57話 鍵音は北海道ダンジョンに挑戦する
「ここが襲撃を受けたのは、たった半日前です。助けを求めるべく連絡をしていたのですが、届きませんでしたでしょうか?」
「連絡を……残念ですけど救援連絡は来ませんでした。函館基地にも伝わってないから、私たちは無防備に千歳空港までチャーター便で訪れたんです。マジしんじらんない」
兵士の困り顔に、ルカも落ち込んだ表情となります。私としては、マナが私たちを抱えて飛んで逃げてくれないかなぁと思ってます。
夏休み、マナえもんだよ、鍵音の北海道大冒険はもう終わりで良いと思います。なにか、とても、非常に怪しい旅路になりそうだし。
「あたたたた」
「鍵音百裂拳ですか? マスターいつの間に一子相伝の拳法を学んだのですか? 面白そうなので、私にも教えてください」
「一子相伝なら、継承争いで私は確実に記憶を封印されてるよ。そそうじゃなくて、この周囲はたくさんの魔物に囲まれてるんだよね? 私たちの手には負えないと思うんです。ここは援軍を求めに行った方が良いと思います」
久しぶりに長台詞を口にして疲れてしまった。だけど言い切ったと、満足感で鍵音はふぅと顔を緩める。
「ふむ……たしかにそのとおりですね。全員を運ぶか、周囲の敵を全て駆逐するかしないと、ここは危険だとも思います」
「でも、なんでこんなに急に攻めてきたのぉ? 前触れとかなにもなかったんだよね? それに千歳空港やその周辺の街は要塞化されていて、簡単にはやられないと記憶してるんだけどぉ? Aランクのハンターたちもたくさんいたはずですよね?」
ルカの言うとおり。ここは魔物の侵攻が激しい地域なので、特に強力な防衛網を築かれていたはずです。いくらなんでも半日で防衛網を破壊されて空港すら守りきれないとかありえないと思うんですけど?
「私たちもそう考えてました。攻めて来る敵も低ランクの魔物ばかりなので、余裕で守りきれると思っていたのですが……。奴らは非常に巧みに攻めてきたのです。今までのように個々の力に頼るわけではなく、各々の能力を充分に使うように連携を━━」
兵士が説明をしている時であった。爆発音が響き、私たちのところまで、爆風が届きます。
「くっ、また敵の攻撃が再開されたようです。どうやら、貴方たちの飛行機を見て、攻勢を早めたのでしよう」
剣を手に兵士が立ち上がる。見ると、壊れた窓から悪魔たちが入り込んできていた。悪魔、そう悪魔だ。見かけからして伝説通りの悪魔だとわかる。真っ黒でツルツルの硬質な肌を持ち、蝙蝠の羽と、頭には角を生やし、縦に割れた真っ赤な瞳に耳元まで裂けた口から覗く長い牙。手から伸びる爪は鉤爪のようで、蛇のような尻尾を生やしている。
それらが小さいものは50センチ程。巨大なものは3メートルを超える体格の悪魔たちが群れを成して攻めてきていた。
「インプ、グレムリン、レッサーデーモンからミドルデーモン、時折グレーターデーモンも混じっていますね。グレーターデーモンは養殖すると経験値が美味しいと噂に聞いたことがあります」
「冗談を言っている時じゃないよ!? 見て、数千匹はいるよ! しかも魔法を放ってきてる!」
落ち着いているマナにしがみついて、ガタガタと揺らす。ターミナル内に入ってくる悪魔たち。火球や雷を放ち、ハンターたちを倒していく。
このままではあっという間に空港は制圧されちゃう。命の危険だよ!
「そのとおりです。奴らは数も多く多彩な魔法を使ってくるのです。そのため、我らはなすすべもなく倒されていきました。ここも駄目でしょう、奥に向かって逃げてください!」
新たに飛び込んでくる漆黒の狼。ヘルハウンドを前に兵士は剣を構えて悲壮な覚悟を見せる。たしかにこれだけの数と種類は、ハンターの揃っている首都でも守り切るのは難しい。
「ガウッ!」
「ぬぉぉ!」
ヘルハウンドへと剣を振るい、兵士は迎撃しようとする。だが、振るう剣を噛みつかれて、力で押されていく。その間にも、ヘルハウンドたちは次々とターミナル内に入ってくる。
「大丈夫。逃げる必要はないよぉ。私も強くなったから、マジ力を見せてあげるね」
ルカが腰に下げたワンドを引き抜くと、顔の前で構えて魔力を集中させていく。その魔力の凄まじさは突風となり、辺りの魔物たちが動きを止めて注視するほどだ。
Sランクにパワーアップしたルカ。その力を皆に披露する時が来たのだ。
「雷よ、鎖となれ。敵を焼き尽くす雷は連鎖する」
『チェインライトニング』
ワンドを前に突き出すと、魔法陣が描かれて、眩い閃光と共に雷が放たれた。まるで大蛇のように太い雷は、ヒュドラのようにその首を分裂させて、周囲の魔物たちを絡み取っていく。回避しようとする魔物もいたが、雷の速さの前には無駄な足掻きであり、全てが等しく焼き尽くされていった。
ターミナルに入り込んできていた魔物たちは、ルカのたった一発の魔法で全滅した。焼けた肉体から煙が立ちのぼり、ルカはクスリと笑うと放電したワンドを一振りして、信じ難い光景に呆然とする皆を見る。
「皆さん! 私は蘇我ルカです。私のランクはSSSランク! これくらいの敵なら何匹来ようとも相手にはなりません。さぁ、この地を取り戻しましょう!」
堂々たる態度で、強き美少女の叫ぶ言葉に、皆は最初は戸惑い、その後に徐々に笑みが浮かぶ。
「SSSランク? 聞いたことはないがそんなに強いハンターがいるならいける!」
「あぁ、あの一発で魔物たちを駆逐したんだ。ルカ様についていければ助かるぞ!」
「奇跡の回復をしてくれた少女はルカ様の隣にいる子じゃないか? それなら怪我を負うことも恐れずに戦えるぞ!」
「あぁ、街にはまだ生き残りがたくさんいるはずだ。ここからは俺たちの反撃のターンだ。人間達の力を見せつけてやろうぜ!」
先程までは絶望の表情で、あとは死ぬだけだと思っていたハンターたちの顔が希望に満ち、戦意を溢れさす。
そして、一気に反撃となるのであった。
「ずるいです! ルカさんが私の出番を奪っていきます。ここは私が活躍して、成り上がり英雄譚の一章を紡ぐパターンなのに、私はこのままだと単なるモブキャラ!」
そして鍵音は絶望して膝から崩れ落ちていた。一章を紡ぐというか、一笑される少女。それが本屋鍵音。成り上がり英雄譚の主人公になろうとする少女である。
「まぁまぁ、白い友人でも食べませんか? そこのお土産屋で買えましたので、お一つどうぞ」
「うぅ、チシャさんありがとうございます。私には一つで、残りはマナにあげるんですか?」
メイドさんに慰められて、モキュモキュと、ホワイトチョコのクッキーを食べる鍵音であった。
◇
「マナえもん! 私も活躍したいです。だからスペシャルな装備ください。用意してるって言ってたよね?」
どこまでも他力本願の主人公は、ターミナルの敵が撃退した後に、忠実なる召喚獣にスリスリと子猫のように纏わりついていた。
鍵音もそこそこ活躍はした。なにせもうCランクだ。敵は平均Dランクで、時折Cランクが混じる程度。
これでも天才的な魔法操作能力を持つ本屋鍵音なのだ。時折、その設定を忘れてしまうほどに、ポンコツな姿しか見せてはいないが、彼女は少ない魔力でも戦えるようにと考えて、省コストで魔法戦を行える天才少女なのである。ポンコツすぎて、影が薄いけど。
だから、他の兵士よりも活躍はしていた。しかしそれは他の兵士よりはとの注釈がつく。おっ、あいつすげ~なと言われる程度だ。
しかし、ルカは最上位雷魔法を使いまくり、敵をどんどん殲滅していき、その凄まじい力に悪魔たちは抵抗することすらできない。
そして、マナは回復魔法を使い続けていた。
「なぁ、俺は今首を切られたよな? なんか元に戻ってるんだけど?」
「俺なんか焼かれたのに、火傷の一つも残ってないぞ?」
「身体がバラバラにされたのに、い、今のは気の所為なのか?」
味方もドン引きする威力の回復魔法を使っていた。なにせ怪我を負った瞬間には元に戻っている。恐るべき回復能力。もはや不死とも呼んで良い力で、敵もどんなに攻撃をしても、回復してしまうゾンビのような人間たちに困惑してる。
サクッと首を切っても、炎でウェルダンにしても、首はついているし、身体は焦げていない。もしや幻影ではと、ディスペルらしき魔法を使う悪魔もいたが、もちろん幻影などではないので、消えるわけもなく、段々と押し負け始めていた。
「マナ、なんか強くなってませんか? 少し前よりも、その、次元の違う強さになったというか」
回復魔法を維持しているマナは天使のように白い翼を生やして、光の粒子を無数に発しながら魔法を展開している。その様子は見惚れる程に神秘的で、人などが見てはいけない神々しさだ。悪魔なのに天使のようなのだ。
その様子から、以前はある程度の強さを測れた鍵音であるのに、今はまったくわからない。ただ一つ言えることは人間の物差しでは測れない高次元のレベルに達していた。なぜなのかは分からないが使い慣れている様子から、この力が本来のマナ・フラロウスの力であることはわかる。
どことなく、マナの様子が不吉に感じて本能が警鐘を鳴らすが、マナは鍵音の召喚獣。絶対服従のしもべであるので警鐘を無視する。
「そうですね、多少力が戻ってきたので、少しだけ見せつけても構わないと思ったのです。それよりもスペシャルな装備ですね、お任せください。このような物をお持ちしました」
マナが手をふると、棺桶のような鉄の箱が目の前にドシンと置かれる。ギギぃと蓋が開き、なんだかとても嫌な予感。
ギギぃと首を傾げて、マナを見ると、予想通りにマナはニコリと微笑むと鍵音を抱きかかえて、箱に放り投げるのであった。
「んにゃー! な、なんかぬめぬめしたものが絡みついてくる! きゃー、お嫁さんにいけなくなっちゃう! そこはらめー!」
そうして鍵音の悲鳴というか嬌声らしき声が響き、ニコニコと待つマナと、ウワァと顔を真っ赤にしてルカが箱を見つめて、数分。
箱が開き、鍵音がよろめきながら姿を現す。
「うにゃー、この姿は何〜!」
「それがマスター専用の第8世代型魔導強化服YK96『ビキニアーマー』です」
「ネーミングからして酷いっ!」
名前通りにビキニアーマーを着込んだ鍵音が。
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