変化
その写真には一人の女性が写っていた。
父の箪笥の抽斗の奥、小さな箱に入った写真。
若かりし日の母ではない女性。
父と何らかの関係がある女性なのだろう。
暗がりの中、一人佇む女性。
写っているのは誰なのか。いつ、どこで撮られたものなのか。
それが分からない。
なぜ父はこの写真を隠すように仕舞っていたのだろう。
私が幼かった頃、一度だけこの写真を眺めている父を見た。私が急に父の部屋に入ったとき、父は背中を丸めてこの写真を眺めていた。
父は私に気付くとバツが悪そうな表情をして写真を仕舞った。そのとき覗き見た写真の女性は、優しい表情で幸せそうに微笑んでいた。
私はその女性を美しいと思った。
以来、私は父の部屋にこっそり入っては写真を取り出し、眺めることを密かな楽しみとした。私は取り憑かれたように恍惚と写真に見入った。
やがて私は写真の女性の表情がわずかに、しかし確実に変化していっていることに気が付いた。女性はだんだん険しくなり、悲しそうにも苦しそうにも見える表情になっていった。私は恐ろしさよりも、女性のそんな表情を見るのがつらく悲しい気持ちになった。
あるとき写真の女性の顔が大きく変化していた。歯を食いしばり、目は大きく見開かれていた。もうこれ以上見てはいけないと思い、この日、私の密かな楽しみは終わりを告げた。
父が亡くなり、あの日以来私は、数十年ぶりに抽斗を開けた。
女性と父はどのような関係だったのだろうか。それはもう、分からない。
父や母に隠れずに堂々と明りの下で写真を見たのは初めてかもしれない。
そこで見た写真は私の記憶とは違っていた。
写真に写っていたのは、墓石だった。
真夜中の墓場。暗い背景の中、墓石が写っていた。
私は幼い頃、何を見ていたのだろうか。
抽斗の内側には無数の引っ掻き傷のようなものがあった。




