爺さんはそれを恐らく英雄スキルに覚醒した瞬間に行ったのだろう。とんでもない才能だ。信力の扱いに四苦八苦してた俺なんかとはくらべものにならない才能をフルに使って、この光景は成り立っているのだ。
「……行くか」
凄いものを見た。そして、凄い男を知った。これだけで今日、この島を訪れてよかったと心底から思える。サニムから少し離れただけでこんな出会いがあるなんて思いもしなかった。出来ればこの喜びを仲間たちと分かち合いたかったけれど、残念なことに今日は一人のバイク旅だ。
「邪魔して悪かったな。爺さん、達者で暮らせよ」
そう言葉を残して、ベアナックルの背に跨る。今はただ、無性にザンムやネネと話したい。この出会いを語ったら、ザンムたちは驚くだろうか。それとも呆れたように笑うだろうか。まぁ、どちらにしても次の冒険の準備を始めるだろうな、きっと。
ネタバレ:めちゃめちゃ怒られます。
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タロゥ(10歳・普人種男)
生力65 (65.0)
信力126 (126.5)UP
知力50 (50.0)
腕力71 (71.0)
速さ67 (67.0)
器用55 (55.0)
魅力61 (61.0)
幸運36 (36.0)
体力70 (70.0)
技能
市民 レベル4 (66/100)
商人 レベル3 (100/100)ー
狩人 レベル4 (66/100)
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル3 (100/100)ー
薬師 レベル3 (48/100)
剣士 レベル6 (15/100)
木こり レベル2 (70/10
楽士 レベル3 (48/100)
教師 レベル3 (62/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル6 (87/100)UP
テイマー レベル2 (78/100)
絵師 レベル3 (90/100)UP
語り部(紙芝居) レベル5 (100/100)ー
水兵 レベル2 (45/100)
執事 レベル3(100/100)ー
乗馬 レベル0(20/100)
スキル
夢想具現 レベル3 (100/100)ー
直感 レベル4 (87/100)
パチン・コ流格闘術 レベル6(87/100)UP
パチン・コ流武器術 レベル6(87/100)UP
飛行術 レベル3 (25/100)
フォークダンス レベル5(100/100)ー
フォークマスター レベル1 (100/100)
念話 レベル2 (71/100)UP
女たらし レベル6 (55/100)
野獣の眼光 レベル0(15/100)
サニム流マナー レベル3 (37/100)
英雄スキル
夢想具現仏恥義理
カルデラ近隣地図
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