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「リリー、もう用意できたの?」
トントンと聞き慣れたノック音がする。これだけ聞くとまだ寮にいるような不思議な感覚だ。
「どうぞ。
変じゃないかしら?」
あれからライアン様と書店に行く話をしたら、デートね!と意気込むリリアと2人でドレスを買い回ることになった。
大体リリアが悩んでいたような気がするけど…。
「かわいいわ!とっても良く似合ってる、絵本から出てきた妖精みたいね。」
(妖精みたいなのはライアン様の方だと思うの…。)
薄いパープルのドレスは普段あまり選ばない色だけど、とても良く似合う!とおすすめしてもらって自分でも気に入って買った一着だ。
控えめに裾にレースが入っていて派手すぎないけど可愛らしさも兼ね備えている。
お揃いで買った蝶のヘアアクセサリーと色もお揃いだ。
「ありがとう。リリアの見立てのおかげね。」
楽しんできて!と笑顔で送り出されて、玄関ホールで待つライアンと合流する。
シンプルだけど仕立ての良さが分かる白のシャツにスラックスを履いたライアンは中世的な美しさを纏っていてとても絵になった。
サラリとクセのない薄水色の髪が優しい色合いで綺麗だなと思っていると、グレーの瞳がこちらに向いた。
「とても可愛らしいです。花の妖精のようですね。」
「ありがとうございます、ライアン様もとてもよくお似合いです。」
(ライアン様の方が妖精のようなのに。)
色んな思いを飲み込んでお礼を口にする。男性と出かけるのは初めてだが、ライアン様はエスコートに慣れていそうだ。
リリアと仲良くならなかったらこんな日は来なかったなと複雑な思いで馬車に乗り込む。
「今日行く書店は貴族も通うところなので、気兼ねなく選べますよ。最近は貴族向けの書店も流行っていて。」
知識が豊富なライアン様との会話はテンポがよく心地いい。
「魔法について詳しく載っている本が楽しくて、つい夜更かししてしまうんですよね。火魔法でももっと有用な使い方が出来たらなと。」
ライアン様は適性が火魔法だが、戦わないので使う場面がないらしい。
「私は少しの水を出せるだけですが、特に使うことは考えていませんでした。ライアン様は聡明なのですね。」
頭がいい人は考えることも違うのね、と感心していると照れてはにかむ彼の顔が目に入る。
年相応のあどけない感じが可愛らしい。
(男性に可愛らしいと思うのは失礼かしら。でもとても可愛い。)
どちらからともなく会話をして、書店では別行動となった。
(宝探しは本気でやらないとね。)
ライアン様が同じような考えの方で良かったなと思いつつすぐに宝探しは始まった。
(これも、これも楽しそう。このジャンルも読んでみたいわ。)
久しぶり来る書店で夢中になってあらすじを流し見る。
(読んだことのある本を選ばないようにしないと。)
トントン、と控えめに肩を叩かれて振り向くと大人っぽい笑顔のライアン様が側にいて驚いて声をあげそうになる。
(ライアン様と来ていたんだったわ!)
夢中になりすぎて色々忘れてしまっていた。流石にこれはどうなのかと恥ずかしくなっていると笑いを堪えるライアン様が目に入る。
(恥ずかしい!)
いつから待っていてくれたのだろうか?と考えると居た堪れなくなる。
書店で会話をするのも憚られてササッとお会計を済ませて馬車に移動する。
「ふふふ、楽しんでくれたみたいで来た甲斐がありました。」
「ライアン様…。」
恥ずかしくて目が合わせられない。男性とのお出かけで1人本に夢中になってしまうとは。
「リリー嬢は可愛らしいですね。」
子供みたいに、ということだろうか。
もう少し大人にならないとと本気で考える。
「声をかけてくれても宜しいのに。」
ほぼ八つ当たりである。
「真剣に本を選ぶ姿が可愛らしくて、声をかけそびれてしまいました。」
(結構見てたのね…変な顔をしていなかったかしら。)
「覗き見はよくないと思うのです。」
恥ずかしさを隠すと少し咎めるような口調になってしまう。
「すみません、失礼でしたよね。リリー嬢が可愛らしくて。」
しょんぼりしながらまた可愛かったからと言葉を重ねられて返す言葉がない。
「怒って、ないです。」
頬を赤くしながら見返すと、ふにゃりと笑った彼と目が合った。
「はい。」
(ライアン様はとても優しく笑うのね。可愛らしい。)
「久しぶりの書店でつい夢中になってしまいました。」
「誰かと来れると楽しいですね。またお誘いしてもいいでしょうか?」
「はい、是非。私もまたご一緒したいです。」
今度は私の方が嬉しくなって笑顔を返す。
ほんのりと赤い頬のライアン様と目が合う。頬に熱が集まる。
「ご迷惑でなければ、先程の書店でネックレスにもなる栞を見つけたのです。色がリリー嬢に似合うなと思って。あまりいいものでなくて申し訳無いのですが、受け取って頂けますか?」
透明なグリーンの四葉のクローバーの形をしたネックレスだ。
「すごく好きなデザインです。頂いてよろしいのですか?ありがとうございます。」
自分で見つけても買っていただろうと思うくらいに可愛いデザインだった。
勿体無くて使わないかもしれない、と思いながら大事に受け取る。
これを着けてまた書店に行けたらな、と暖かい気持ちになった。




