51話 ソロモンの思惑
マナの元の世界。ソロモンたちソウルアバターが人類防衛のために日々戦闘を繰り返す地獄のような世界。
そこでは新たなる戦争が一つ終わりを告げようとしていた。
「ソロモン閣下。ティターンの巨人の中核スルトを撃破。敵の王ガイアを討伐したと報告がありました」
「そうか、巨人族もこれで終わりだな。我らソウルアバターの勢力がこれで一気に高まるだろう。よくやった、皆へネギ入りのもり蕎麦を配るように」
草一本生えない荒地にて、瓦礫に腰掛けてソロモンは部下の報告を聞いて、酷薄なる笑みを浮かべる。最後の台詞がおかしいような気もするが、皆はもり蕎麦大好きなので、全然問題ない。所変われば品変わるのである。
ソロモンの向ける視線の先には多くの巨人族が倒れ伏していた。皆、恐怖の表情で息絶えており、魔力体なので数週間すれば肉片も残さずに消えていくだろう。後に残るのは寂寥を感じさせる瓦礫が重なる荒地だけだ。
「兵どもの夢の跡とはいにしえより言われるが、我らの戦争ではなにも残らないな。虚しさも感じられず、ただ風が吹くだけか」
ソウルアバターも魔物も、魂を核として魔力体を形成し戦うので、戦闘のあとはなにも残らない。倒されれば、持っている装備も繰り出す威力に耐えられず消滅するので、死骸も武装も最初からなにもなかったかのように、綺麗に消えて無くなる。
「我らが魔物を駆逐して、新たなる世界に移住した後に、星々から宇宙人が訪れたら、文明もなにもないつまらない星だと評価するだろうよ」
化石もないし、文明の痕跡も無くなる。今は空気すらもほとんどないので、生命体がかつてこの星に文明を築いていたなど予想すらしないだろう。
そのことにソロモンは寂しく思う。人類を守るために遥か昔より戦争を繰り広げていた司令官は、結局なにも守ることができなかったのだから。
「それはこの星を捨てるということで作戦を進めるからですか、ソロモン?」
涼やかな凛とした声音は誰だと尋ねる必要もない。
「うむ。現在の地球はもはや一からテラフォーミングをした方が早いといえよう。魂と生命に満ち溢れた世界があるのならば、そちらに移住した方が良いと考える。人類の数が増えて余裕ができたら、この星に再興のために戻ってくれば良い」
「合理的ですね、ソロモン。その計画に問題はないと熟考します。その前にこの地球から魔物を全て駆逐しないといけませんが」
「ふ。ガイアを討伐した時点で我らの勝利は近くなった。もはや単体の軍ではソウルアバターたる我らを倒すことは不可能だ。そうだろう、マナ・フラロウス」
振り向く先には青みがかかった髪を風に靡かせる美少女が立っていた。強い意志を感じさせる瞳を宝石のように輝かせて、以前よりも強いオーラを纏っている。
ティアマトに続き、ヨトゥンを捕食した結果だ。無限の命を持つと言われるヨトゥン。再生を得意とするマナとのスキルの相性が良すぎた。一欠片でも魂が残れば、即座に元に戻るのだ。ティアマトの戦闘力と合わせると、マナを倒すのはほとんど不可能ともいえた。
ティターンは絶対にヨトゥンをマナに倒されてはいけなかったのだ。攻撃特化であり、全てを焼き尽くすといわれたスルトも、無敵ともいわれた皮膚と無限の回復力を持つガイアも、マナの支援を受けるソウルアバターの軍の前には敵わなかった。
今はガイアの魂をソウルアバターの一人が吸収しているところであり、倒した高位の巨人の魂もそれぞれ吸収している。知性竜の魂を吸収しているソウルアバターたちは王以外負けることはない強さを持ったのだ。
これによりソウルアバターは単一の軍としては、この地球で最強となった。これを防ぐには、ティターンの軍をソウルアバターが襲撃した際に、他の王たちが援軍に来なければならないが、元より地球に侵攻した50の王たちは1000年の間、未だに領土争いをしているのだから、援軍に来るわけがなかった。
これにより、彼らの命運は尽きたともいえる。後は連合を組んでソウルアバターたちを倒そうとする他ないが、ありえぬ未来だ。
「油断は禁物ですよ、ソロモン。あり得ない状況と予測しても、予測する時点で、その状況はあり得るのです。私は残りの王が連合を組んできてもまったく意外には思いません」
「たしかに。慢心は最悪の敗北を齎す可能性がある。ピンチはチャンスと言われるが、敵にとってチャンスとされたら、たまったものではないからな。あと一歩で願いが叶うと、油断してどれだけの人間が死んだことか」
「素直に部下の進言を聞くのは、貴女の美徳と言えます。油断なく戦いをしましょう。今は夏休みとなったので、7月は全て動けます」
「学生の身分は楽しそうだな。よろしい。では、こちらの戦いをさっきから眺めていたやつ」
人差し指をはるか遠方数百キロは離れている岩山に向けると、ソロモンは軽く魂力を込める。
キィン
ガラスをひっかくような音がすると、遠く離れた岩山が閃光を発して爆発した。数百キロは離れているにもかかわらず爆風がソロモンのところまで届き、地面が激しく揺れる。
「あのピーピンクトムの親玉のところに攻めよう。兵は神速なり。皆は回復を終えただろう?」
「もり蕎麦を食べた後でないと、暴動が起きると思いますよ」
人知を越えた戦闘力を持つソロモンだ。そのため、ソロモンの行動に驚くことなく、クスリとマナは微笑み━━。
半日後。無貌の王ニャルラトホテプ率いる軍は全滅したのであった。
◇
「予想よりも遥かに王を討滅できる速度が早いな。私の予測では30年はかかると思っていたのだが」
「別世界で能力の封印を解くと、地力も上がったからですね。それと王の魂を食べたソウルアバターの力は予測よりも遥かに強い。私たちの軍の力は加算ではなく、乗算となっていると判断します」
拠点に戻り、もり蕎麦をツルツルと食べながら戦況を話し合う。たしかにマナの力は目を見張るものがある。もはやタイマンで勝てる魔物はいないかもしれない。火力が低いので、倒されることもないかもしれないが、分の悪い賭けとなるだろう。
「これなら数年で王たちを全て討滅できるかもしれん。あちらの世界の計画を早めるように。そのための力を持っていけ」
オーブをテーブルにころりと転がす。
「ん? ニャルラトホテプの魂ですか? ガイアは?」
「ガイアは防御力が上がるから再生する貴君よりも、火力の高い者に食べさせた方がよい。ニャルラトホテプの力は便利ではあるが、面と向かって戦闘をするには扱いづらい。貴君なら上手く使えるだろう?」
「とりあえず食べてみますが……ふむ、望んだ者に変身できる能力ですか。相手のスキルや記憶を完全にコピーできる……。しかし、昨今のセキュリテイの技術の上昇でコピーに時間がかかる上に、クラッキングされる可能性もあるので、死にスキルとなった王ですね。戦闘において、あらかじめ強い魔物のスキルを模して使うくらいだったと」
「そうだ。数百年前の人類が多数いたころは、搦手を得意とするニャルラトホテプは人類間に侵入し、混乱をもたらして最悪であったが、ソウルアバターが誕生以降は最弱とも言われる立場となった王だ」
「哀しい王ですよね。自身の力は他の王を真似ていましたから。倒されるのも当然です。配下の眷属もドッペルゲンガーが中心で弱かったですし。でも、この力はあちらの世界では使い勝手は良いです」
『無貌』スキル。相手の記憶すらコピーする恐るべき能力だ。ニャルラトホテプは相手を見るだけでその能力を発動できた。とはいえ数の少なくなった人類軍にそのスキルは意味がなくなったが。
ソロモンの見ている間に、マナの姿が変わり始めて、一人の気弱そうな少女となった。どことなく卑屈そうなのに、その瞳は獲物を隙あらば食いちぎろうとする油断ならない様子を見せていた。変身したマナは多少驚きを見せて、手のひらをグーパーと動かしている。
「その少女は?」
「私のマスターである本屋鍵音です。なるほど、記憶も頭に置かれた本棚に置かれている本のように確認できます。むむむ、これは素晴らしいです。元のスキルも問題なく使えますし、潜入工作用としては最高のスキルだと思いますよ」
「ほほぅ。その少女が貴君のマスターとしている者か。内包している魔力も完全にコピーできるのだな」
「えぇ。実際ティアマトとかに変身したらニャルラトホテプもかなり強かったはずですが、ソウルアバターに負けた者に変身しても負けると思っていたのでしょうね。これならば使い魔たちも変身させて、単体行動が可能です。これなら拠点設営も計画よりも遥かに短期間で設営できるでしょう」
「拠点設営は上手くいってるのかね?」
「それが人類を拠点で生活させるとなると、やはり難しいのです。空気っていりますよね?」
「……た、たぶん必要かな?」
「常に零下の室温でも快適に暮らしていけるでしょうか?」
「ううーん。少し寒いと文句が出るかもな?」
マナの身体は、というかソウルアバターの身体は強靭だ。空気がなく、零下でも快適ですねと、普通に生存できるため、脆弱な肉体を持つ人類の居住空間の環境にピンと来なかった。
だが、過去の記憶から読み取ると、人間は絶対零度の中で日光浴はできないし、溶岩をプールにして泳ぐことも難しいらしい。
うーんうーんと悩むソロモンとマナである。
「ですので、まずは実験体として、拠点に住む人間を使います。もちろんあちらの世界の人間モドキに住んでもらうのですが、人脈とかないので集める方法に苦心していたのです」
「ほほ~。それは良いな。でも、そう簡単に地下の拠点に住む者がいるか?」
「もちろん、普通には集まらないでしょう。ですので━━高い身分の者に変身して集めます。この先世界が滅びるため、シェルターを用意しないとまずいとね。ノアの方舟のような物です」
「ふむ。よろしい。それならば良い生活環境を形成できるだろう」
畏まりましたと、マナは転移して目の前から消える。その様子を見て、ソロモンは思う。
「悩むなよ、マナ・フラロウス。これが人類救済のための必要悪なのだから」
その笑みは暗く、口元は歪んでいたが誰も気づくことはなかった。
ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。
モブな主人公。マンガボックスにて連載してます!
コンハザがシーモアにて発売中!




