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カタカタと揺れの少ない馬車のお陰で眠ってしまったようだ。
目を開けるとリリアの膝の上に頭を乗せていた。
「おはよう。」
なんて事もないように笑うリリアにびっくりして飛び起きる。
「ごめん、リリア。」
自分でも分かるくらいに顔に熱が集まる、恥ずかしい。
「疲れていたんだもの、大丈夫よ。リリーは寝顔も天使のようね。」
こんなことを言うから私が容姿を誤認するのでは?と思う。
そういえば家族もこんな事をよく言っていたなと思い至る。
私の周りは相当甘いらしいと今更気がついた。
(仲がいいのはいいことよね?)
少し前向きに考えてみる。
大丈夫、大丈夫。深く考えないのが1番今の自分に優しい。
「そろそろ着くから起こそうと思っていたの。ほっぺをつまんで起こそうと思ったのに。」
「子供じゃないもの。」
子供のように寝ていたので強く言えなくて恥ずかしい。相手が彼女で良かった。
馬車の揺れが止まる。
そんなに遠くないから、と聞いていた通り2時間ほどで着いたようだ。
チラリと窓から覗き見ると我が家の2倍以上はある大きさのお屋敷に手入れの行き届いた庭園が見える。
(リリアのご実家とはいえ緊張する、ご両親がご在宅じゃなくて良かったわ)
「いらっしゃいリリー。急ぎだったから出迎えがなくてごめんなさいね。」
「そんな事ないわ。それにリリアがいるもの。ライアン様とお会いできるのも楽しみだわ。」
季節の木々や花々が美しく飾られている庭を見るだけで心が安らぐ。
(とても好みのお庭。さすがリリアのご実家ね。)
「自慢の庭師が整えてくれているのよ、すてきでしょ。季節の変わり目が1番すきなの。」
「今もとても華やかで素敵。あとでゆっくり見てまわっても?」
「気に入って頂けて嬉しいです。」
美しい庭園に見入っていると初めて聞く声がした。
「初めまして、ライアン•ベルコットです。」
男性と男の人の間をとったような少し高めの綺麗な声、にこやかに細められた瞳と目が合う。
成長途中の妖精のような人だなと思った。
リリアも華やかでとても美しいが、ライアン様も中世的でとても美しい。
「初めてお目にかかります、リリー•フォードウェルと申します。」
私だけ、普通だな。
自覚すると恥ずかしさで頬が赤らんでくるのが分かる。
(容姿が全てではないけど、やっぱり遠慮しておけば良かった)
リリアの淡いグレーの瞳とライアン様の瞳が同じ色で、自分の地味な黒い目と比較してしまう。
(今まではあまり気にならなかったのに。)
自分の容姿が相手にどう映っているのかとても気になる。
伯爵家のご子息に容姿をどう思われても関係ないはずなのに。
「お会い出来て嬉しいです、フォードウェル嬢。ろくなお出迎えも出来ずすみません。おかえりなさい姉様。」
「ただいまライアン、久しぶりね。」
元々社交的ではない性格が更に悪化してしまいそうだと気落ちしつつ、久しぶりの兄弟の会話を微笑ましく見守った。
私も優しい色か、華やかな髪の色をしていたらもう少し綺麗に見えただろうか。
アリアーナ嬢もリリアも、目を惹く美しい容姿をしている。
もう少し美しかったら、彼も私に興味を抱いてくれただろうか?
客室に1人になるとまたグルグルと黒いモヤに巻き込まれていく。
せめてサラサラの髪の毛だったら、もっと社交的で笑顔が可愛らしかったら、どんどん自分が価値のないものに思えてきて動けなくなる。
これではダメだと分かっているのに。
「リリー?お腹空かない?」
トントンというノックの音とリリアの声が聞こえてきて現実に引き戻される。
(1人で不幸に浸かってたら、ダメ)
「私は大丈夫よ。ありがとう、少し眠ろうと思って。」
ダメなのに。
誰かの目に映るのが嫌になって、ベッドに横になる。
悪いと思いつつも何も考えたくなくてくるりと丸まって意識を手放した。




