幽霊を見ていない
後輩が突然訪ねて来て、話し始めた。
ついさっき幽霊を見たそうだ。
「いや、なんていうか…。見たんだけど見てないって言うか…。見てないけど、見たんです!」
言っていることがよく分からない。
どういう事なのか詳しく訊いてみた。
後輩が言うにはこういうことらしい。
車を運転していたら、信号のない横断歩道に幼稚園くらいの齢の男の子が立っていたので一時停止した。
男の子はぺこりと頭を下げてから横断歩道を歩き始めた。
しかし何だか違和感がある。
男の子はこちらを見ず、伸ばした自分の手を見上げていた。
後輩は気付いた。
男の子は誰かと手をつないでいるのだ。
その誰かが後輩には見えない。
というか、男の子の手の先には誰もいない。
男の子はまるで母親に手を引かれて横断歩道を渡っているようだったという。
「だから、幽霊は見てないんですど、見たんです。幽霊に手を引かれている幼稚園児がいたんです」
私は興奮している後輩に言った。
「お前が幽霊を見たのは信じるよ」
「分かってくれましたか。幽霊の母親がいたってことですよね」
「そうだ。母親の幽霊もいた」
落ち着いて聞いてほしい。
「今は深夜三時だ。お前はこんな真夜中に幼稚園児が一人で外にいると思うのか」
後輩はちゃんと幽霊を見ていたのだ。




