62話 マナは世界を跳ぶ
『次元転移』
まさかの魔法。敵が秘匿しておりソウルアバターたちが必死になって調べていて、それでも手に入ることのなかった魔法。スキルとしてしか手にはいらなかった魔法がマナたちを襲った。
というか、慌てたのはマナだけで、鍵音たちは気づいていない。超高速戦闘の世界なので、マナとサキュバス以外は、時間が停止したかのように動いていないからだ。
ちょっぴり連れてこなければ良かったと思ったのは内緒。
━━そうして、眩い閃光が放たれて、空間が歪み、次元の裂け目が生まれると、マナたちはこの世界から飛ばされてしまうのだった。
◇
「ふぇ!? こここここ」
慌てた様子の鍵音が周囲を見渡して、踊り狂う。恐怖と混乱が天元突破して、遂にダンサーへと覚醒したらしい。
「落ち着いてください、マスター。鶏へと進化して蜘蛛を配下にして生き延びるのはまだ早いと思います。それと、今は罠として使われた魔法の解析をしているので、少し落ち着いて黙っていてください」
「元ネタわかる人いないよ!? それ宇宙は芋虫の意識の中だったってやつだよね?」
「鍵音ちゃん、よく元ネタわかるねぇ。私は全然わかんないや。それよりも、もう少し手足を伸ばしてメリハリをつけないとダンスはカッコ悪いよ?」
鍵音の踊りを冷静に評価するルカさん。ですけど、鍵音と同じく浮かない表情だ。
まぁ、気持ちはわかる。私としても戸惑ってますから。ですけど、今は『次元転移』の残滓から構造を解析しないといけない。
久しぶりに真剣に集中して、魔法陣を記憶する。全ての神経を集中させて、外界への感覚も閉ざして。敵に狙われれば致命的な隙。ですが、これだけは命を賭けて記憶する必要がある。
次元を超えた際の歪みの亀裂から覗く次元転移の仕組みを全て記憶。
時間にして数分。戦闘においては永遠に敵のターンとなるほどの隙。貴重なる時間を費やして、保存していった。
そうして、軽く息をつく。緊張から額にかいた汗を拭う。
「ふむふむ……かなり複雑な魔法陣。ですが全ての魔法陣は記憶しました。解析は時間がかかるのでサブブレインにてバックグラウンドで行いますか」
情報を司るマナであっても、この魔法陣を解析するのは時間がかかる。恐らくは数日は必要だろう。
「それにしても……私を次元の彼方に飛ばすとは扱いが邪神とかレベルですね。ひどい話です」
倒せない敵を封印とかする話は知っていますが、この扱いは少し酷いです。もう少し、美少女に対する尊敬を持って欲しい━━んん?
やけに鍵音たちが静かだ。さっきまではダンス評をして騒いでいたのに?
おかしいなと、周囲へと注意を向けると、鍵音たちは倒れていた。陸に上がった魚のようにピクピクと体を痙攣させて、息はゼェゼェと死にそうな呼吸になっている。
「なんでマスターたちは倒れているんですか? もう疲れて眠くなったとか? チシャは分かります?」
マーモットのチシャへと声をかける。彼女はなぜかマーモットへと変身して立っているのだ。虚無な瞳でお鼻をひくひくとさせて2本足で立つ姿はとてもラブリー。
「ご、コホン。マナ様、この空間内は空気がほとんどありません。そのため私もマーモットパワーでマーモットに変身しております。マーモットモードなら、いかなる環境でも耐えられるので。ちなみに零下100度ほどでもあります」
「そういえば、ここは空気ないですね。マスターたちも凍りつきそうになってます」
身体の水分が凍りついて、徐々にミイラ化しそうになってる鍵音たち。このままだと、遥か未来にミイラとなった鍵音たちは昔を知るための貴重なる資料になりそう。
マモは私の使い魔だ。その身体はいかなる環境でも生きていける能力を持つ。ソウルアバターの使い魔なので当然ですけど。きっとチシャを守るために、マーモットモードに変身させたに違いない。
改めて周囲を見渡すと、コンクリート製の部屋だった。魔法付与されている頑強な物で数千年経過してもヒビ一つ入らないタイプ。しかし完全に密閉されているわけではなく、上へと繋がる階段も見えるので、空気は普通にあるはず。
なのに、ここまで薄い空気なのは変だ。
「た、たしゅけて〜」
「あ、はい。先に助けないといけませんね」
『情報改変:適応体』
手のひらを翳して、三人に魔法をかける。ペカリと三人の肉体が輝くと、今にも死にそうな荒々しい息がゆっくりと落ち着き、凍りつきそうな肉体が元に戻っていった。
「はぁはぁ。し、死ぬかと思ったよぉ。でも、さっきまでの息苦しさもないし、凍りつきそうな程の寒さもなくなってる。ありがとう、マナちゃん」
「これどんな魔法なんですか? 見たことない魔法なんだけど?」
「とりあえずマーモットから元に戻れて良かったです。もふもふな毛皮に覆われて、安心感が凄かったので、あのままでも良かったような気もしますが」
不思議そうにする三人。
「これは環境耐性の肉体に変化させる魔法です。この魔法の効果により、マスターたちの肉体維持に必要な物は魔力だけとなりました」
「おぉ~。そ、それは凄いね! でも、魔力が消費されるんだよね? 魔力が尽きたらどうなるのかな?」
「この魔法はほんの少ししか魔力を消費されないので、本来は自然回復力の方が上回ります。本来ならなので、マスターたちのしょぼい魔力では自然回復量を上回るので……そうですね、まったく回復しなければ24時間で尽きてミイラ化するでしょう。ご安心ください、その場合は立派なピラミッドを建造しますので」
気遣いのできる優しい召喚獣、その名はマナ・フラロウスなのです。ニコリと笑顔で伝えたので、鍵音たちはそれなら安心だねと胸をなで下ろし━━しなかった。
「あわわわ、そうすると24時間以内に脱出しないといけないよ! ううん、魔物が現れて魔法で対抗すると、もっと早く尽きるよね? た、たしゅけてマナ〜」
相変わらず他力本願なマスターが足にしがみついて強請ってくるが、たしかに良いところを突いている。この先で魔法を使わずに移動とか無理ゲーレベルですからね。
「でも、ここってどこなのかなぁ? ダンジョンの奥地? 空気も存在しないって、マジ殺しに来てるよねぇ?」
ルカさんがコンクリートの壁を触って、物珍しそうにする。あの罠がダンジョンの奥に転移させるものだと考えてもおかしくない。
ですが、この世界はさっきまでの平和な世界とは文字通り別世界。もしかしたら、私の世界に飛ばしたのではないかと思いましたが━━。
「とりあえずこの部屋を出ましょう。どうも予想とは違う場所なのかもしれません」
テクテクと階段を登り先導する。積み重なった埃が足跡を残し、カツンカツンと静寂なの中に足音が響く。
(静かすぎる……。予想では敵に囲まれてフルボッコされると思っていたのだけど。敵どころか生命の匂いもしない。ここはどこだ?)
マナの世界に飛びされたなら、そっと鍵音たちの魂を回収して全力で逃げるつもりだった。そうすれば、この場所を後から制圧し鍵音たちの世界へと自由に移動できる拠点とすることができる。
なんだかそう表現すると、悪魔の軍団が封印から解かれて平和な世界へと侵攻するような感じもしますが、人間モドキの世界よりも真の人類に支配されたほうがよいと思うので気にしません。
そう思っていたのに、人気がなく埃だらけ? 欺瞞の可能性もありますが、転移罠にかけられた時点で欺瞞をする必要はない。ここはどこかおかしい。
階段の数は千段はあっただろうか? 途中、鍵音が階段から転げ落ちて、スタートからやり直しというハプニングはあったが、敵に出会うことなく、私たちは外へと出ることができた。
外に出ることはできたけど……。
「わ、わぁぁ、なにここ? え? なんで廃墟なの? 地球は滅んじゃった?」
鍵音が外の様子を見て、驚愕の声をあげるが、そのセリフの通りに、マナの目の前に広がる光景は滅んだ世界があったのだった。
◇
そこは滅びた世界だった。半ばからポッキリと折れた高層ビル。骨組みしか残っていない建物や潰れた家屋。放置されて野晒しとなって久しい車両など、一目で滅んだとわかる街並みであった。
「ダンジョンの中なのかな? そうだよね? 私たちが罠で転移されて数百年後とか経過していたわけじゃないよね?」
ルカさんが震えた声で尋ねてくるが、なるほど、その可能性もあったのか。たしかに転移されてから数百年後とかありそうな罠だ。そして滅んだ世界でやり直すと。
「そういう考えもできるんですね。たしかにその可能性も捨て切れませんが、この世界は違います。恐らくは別世界に飛ばされたのです。残念ながら漂流された訳ではないですので、アダムとイヴにもなれませんよ」
イブだけでも人は増やせるのかなと、鍵音がてれてれしながら呟いているが聞かなかったこととして、チシャが話に加わる。
「ここは滅んだ別世界というわけでしょうか? いわゆる並行世界というわけですね?」
「はい。どうやらそのような魔法を使われたと思われます」
登ってきた階段へと振り向くと『第152シェルター』とプレートが出口には取り付けられていた。錆びてはいないので、これも全て魔法建築だ。
「……滅んだ世界。にしては、まだまだ建物が残っています。ここは戦争は起きなかったのですね」
リリスに滅ぼされた世界だろうか? オゾン層は存在せず、空気もほとんど無くなっている生存が難しい世界だが、マナの世界のように、強力な魔法の撃ち合いはなかったらしい。静かに侵攻されてしまったのだろうか?
「それに封印されていた能力が全て回復しています。この世界に来てからです」
グーパーと開けしめして眉を顰める。今の私の魂力は100%となっている。ということは、次元転移で封印された力は、何かの拍子で解除されたということになるが、なんでだろう? 敵にとっては100%の力を取り戻したソウルアバターなど悪夢でしかない。
「それなのにその危険性を考えても次元転移を行ったということは……私が絶対に戻れないと確信しているのですね」
これは思ったよりも厄介かもとマナはため息を吐いてしまうのだった。
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