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失恋から始まる恋とその行方  作者: いるるん


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2



「リリー。」

何も聞かずにそばにいてくれるリリアの暖かさに救われる。

1人だとどこまでも沈んでいってしまいそうだった。

「彼を、誘ってみたの。駄目だった。」

しゃくりあげながらの適当な説明でも伝わった様で、優しく髪を撫でてくれる。

「リリーのいいところは私がよく知っているわ。」

私に良いところなんて、と言いたい気持ちをグッと抑える。

「ありがとう。」

ポロポロと止まらない涙のせいで声まで酷い有様だ。息が苦しい。


「リリー。」

静かな声で優しく名前を呼んでもらって、少しずつ落ち着いてくる。

リリアは優しくて可愛らしい自慢の友人だ。

もう消えてしまいたいという気持ちもほんの少しだけ和らぐ。

「顔が腫れてしまうわ。魔法を使ってもいい?」

頃合いを見計らってリリアが癒しの魔法を使ってくれる。暖かい。

彼への気持ちも一緒に流してしまいたい。


リリアは希少な癒しの魔法が使える。優しくて可愛くて、非の打ち所がないのに私と一緒に居てくれる。

「リリア、だいすきよ。」

「私もリリーがとてもすき。」

花が綻ぶように美しい笑顔が私に向けられる。

いきなり貴族令嬢が泣き始めるなんて失態を、咎める事もなく寄り添ってくれる。


冷たくなった手をリリアがそっと握ってくれて寮まで歩いた。

寮生活で良かったとこれほど思った事はない。

無言の中にある優しい気持ちに気づく余裕もなく別れた。足元が何もないように感じる。


まだとても苦しくて何も考えたくない。

(彼がダメだったのなら、そろそろ婚約者を見つけないと)

スッと辛い現実が思考の中に入ってきて、振り払う様に丸くなった。

今日はもう寝てしまわないとだめだ。


沢山泣いたおかげで眠るのは難しくなかった。

考えることを全部投げ出して、苦しいことも追いやって深く眠った。


朝起きて1番に感じたのは喪失感だ。

ああ、もう彼に話しかける事は叶わない。苦しい、苦しい。

私が1番彼を想っているのに、大好きなのにどうして。


気づかないうちに涙が溢れても拭う余裕もない。

(この苦しみはいつまで続くのかしら?彼を好きでいる限り、ずっと?)

そんなの耐えられない。

苦しい、寂しい、どうして。

もう忘れてしまいたい。

失恋がこんなに苦しいと分かっていたら、恋なんてしなかった。


「リリー、起きてる?」

どのくらい泣いていたのか分からない。

気がつくとリリアの声がする。


「今日は、休もうと思うの。」

絞りだすように言葉を紡ぐ、息が苦しい。生きているのが苦しい。

彼の顔を見るなんてとても出来ない。

「それもいいと思うわ。でももうすぐ長期休暇でしょう。早めに休みをとって私の家に来ない?」

「リリアの家?」

「ええ、お父様とお母様は海外に居るから今はライアンしか居ないの。ライアンにはリリーの事も話してあるし気を遣わなくていいわ。

それに、私もリリーと一緒にいられたら嬉しいもの。」

ライアン様はリリアの2つ下の弟だ。ライアン様の誕生日プレゼントを毎年一緒に選びに行っている。

会った事はないが、リリアが話してくれるライアン様の様子を聞いていると親しみを感じてご入学を楽しみにしていた。

「私が行っても大丈夫かしら…。」

リリアの家は伯爵家なので、特別裕福ではない子爵家だと釣り合わない。

「私とライアンがリリーと一緒に居たいのよ。一緒にお買い物に行ったり、ピクニックに行ったりしたいわ。」

今までの長期休暇は気が引けていつも断っていた。

今年は1人で長く過ごしたくないという勝手な理由でお邪魔していいのかと迷う。

(私もリリアとお買い物したり、沢山おしゃべりがしたいわ。噂のライアン様とも会ってみたい。)

「リリー…。」

「…私も一緒にいたいわ。お願いしてもいい?」


急な出発だったのにも関わらず、伯爵家の侍女はとても優秀でリリアの家に行くと決めた1時間後には既に馬車の中にいた。

寮生活で侍女を連れてくるのは自由だが、うちでは雇っていない。


「休みの間一緒に居られるなんて嬉しい。ずっと遠慮していたから、来てくれないかと思っていたの。分かっていたらお父様とお母様も誘ったのに。」

「ありがとうリリア。でもそこまでしなくて大丈夫よ。」

優しい笑顔に癒させる。2人でいるとあまり暗い気持ちにならずに済む。

(純粋な気持ちにつけこんだ様で申し訳ないわ…。)

「リリーが少しでも苦しくないのなら、私はそれが嬉しいの。あちらに着いたらお揃いのドレスを作りたいわ。」

(少し恥ずかしいけどリリアとお揃いなんて特別仲良しみたいで、嬉しい)

「私も着てみたい。楽しみね。」

リリアの薄ピンク色の髪と、淡いグレーの瞳の横に並ぶのは勇気がいるけど、きっと楽しい休暇になるなと気持ちを持ち上げた。


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