9
昨日のモヤモヤを抱えたまま読書に勤しむ。
お茶でも、とリリアに誘ってもらったがそんな気分になれずに断ってしまった。
昨日の事が思い出されてお腹の辺りが重くなる。
(どう思われたかしら。)
気にしすぎるのもよくないと分かっているが、気がつくと昨日のことを考えてしまっていた。
(やっぱりリリアと少し話してみようかしら。)
ずっと同じページから動かない本を置いてリリアの部屋に向かう。
「初恋の彼女との進展はどう?」
楽しそうなリリアの声で体が止まる。
「揶揄わないでよ。全然思うようにいかないし、カッコ悪いところばかり見られている気がする。
純粋で綺麗な彼女を前にすると緊張してしまうし。」
(ライアン様の初恋の方?)
2歳年下の彼に好いた人がいてもおかしくないのに、全くその考えがなかった自分に驚く。
「純粋でお姫様みたいだもの、想いは告げていなくても密かに人気があるわ。私のためにも早めに気持ちを掴んでね。」
「無茶言うなぁ。容姿に釣られて話しかけてくれるご令嬢みたいにはいかないよ、諦めるつもりもないけどね。」
(ライアン様、心に決めた方がいらっしゃるのね。綺麗なお姫様みたいな人か。)
リリアが綺麗だというのなら余程美しいご令嬢なのだろう。
そっと足音を殺して部屋まで戻る。
(癒し魔法が使えるか、容姿が良ければ相手に困ることはないのに。)
座学が優秀であることは婚姻にはあまり有利に働かない。
あまり意味はないかもしれないが、もっと勉強をしてそれから刺繍も凝ったものが作れるようになろう。
少しでも、何か。
(家に帰って勉強をしないといけないわ。手紙を出さないと。)
リリアの家でお世話になると書いたきりだった実家への手紙を出してそろそろ帰宅するので家庭教師を、とお願いした。
好いた人がいるのなら、と待って貰っていたが恋愛結婚は難しそうだ。
「リリアにも、話さないと。」
無意識に出た独り言は自分だと思えないくらいに掠れていた。




