第107話 ごめんね、俺、すぐ腹を切るから
神聖歴583年 春の中月 2日
「お兄ちゃはシスにごめんなさいする必要があります。りゆうはもうおわかりですね?」
「もちろんだよ、システィ。ごめんね、俺、すぐ腹を切るから」
「~~~~~ッ!!」
「痛いよ、アリス。笑いながらバンバン肩を叩かないで」
1昼夜かけてカルデラから海路をバイクで渡った俺は、着の身着のまま孤児院に駆け込んだ。流石にノンストップで走るのは随分と疲れたが、そんな事は妹を求める胸の奥から湧き上がる衝動を止める理由にはならない!
まだひと月も経ってないのに随分と久しぶりに感じる孤児院の姿。隣に立った立派な教会から聞こえる聖歌隊の讃美歌を聞きながら孤児院に駆け込んですぐ、俺は孤児院前の地面に正座して小刀を抜く。
本当にすまないと思っているならノータイムハラキリくらいは当然。前世の俺に会社員の心得を教えてくれた先輩は取引先への謝罪の最後の手段としてこの事を教えてくれた。先輩は三度腹に小刀を突き立てて取引先に謝罪し会社の損失をカバーした事があるらしい。生きている理由は突き立てる場所が大事なんだと得意げに語っていたなぁ。
ただ、俺の場合は小刀を腹に突き立てる前に妹がプンスコと「ケガしちゃダメ!」ともっと怒ってしまったので、腹を切る事は出来なかった。というより余計に怒られた。クソだなこの手法二度とやらん。やっぱ腹切って謝っても問題は解決しないよね。
ところで俺は何で怒られているんだろうかね。ぷりぷりと怒りながら頬を膨らませる妹が可愛くてそのままごめんなさいしてしまったが、流石に原因が分からんとどうすれば妹の機嫌が取れるかもわからん。というわけでそこでゲラゲラ笑ってる可愛くない妹分、そろそろ語ってもらおうか。
「タロ兄がカルデラ行ってから食卓が芋ばっかりなんだよね! システィはほら、タロ兄のせいでわがままになっちゃったから!」
「シスわがままじゃないよ! だって毎日毎日、あさもひるもよるもずぅっとふかしたおイモだもん!」
「レンツェル神父はさぁ」
アリスと妹の言葉で大体の事情を察して、尊敬する森人種の神父の姿が頭に思い浮かぶ。彼は一昨年から庭で育て始めたジャガイモが大好物で、止めなければ三食ジャガイモを食べようとするのだ。
孤児院の庭は貧乏時代になんとか食料を得ようと畑になっており、そこで育てられたあんまり美味しくないけど育つのが早いサニム芋という品種の芋をいっつも育てていた。あんまり連続で育てるもんだから土も悪くなり品質も発育も悪い芋ばっかりだったが、それしか食べられないから仕方なく孤児たちとレンツェル神父はそれを食べていたのだ。
そんなこんなを経ていくうちに食糧事情が改善されレンツェル神父も孤児たちも満足に食べられるようになったが、この時の経験からレンツェル神父は常に食料を多く備蓄するのが大事だと思う様になったらしい。また諸事情で何故か毎年冬になると森が開墾されていくため広がった土地もあったため、孤児院の運営の傍らザンムのような力のある孤児と一緒になって切り株や石を取り除いて畑を作っていた。もちろんサニムの上層部にも届け出てあるし、孤児院の配給に関して負い目があるサニム側もこれを承諾。結果、レンツェル神父というより孤児院が管理する結構広い畑が出来上がった。
さて、そこで出てくるのがジャガイモだ。レンツェル神父はこの広大な畑をどのように維持していくか悩んでいた。そこで色々変な事をしっている俺に相談してきたのが二年前。当時も今もラーメンに夢中で孤児院で出るご飯なんて妹が食べる分以外は全く興味が無かった俺は、レンツェル神父がでっかい畑でなにかしようとしてるなんて全然全く興味が無かったため庭先で作る芋の延長線くらいに考えていた。
そのため孤児院の庭に使う分くらいのもので、素人でも簡単に植えて育てられるジャガイモを夢想具現で創り出してレンツェル神父に渡したのだ。
これが全ての始まりだった。
「おや、タロゥ。帰っていたのですね、お帰りなさい」
妹やアリスの話を聞いていると、農作業用の作業着を着たレンツェル神父が歩いてきた。春植えのじゃがいもは先月頭にもう植えているから、恐らくは雑草抜きでもしてきたのだろう。その表情は生き生きとしており、まるで本職の農夫のようでもある。
「神父様、ひと月ぶりですね。少しお話があるのですが」
「ええ、なんでしょう?」
「とりあえずそこに正座してもらえます?」
「え?」
俺の言葉にレンツェル神父呆けたような表情を浮かべて、俺が指さす石畳を見た。
「お前が止めろよ、炊事担当で教会に就職したんだから」
「え~。でもぉ、レンツェル神父様が嬉しそうだったしぃ……」
大人しく正座したレンツェル神父に「大の大人が自分の好物ばっかり食べてるんじゃないよバランス考えろ子供に悪影響だろうが自分の食べたいものばっか食べていいと孤児たちが思ったらどうすんだ」と割と真面目に説教をしたら、レンツェル神父は思う所があったのか深く反省してくれた……はず。
次は炊事担当として正式にサニム外街のマリア教会に就職し、孤児院と教会の炊事を担当しているエリザにもお前がレンツェル神父を止めろよ、仕事だろと苦言を伝えておくと、レンツェルガールズの一人であるエリザは非常に不服そうだが、自分の役目を無視して好き勝手する奴でもないから最後には頷いていた。教会で働いている他の職員やシスター、それに警備のために雇われている兵士なんかも深く頷いてたから、そっちの視線が痛かったのもあるだろう。
俺が旅立つ前は結構パンとかイールィス家のレストランが試作とかで持ち込んできたラーメンスープとかがあって、食卓には色々な食事が並んでいたからな。それらが無くなってからは毎食茹でたジャガイモや蒸したジャガイモだったらしい。ドイツじゃねぇんだからこんな毎食ジャガイモ食ってたらそりゃ怒られるだろ(偏見)
「しかしですね、タロゥ。こんなに沢山のジャガイモが余ってしまっているのです。腐る前に全て食べる必要がある」
「作り過ぎなんですよ……毎食ジャガイモにしても1年は持つ量なんてなんで作ったんですか」
ただ、一応レンツェル神父にも言い分はある。このままでは消費しきる前にジャガイモがダメになってしまう、というものだ。それは確かにそうなんだが、そもそも無計画に作り過ぎだろうと言いたい。なにせでっかい畑一杯にジャガイモを春も秋も作ってるんだからそりゃ孤児院や教会だけで消費しきれるわけがないのだ。
普通はこんなに連続で育てているとジャガイモの連作障害が起きると思うだろう? 俺もそう思ったし、一度目に凄い量の収穫を持ってきたときにレンツェル神父に一言、連作障害についても伝えておいたんだが、この人は力業でこれを解決した。連作障害は土の病原菌が増える事が原因だから数年は別の作物、例えばネギなどを育てた方が良いと聞きかじりの知識を伝えると、レンツェル神父は自身の光魔法で畑全体を浄化してみせたのだ。
なにがこの人をここまでジャガイモに執着させるのだろうか。もしかしたらレンツェル神父も前世持ちで、ドイツ人の生まれ変わりなのかもしれないな(偏見)
「たしかに毎食はやりすぎたかもだけど、そうしないとジャガイモから芽が出ちゃうかもしれないんだよね。去年はそれで結構な量廃棄しちゃったもの」
「うーん。まぁ、確かに勿体ないけどなぁ」
ジャガイモは芽が出ると芋の中に毒素が広まってしまうため、廃棄しなければいけない。教会の地下で保存しているため結構長い事持つはずだが、収穫してからそろそろ1月。処理するならまぁ、確かにそろそろか。とはいえ、だから全部食べるって訳にもいかないし。一番簡単なのは安い食料として街に売る事なんだが、ジャガイモは芽が出た後の処理があるからちょっと売りにくいんだよな。さっさと食べればいいんだが、そこそこ保存も出来るから芽が出るまで置いておく奴が絶対に出てくるんだ。前世の日本ですらそう言う奴が居たんだからこの世界でいないわけがない。
もし仮に販売するなら、それこそ孤児院の手を離れて食流通のプロに管理をゆだねるべきだろう。まぁ、その辺はおいおい考えた方がいいとして、だ。
じゃがいも、じゃがいも……食べる以外でなにか大量に消費する手段は……そう考えていると、教会の催事に使用する銀のグラスが目に入る。教会が完成した時、街中にある方の教会から送られたものだ。新しい教会が完成した折にはこの銀のグラスにワインを注ぎ、この地がマリア様の祝福を受けた神父が口にしながら教会前の地面にワインを撒くという神事を行うのだが……ワイン、そうかワインか。
「一つ、良い案がある」
「良い案? どういうの」
大量に積まれたジャガイモに視線を向ける。これだけの量は確かに問題だが、これだけの量があるからこそできる事もある。
「酒を造ろう」
「酒? ジャガイモで?」
「ああ。ジャガイモで」
俺の言葉に不審そうに首をかしげるエリザを横目に、自信満々にそう言い放つ。焼酎にアクアピットなど、ジャガイモを原料とした酒は数多く存在するし大量のジャガイモを利用するにも向いている。酒にしてしまえばジャガイモよりも長持ちもする。
なにより、酒には絶対に途切れない需要が存在する。孤児院の運営費だって簡単に賄えるほどの需要が、間違いなくそこにはある。ダリルウさんがカルデラから帰って来たら、ちょっと相談してみよう。新しい産業が生まれるのは彼にとっても歓迎だろうしね。
お気に入り・☆評価よろしくお願いします!
タロゥ(10歳・普人種男)
生力65 (65.0)
信力123 (124.1)UP
知力49 (49.0)
腕力71 (71.0)
速さ67 (67.0)
器用55 (55.0)
魅力61 (61.0)
幸運36 (36.0)
体力70 (70.0)
技能
市民 レベル4 (64/100)
商人 レベル3 (100/100)ー
狩人 レベル4 (66/100)
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル3 (100/100)ー
薬師 レベル3 (48/100)
剣士 レベル6 (15/100)
木こり レベル2 (70/10
楽士 レベル3 (48/100)
教師 レベル3 (62/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル6 (84/100)
テイマー レベル2 (78/100)
絵師 レベル3 (89/100)
語り部(紙芝居) レベル5 (100/100)ー
水兵 レベル2 (45/100)UP
執事 レベル3(100/100)ー
乗馬 レベル0(20/100)
スキル
夢想具現 レベル3 (100/100)ー
直感 レベル4 (87/100)
パチン・コ流格闘術 レベル6(84/100)
パチン・コ流武器術 レベル6(84/100)
飛行術 レベル3 (25/100)UP
フォークダンス レベル5(100/100)ー
フォークマスター レベル1 (100/100)
念話 レベル2 (56/100)
女たらし レベル6 (55/100)
野獣の眼光 レベル0(15/100)
サニム流マナー レベル3 (35/100)
英雄スキル
夢想具現仏恥義理
カルデラ近隣地図
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