56話 マナは北海道入りする
北海道は魔物との戦争の最前線といえよう。チャーター便の窓から覗く北海道の土地は荒廃はしていません。森だらけで、街がどこにも見えないだけです。
「アテンデート、だっけ? おでんでーすだったかな? えー、そろそろ千歳空港に到着しまーす。千歳空港は既に魔物の手に落ちてるので、魔物の襲撃にお気をつけくださいでつ」
野太い声のおっさんがCAの代わりに説明をしてくれる。チャーター便なのに少しおかしな気がするけど、気の所為です。
「千歳空港周辺はまだ人類圏のはずなんだけど、マジ終わってるの?」
「へーい、陥落したのは2時間前となっておりまーす。もはや生き残りはほとんどいないでーすでつ」
ルカさんの問いに、肩をすくめて答えるCA。さすがは情報収集ではピカイチですね。あとで褒めてあげましょう。
「えええええ、帰りましょう。これは危険で危ないというやつですよ。マナ、アイスを食べている場合ではないと思います。ほら、ここは勇気ある撤退をするべきです。なぜならこの飛行機が破壊されたら帰れなくなるからです。サバイバル生活が始まっちゃいます」
「マスターの夏休みの大冒険に相応しい展開ですね」
山盛りになったアイス、とても美味しいです。スプーンで思い切り掬い上げて口いっぱいに頬張る幸せは人類全ての幸福と言っても良いと思います。
「ちっがーう! たしかに青い狸の劇場版アニメだと帰れないパターンがあるけど、あれはなんでも出してくれる不思議ポケットがあるからです、個人的には木の実の中に好きな食べ物ができるトンデモアイテムが好きです! あれでステーキとか出したいです!」
バンバンと椅子を叩いて怒る鍵音です。ワクワクの冒険が始まるのに、プルプル震えた小鹿みたいになってます。相変わらず気弱です。
「でも、それを言うのはもう遅いと思うんです」
「遅い? え、なにがですか?」
「簡単な話です。ほら」
「ほら? ホラー?」
私がスプーンを揺らし、ナンノコッチャと小首を傾げる鍵音。そして━━。
ガクンと飛行機が揺れた。ガクンガクンと揺れて明らかに異常と分かる。窓から外を見ると炎弾が通り過ぎていった。対空兵器よろしく地上から激しい砲火を放っているのだ。
「へ? ナ、なんですかこれ?」
「それは━━」
鍵音の問いに答えようとすると、放送が響く。
『こちら操縦席。現在、魔物による攻撃を受けております! 既にシールドは限界であり、脱出をしなくてはなりません。乗員は必要な物を持って、全員脱出をお願いします!』
「ね?」
「ね? じゃないですよ! 早く必要な物を……って、全部貨物室にありますよ!?」
「大丈夫です。アイスクリームは私が責任を持って保護しますので!」
絶対に必要な物はアイスクリーム。これで間違いありません。
「貨物室は諦めよう鍵音ちゃん。パラシュートは用意してあるから脱出だよ! あとマナちゃんをこの状況で頼ると、髪の毛になるから諦めよう!」
「なんでパラシュートが用意してあるのか教えて? 誰か教えて〜!」
「さ、いくよ、鍵音ちゃん!」
鍵音を引きずると、レバーを引いてドアを開く。気圧の変化で、暴風が飛行機内に入り込み、乗員の身体を揺らす。
「俺の方は貨物室に仕舞った強化服を回収してから行きますので、お気になさらずに〜」
おっさんが貨物室に向かって走り、私も重要なアイテムを回収するべく走る。
「私も冷蔵庫の中身を回収します。中身を保護しないとアイスクリームの怨念が私を悩ませます」
絶対にアイスクリームは置いていかないぞと、溶けないようになおかつ凍りすぎないように繊細な温度管理を魔法でしつつ、こんなこともあろうかと持ってきたクーラーボックスにしまってゆく。
壁面が気圧の変化で紙のように破れていき、飛行機がガクンと機首を下げる。
「脱出しましょう、ご主人様」
まだ避難していなかったメイドのチシャがポテチとお弁当を腕に抱えて脱出。私も他の食べ物を抱えて外に出ます。お菓子を落とさないよう口にくわえて、風圧も耐えます。
「アァァイアンプププ」
「アイキャンフラーイ!」
鍵音たちが風圧に煽られながら空を飛ぶ。外では無数の火球が空へと放たれており、飛行機は既にボロボロで煙を噴いて爆発した。
ドンと鈍い爆音と、爆風。粉々に吹き飛ぶ飛行機の中から4機の強化服が飛び出てくる。
「うっひょー、この強化服を残していくわけにはいかねーな」
新型魔導強化服YK03『キタキツネ』だ。スラスターから火を吹かして、飛来する火球を縫うように躱しながら、ライフルを地上へと向ける。
「熱き歓迎痛み入る!」
引き金を引くと、膨大なエネルギーを内包した光線が放たれる。迸る光線は地上へと落ちると、切り裂くように薙いでいく。
光線の奔った箇所が噴火をするように爆発し炎の柱を生み出すと、周辺を焼き尽くしていき、魔物たちの断末魔の声が響き渡るのであった。
キタキツネたちは空中でホバリングすると、こちらをちらりと見てから離脱する。一緒に行動をするわけではない模様。彼らも目的があるのだろう。だろうというか、あるんだけどね。
彼らには三角測定で魔力濃度が一番高いところを調べて貰う予定だ。恐らくはそこに敵のボスが隠れ潜んでいるはず。
「ふわぁ、あれは新型魔導強化服? どこの人?」
パラシュートを開いて、ルカさんが飛び去ったキタキツネたちを見て聞いてくる。
「わかりません。いつの間にか潜入していたようですね。私の目をくぐり抜けるとは、かなりの潜入のプロなのでしょう」
「あ、あいしゅにしか目を向けてなかったた」
そして、なぜかマナの身体にしがみつく鍵音。
「パラシュートは使わないのですか、マスター?」
「おとおとしちゃった」
「マスターはアクション映画のヒロインには絶対になれませんね」
たしかにパラシュートを持っていない。四角い荷物は、鍵音の手を離れて落下していくのであった。
◇
千歳空港周辺は空港という立地条件が必要となるため、街に出るまでは意外と寂れている。まぁ、滑走路も延ばさないといけないし、騒音対策が必要になるので、当然のことなんだが。これが電車の駅とかなら、城下町よろしく栄えているんだけどね。
とはいえ、それは栄えていないというわけではなく、距離をとっているだけで少し離れれば街はあるし栄えている。
そのはずであり、北海道は放棄されたとはいえ、街はまだ存在するはずだった。魔物を倒して魔石を手に入れるためにも、出島というわけではないが、ハンターたちを中心とした街が残っているはずであったのだが……。
「これはどうしたことでしょう? 私の海鮮丼は? ウニとイクラを山盛りにした海鮮丼を出すお店はどこですか?」
「お店の心配をするところじゃないと思う。もっと気をつけないといけないところがあると思うよ?」
千歳空港は崩壊していた。結界を張っているはずなのに、空港を囲んでいた結界柱は無惨にも折れており、駐機していた飛行機は全て破壊されている。ターミナルも窓ガラスは割れており、椅子がひっくり返ったり、電子ボードが外れかけて天井から今にも落ちそうだ。
もちろんお店もやっていない。電灯は落ちて、店内は薄暗い。
「ガイドブックによると、稼いだハンターたちが金を使いまくるので、それを目的としたお店がたくさんあると書いてありました。なのに、これはどういうことでしょう?」
「ウ~ン、飛行機に潜入してた人が、2時間前に襲撃されたって言ってたよね? それでここまでやられたんじゃないかな?」
「やられすぎです。いつお店が開くかを尋ねませんと」
「まーな! 駄目です。ほら、傷だらけの人たちばかりなんですから……傷を治してあげてください。えっと、傷だらけの人たちが見えてるよね?」
「そういえば、傷だらけの人たちがいますね。全然目に入りませんでした。お店ばかり見てたので」
多くの人々が傷だらけで座っている。どうやら襲撃で倒されたらしい。包帯を巻いているが、血が滲み出て痛々しい様子だ。弱々しい青褪めた顔で、こちらをちらりと見てくるが話しかけることもできないほどに疲れているようだ。
「治してよろしいですね? 隠すことにしていたのでは?」
「さすがにこんなに大勢の人たちを見捨てるわけにはいかないです。皆はこの土地を守ろうとしていたんですし」
少し躊躇うが、すぐに強い意志を目に宿らせて頷く鍵音。その善性は眩しいほどで、マナは知らずに笑みを浮かべる。
(こういうところが人間モドキと断じえないところです。鍵音に出会って良かったと思います)
「わかりました。では、全員を治します」
パチリと指を鳴らす。
『解析』
『エリアヒール』
周囲の人たち全ての遺伝子を解析。それぞれに合わせた回復魔法を使う。数千人という怪我人それぞれに合わせた回復魔法。神業ともいえるが、この程度なら今の私には簡単なものだ。
ターミナルを神秘的な純白の光が包む。外から見たら、白い光のドームがターミナルを包んだように見えただろう。
その神秘的な光は傷ついた人たちを一瞬で癒す。重傷で今にも息絶えそうな人も、腕や足が欠損して激痛に呻く人も。瞬時に完全な肉体に戻し、さらには魔法回路を正常にしたのでパワーアップもさせるのであった。
「な、なんだ? 怪我が急に治ったぞ!?」
「う、腕が。俺の腕が生えた! 魔物に食われちまったのに!」
「なんか力が湧き出して来るぞ? これはなんだ?」
マナを中心に使ったわけではないので、誰もマナが使ったとは思わなかったようで、ある者は神の奇跡とか祈りを捧げている。
「捧げる生贄はウニとイクラ丼にお願いします。こぼれ落ちるほどに乗せてくださいね」
「ウニとイクラ丼にすごいこだわりあるね。帰ったら食べさせてあげるよぉ」
「そそそそほ」
「うんうん、そんなことよりもなにが起きたのか聞くべきだね。一番偉そうな人に声をかけてみよう」
たしかにそのとおり。ウニとイクラ丼を台無しにした魔物が何かを聞かなくてはなりませんね。
北海道の大冒険。なかなか楽しくなりそうです。
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