第106話 半径100m以内に入ってこないでくれないか
カルデラで行われたカルデラ=サニム間での会合は、サニム側にとっては大成功と言える内容で終わった。ネゼ・カルデラ都市国家連合としてムリーナスト内海をサニム総督、キンタロゥ・サニムの守護領域であると認められたからだ。
これが何を意味するかというと、まずハルノートとスワトン、そしてサニムまでの航路は全てサニム総督の名の下で運行される事になる。実際に俺が現地で何かをするってわけじゃない。ただ、ムリーナスト内海でなにか事が起こればサニム総督の名を借りたサニム海軍が大手を振って介入する事が出来るようになり、更に周辺にある港湾都市はサニム総督からの要請には協力する義務が発生する。
ムリーナスト内海で海賊なんて働いた奴が居たら、サニム総督の名のもとに周辺からリンチを受ける可能性が出てくるということだ。しかもこれはネゼ・カルデラ都市国家連合側だけではなく、帝国側も同様である。何故ならムリーナスト内海に面した帝国側の主要都市、ハルノートは第二皇女の母親の出身都市であり、そこを治めるハルノート伯は第二皇女の母親のお兄さん。つまりアクエリア様の伯父さんになるわけだ。
英雄スキル持ちを領域の守護者とする場合、その周囲の国家からの承認を得る必要があるのだが、アクエリア様を神輿にするハルノート伯にとってアクエリア様の婚約者であるキンタロゥ・サニムがムリーナスト内海の守護者になる事はなんの損もない。むしろ貿易の安定化も考えられる慶事と言っても良い出来事だ。そのためムリーナスト内海の帝国側の港湾はどこもキンタロゥ・サニムの守護者就任を歓迎している。少なくとも現状は。
つまり今回の会合はサニムにとって非常に有意義な会議だった。ただ、それとはまったく別のベクトルで俺個人にはちょっとダメージが入る出来事もあったが。
『半径100m以内に入ってこないでくれないか』
『どうやって会話するんだよそれで』
思い返されるのは会合が終わった直後のことだ。今後は同じ陣営に所属する英雄スキル持ち同士仲良くしましょ、と監視役だった三名に声をかけた所、真っ先に反応した森人種の女性は真っ向から俺にこう言い放った。初めて会話をする相手に向ける切れ味じゃないぞ、その舌鋒は。
キンタロゥモードでも流石に面食らってしまった俺に、この世全ての汚物を眺めているかのような森人種のお姉さんの視線が突き刺さる。その様子を見かねたのか、地人種のお姉さんがフォローするように俺と森人種のお姉さんとの間に割って入ってくる。
『まーまー、キリちゃんも落ち着いて。キンタロゥくんはちょーっと女の子好きな風は感じるけど、一の勇者さんほどじゃなさそうだよ? ほら、いきなり服を脱いで抱き着いてこないじゃん』
『しかしだな、ミト。あの視線を思い出せ。私は彼に視線を向けられたあの瞬間、薄皮を剥ぐように一枚一枚、丁寧に衣服を剥ぎ取られる自分を想像してしまったのだ。彼は私に視線でそう命令し、あ、あ、あろうことか! 私に服従の言葉を自ら口にするようにと目で語って』
『いる訳ねーだろ』
『……ほんとに?』
思わずそう言葉にして返すと、キリと呼ばれた森人種のお姉さんは顔を真っ赤にしながら本当にない事ない事口に出し始めた。どういう思考回路をしてればそんな幻聴が聞こえてくるんだろうか。
俺の言葉を聞いたキリさんは非常に、何故か。非常に残念そうな表情でそう尋ねてくるので、当たり前だと返しておく。異端を見つけた時のレンツェル神父といい、森人種はなにかスイッチが入るといきなりフルスロットルになる種族なのかもしれない。ちょっとこの人とは付き合いを考えた方が良さそうだ。
そんな同僚の様子に困ったように笑いながら、ミトと呼ばれた地人種の推定お姉さんが口を開く。
『私はミト。海向こうのアッチラで守護者やってるよ。よろしくね。で、そっちの森人種の残念な子はキリエ。クラピエス湖は知ってる? そっちを更に南に行くとあるナシェルズって街の守護者』
『誰が残念だ!』
『アンタがだよ! 思い込みだけで話すのは止めなって何回言われてるでしょ? それで痛い目にも何度もあってるじゃない』
ミトさんが腰に手を当ててそう口にすると、キリさん、いや。キリエが本名か、キリエさんが気まずそうな表情で視線を逸らした。見た目だけならほんわかした雰囲気の幼女と仕事が出来そうな美女にしか見えないが、二人の関係は保護者と子供のようなものに見える。もちろん幼女が保護者で美女が子供な。
なにか困ったことがあったら相談する相手はミトさんだな。二人の関係と人間性を大体把握したのでそう心のメモ帳につけていると、それまで黙っていた竜人種の人が嘴を開いた。
『うむ。今のところ、見るだけならば一の勇者よりも自制が効いているように見えるが。ミトとキリエが好みではなかった可能性もある。一の勇者は豊満な女が好みでな。魔王が戦線に現れる度に『ナハナハナハ! マオちゃんかぁわうぃ〜のだ! だぁーいしゅき! ちゅっちゅ! ちゅっちゅ!』と我を忘れておったからな』
『それ、本当に一の勇者の台詞です???』
『うむ。我が初めてあ奴と会った時の言葉じゃ。一言一句覚えておる』
竜人種の人はリベルという名前らしい。竜人種は雌雄の区別がないみたいで、男でも女でもないからくんでもさんでも好きに呼べ、と言われた。まぁ、普通にさんだよね。明らかにレンツェル神父とお仲間の100の勇者の一人っぽいし。
枯れ葉クラピエス湖から更に奥に行った山々で生活しており、その辺りで悪さをしそうな魔物を間引いているそうだ。守護者というのは人の生存圏を魔物や敵対的な魔族から守るためにある程度のエリアに分けて英雄スキル持ちの総称であり、またの名を勇者とも呼ばれる人たちの事だ。要はレンツェル神父だな。あの人はサニム半島の守護者であり、半島内に手が付けられない魔物が出たらあの人が間引くことになっている。
とはいえ基本的に山脈から降りてくる魔物は大狼さんが餌にしちゃうから魔物駆除はあんまりないし、その大狼さん自体がレンツェル神父以外に対応できる人が居ないほどの強い魔族だから彼女を警戒してサニムからほとんど離れられないみたいだけどね。
本当は俺が倒した山巨人みたいなのを処理するのはレンツェル神父の仕事だったわけだ。あの山巨人は俺がテイムした後、食い扶持を稼いでもらうために今はサニムの町の門番として仕事してもらっている。知性が高いから俺以外の人の言葉も聞き分けられるんだよね。
まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。問題じゃない。本当の問題は、たった今。リベルさんの口から出てきた一の勇者のお言葉の方が問題だ。
いやね。何度も何度もいろんな人から逸話を聞いていた、一の勇者ユーキさんの話しだ。俺も結構気にしていたというか、同じ普人種の英雄様だからな。尊敬しているレンツェル神父が昔を懐かしむような表情で口にしていたのを知っているから、色々と考えてたんだよ。どんな人なのか、とか。名前の響き的に、もしかしたら同郷かもしれないとかね。
レンツェル神父が言ってたよ。「一の勇者はバカすぎて最強に至った男だ」って。魔王とまともに戦える者は100の勇者ですらほとんど居なくて、残り99人の勇者は実質的に一の勇者が魔王を抑えている間に他の相手を倒す人員だったって。本当のガチで人類側の最強の男だったわけだ。
でもね、神父。リベルさんの話を聞いたうえでの感想だけど、バカすぎてって言葉ちょっと控えめにすぎません?
もうこれパーフェクトじゃん。パーフェクトバカ。こいつの逸話で遠い目をして「あの頃は俺もアイツも若かったなぁ」っみたいな空気出すのは流石に美化しすぎでしょ。
まぁキンタロゥを見てこいつと同一視してくる辺りリベルさんもあんまり人を見る目はないと思うけど。俺、というかキンタロゥって普人種の英雄スキル持ちってだけで一の勇者と同列扱いになるのか。便利なスキルだと思ってたらとんでもない不名誉をいつの間にか背負わされてたとは見抜けなかった。このタロゥの情報網をもってしても……! 間違ってもタロゥ=キンタロゥが同一人物だってバレないようにしよう。妹の耳に入ったら腹を切って詫びないといけないレベルの恥だぞ、これ。
「……システィに会いてぇ」
カルデラでの大仕事を終え、一先ずの目途はついた。元々そのつもりだったとはいえ、精神的な疲労がいきなり溜まったせいで今はただただ無性に妹の顔が見たい。キンタロゥとしての仕事は後はダリルウさんとアクエリア様だけで事足りるし、パチン・コ流のカルデラ進出の基礎はもう出来上がったと見て良い。コーケンさんからの引継ぎも完全に終わったしね。
つまり、俺がカルデラに張り付かなきゃいかない理由はもうないという訳だ。
よし、帰るか。
ザンムに1週間ほどサニムに帰ると伝えて、サニムからの船に乗り込み甲板で愛車ベアナックルを呼び出し、その背に跨ってアクセルを回す。俺の信力をガソリン代わりにエンジンを全開にしたベアナックルは、弾丸のように甲板から海に飛び込み、打出の要領でタイヤから信力を放出して海上を文字通り滑るような高速で走り始める。こいつの速度ならサニムまでは1日で到達できるはずだ。途中で寝むって海に落ちないようにだけ気を付けないとな。
お気に入り・☆評価よろしくお願いします!
タロゥ(10歳・普人種男)
生力65 (65.0)
信力123 (123.3)
知力49 (49.0)
腕力71 (71.0)
速さ67 (67.0)
器用55 (55.0)
魅力61 (61.0)
幸運36 (36.0)
体力70 (70.0)
技能
市民 レベル4 (64/100)
商人 レベル3 (100/100)ー
狩人 レベル4 (66/100)
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル3 (100/100)ー
薬師 レベル3 (48/100)
剣士 レベル6 (15/100)
木こり レベル2 (70/10
楽士 レベル3 (48/100)
教師 レベル3 (62/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル6 (84/100)
テイマー レベル2 (78/100)
絵師 レベル3 (89/100)
語り部(紙芝居) レベル5 (100/100)ー
水兵 レベル2 (38/100)UP
執事 レベル3(100/100)ー
乗馬 レベル0(20/100)UP
スキル
夢想具現 レベル3 (100/100)ー
直感 レベル4 (87/100)
パチン・コ流格闘術 レベル6(84/100)
パチン・コ流武器術 レベル6(84/100)
飛行術 レベル3 (11/100)
フォークダンス レベル5(100/100)ー
フォークマスター レベル1 (100/100)
念話 レベル2 (56/100)
女たらし レベル6 (55/100)UP
野獣の眼光 レベル0(15/100)
サニム流マナー レベル3 (35/100)
英雄スキル
夢想具現仏恥義理
カルデラ近隣地図
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