まだいる
町のスーパーマーケットが倒産し、経営者一家が夜逃げをした。
そのスーパーマーケットは放置され廃虚になった。
そして当然、若者の格好の溜まり場になった。
さらに年月が経ち、そこは心霊スポットととして噂されるようになった。心霊スポットということは、言い換えれば肝試しスポットということである。
二人の若者が廃スーパーを訪れた。もちろん目的は肝試しである。
店内に入ると真夏にも関わらず空気がひんやりしていた。雰囲気に二人のテンションが上がる。
「こんばんはー、おじゃましまーす」
「誰かいませんかー」
スーパーマーケットと言っても大型チェーン店ではなく、町の小さなスーパーであるため店内はさほど広くない。売場だけでなくバックヤードの冷蔵庫室、備品置き場など見て回ったが、二人の声と足音が反響するばかりだった。
何も起きずに場が白けかけてきたが、奥へ進み、男子トイレのドアをノックした。
「入ってますかー」
ドアに手をかけたそのとき
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンンコンコンコンコンコンンコンコンコンコンコンコンコンコンコンンコンコンコンコン
突然の返事に二人は硬直し、動けなくなった。
ノックの返事があったのはトイレではなく、突き当たりの事務所からだった。
二人は今にも逃げ出したくなる程に内心は恐かったのだが、お互いの手前、恐いとは口に出せなかった。
「おい、事務所に入ってみようぜ」「おう」
閉じている事務所のドアを、今度はノックせずに静かに開けた。
事務所の中央にはベビーカーを押した女がいた。
女はその場に立ったままベビーカーを押したり引いたり繰り返している。ベビーカーを押すと机に当たり、ゴツ…ゴツ…と音を立てる。
女は二人の方に向きを変えた。
二人ははっと我に返り、半狂乱になりながら這う這うの体でどうにかスーパーを後にした。
翌日、一人は高校を休んだ。
もう一人は学校帰りのまだ日が十分明るいうちに、再びスーパーに向かった。
明るいうちなら怖くない。昨日の一件は何かの見間違いだったと証明したかった。
スーパーに着き外から店内を覗く。ベビーカーの女はいなかった。
恐る恐る店内に入り、事務所に向かった。事務所のドアは昨日のまま開いていた。少し離れた距離から様子を窺う。
そこにも女はいなかった。
昨晩のことは見間違いや思い違いではないと思ったが、今ここに女がいない事実が彼を安心させた。友人が学校を休んだ理由は分からなかったが、大方昨日のショックからのサボりだろうと思った。
友人に報告するため、その場で電話を掛けた。
だが友人はなかなか電話に出ない。
何度目かのコールの後、事務所内に電話の音が鳴り響いた。
もちろん事務所の電話が生きているはずがない。
突然のことに体が強ばって動けない。
携帯の呼び出し音と事務所の電話のコール音がだんだん重なっていく。
・・・プツ…
友人がようやく電話に出たのと同時に、事務所の電話も鳴り止んだ。
彼は恐怖と、友人が電話に出た安心感とで一気にまくしたてた。
しかし携帯から聞こえてきたのは友人の声ではなく、女のかすれた声だった。
「カワリニ…シンデクレマセンカ…」
夜逃げした経営者一家の行方は誰も知らない。




