50話 鍵音は追求される
終業式の打ち上げ。本屋鍵音が生まれてから15年、初めて聞く言葉である。なんだかクラスで話しているところを昔立ち聞きしたことがあるが、たぶんメリーさん系統の都市伝説とかだと思ってた。「私クラスメイト。今カラオケボックスの前にいるの」とかなんとか電話してきて人の命を奪うのだ。そうに違いない。だって、一回も誘われたことがなかったんだもん。誘われたら死ぬんだよね!?
と、妄言を騙る本屋鍵音であるが、借金をしていることもあって、ドナ・ドナドーナと、蘇我ルカのお屋敷に連行されました。
「ふぅ、それじゃ落ち着いてお話できるね。教室だとどうしても人の耳があるから、あまり聞かれたくない話はできないよねぇ」
「そそそそそ」
「うんうん、そうだよね。鍵音ちゃんも同じ意見で良かったぁ」
長年の伝統とか、積み重なっている貫禄のある蘇我家のお屋敷の部屋にて、ルカを前にプルプルと鍵音は震えていた。ルカは完全に鍵音語をマスターしたようで、これが真の陽キャの力かと鍵音は恐れ慄いたりしている。実に気弱な陰キャといえよう。
ジリジリと顔を近づけてくるルカ。後退りしたいけどふかふかのソファに座っているため、ずぶずぶとソファに沈み込むだけの鍵音。そして、我関せずとモキュモキュとお菓子を食べ続けるマナである。ルカがテーブルの上に山程お菓子を用意したため、食べるのに夢中でマスターたる鍵音は無関心というレベルで興味がなさそうだ。なんと冷たい召喚獣だろう。
食べ物を前にすると、周りを気にしないマナの性格も読み切っているため、ルカはマナをまったく気にしないで、鍵音を問い詰めようとしていた。
「あのねぇ、私ずーっと不思議に思ってたんだ、鍵音ちゃんは昔の怪我をエリクシールで癒したんでしょ?」
「あ、はい、そののののとおりです」
最近ルカに慣れてきて、普通に会話できるようになってきた鍵音だが、それでも問い詰められたりすると、いつものコミュ障になってしまう鍵音である。
そしてそんなコミュ障で弱気の鍵音の隙を突くようにルカは目的を達しようと企む。
「鍵音ちゃん。ずはり聞きます、マナちゃんは完全回復魔法を使えますね? 人類の回復魔法は自然治癒能力を高めるだけ。魔法ともいえない魔法。理由は回復魔法を使うと、遺伝子レベルでの情報を理解していないと癌化、もしくは奇形となるからです。目から手が生えたり、顔が腕に発生したりと、昔の回復魔法の記録では悲惨な結果しか残っておりません。ですが、マナちゃんは正常に回復できる!」
探偵ばりに確信を持った言い方に、鍵音はタジタジとなりながら、探偵物の小説でなぜか全ての犯人が持っている天才的な演技で誤魔化すこととした。
「ししししし」
老婆の怪しい笑いをして、顔を背けて知りませんよとアピールだ。もちろん、そうなんだとルカは誤魔化されはしなかった。
「気づいている家門はもう気づいてるよ! 葛城先輩が『魔力もなぜか大幅に上がったぞ! ほら見てみろ、数倍に上がってる。やはり僕は天才だった!』って、言いふらしてるし!」
「えぇぇぇぇぇっ! そんなことしてるんですか!? わたわた全然知りませんでした!」
ルカから告げられた言葉にさすがに動揺を隠せない。最初から隠せていなかったようにも感じるが、鍵音的には隠しているつもりだったのだ。
「だって、鍵音ちゃんは私としかマトモにお話しないでしょ? だから噂話とか疎いと思うんだ」
「あ、はい」
ルカの言う通りだった。
だって人と話すの怖いんですもん。
落ち込む鍵音にルカは肩に手を置いてきて、ニコリと微笑むと優しく告げてくる。
「だからね。ここは強力な家門の後ろ盾が必要だと思うのっ。私ならこっそりと後ろ盾になれるよ。蘇我家は大きいし力もある。鍵音ちゃんの借金も全て完済されたことにしていいしね。お友だちなんだから助けるのは当たり前!」
なんか悪魔のような囁きである。隣に悪魔はいるけど。
「ううぅぅ。回復魔法が原因って、確信持たれてるんですか?」
「うん。そもそも鍵音ちゃんの回復が不自然だったし、今回の巨人ダンジョン事件でバレバレになったよ」
ぐうの音も出ない。たしかにおかしい。というか、おかしいことしかない。
「だからね、後ろ盾になる代わりと言ってはなんだけど、お願いがあるんだ! 私にも回復魔法をかけてくれないかな? パワーアップするやつ!」
「ううぅぅ。ま、マナ、ルカさんにかけてもらえますか?」
こと、ここに至り、鍵音は誤魔化すのを諦めた。ルカのレベルで確信してるのだ。他の家門も動くのは間違いない。そして、一応お友だちと言ってくれるルカに頼るのが一番良いと考えたのだ。
他の家門だと、話し合いなどなく、鍵音は豪華な屋敷に軟禁されて、マナは延々と回復魔法を使うことになりそうだ。選択の余地はなかった。
「はい、良いですよ。ではルカさん、少し指を噛ませてもらいますね」
マナにとってはたいしたことはないようで、ルカの手を取ると、人差し指をその小さなお口でカプリと噛む。
チゥチゥ。
チゥチゥ。
チゥと血を少し吸うと、ぺろりと口を舐める姿が妖艶でなんとなく背徳的。
「あ、あははは。なんか照れちゃうね。人差し指を噛まれただけなのにね。はぁ~、マジ暑くなってきた。顔赤いかな? えへへ」
同じことをルカも考えたのだろう。顔を赤らめて、手で顔を扇いでいる。鍵音はといえば、なんとなくという、はっきりと嫉妬心で悔しがっていた。自分だけのマナなのにと、独占欲丸出しである。成り上がり主人公にはまったく相応しくない精神性であった。
「ルカさんの情報を全て解析しました。では回復魔法をかけますね」
『情報創造:完全再生』
マナの翳す手から柔らかい純白の光が生み出されて、ルカの身体を包んでいく。その光は無傷のはずのルカの身体なのに、完全に再生させていく。魔法回路はもちろんのこと、見えない傷も。
「うわぁぁ。身体がポカポカしてるよぉ。なんか寝ちゃいそう。きもちいい~」
他人には見せられない蕩けた顔を見せて、ルカは眠そうな口調で言う。
(うっ! 私もあんな顔してたのでしょうか。あれは世間一般で言うア、顔と言う奴では!?)
蕩けすぎなルカを見て、なぜか恥ずかしさを感じる鍵音である。マナは何も感じないようで、スンとした平然とした顔でいる。
やがて光が収まると、ルカは自身の力を確かめるようにグーパーと手を握りしめて、やがて驚愕の面持ちとなる。
「……し、信じられない。私の力が数倍になったのを感じる。身体に流れる魔力がサラサラと流れていくのが感じられるよ。今までがゴミで詰まったドブ川の流れだとしたら、今は清い川になったみたい! これ、凄い! 凄すぎるよ! マナちゃんありがとう! マジこんなにパワーアップするとは思わなかった!」
「いえ、人間の肉体の限界である3.7%まで力を引き出しただけです。たいしたことはしていません」
「そんなことないよ! たぶん私は世界最強レベルに一気に引き上がったよ! ありがとう、ありがとうマナちゃん!」
「むぎゅう」
勢いよくマナを抱きしめると、胸に押しつけてぎゅうぎゅうと強く包み込む。よほど嬉しかったのだろう。それはそうだ、ルカは既にAランクの魔力を持っている。それが、数倍になったとすれば、Sランクを遥かに超える。
ひとしきり喜ぶルカ。その様子をハンカチを噛み締めて悔しがる鍵音。鍵音はいつものことだが、ルカは小躍りするほど喜んで、ふぅと一息つくと顔を引き締めて、真剣極まりない表情となる。
「これは凄すぎるよ。絶対に表に出せない力。こんなに簡単にパワーアップできるとなれば、家門間で戦争になってもマナちゃんを奪おうと考える人はいると思うの。鍵音ちゃん、今日からマナちゃんと一緒に私のお屋敷に住もう! もうこれは鍵音ちゃんを見守るとかそんなレベルを超えてるよ。私はパワーアップしても数%だと思ってたけど、まさかの数倍になるとは思っても見なかったもん!」
真剣な表情には嘘は感じられなかった。自身の利益を考えてもいるだろうが、そこには純粋に友だちを思いやるルカの姿があった。
弱みを掴まないと、お友だちになれないルカはある種のコミュ障と言っても良く、その心は善人なのだ。
その真剣さはさすがにコミュ障の鍵音でもわかった。本当に危険なのだろう。少なくとも四畳半のボロアパートに住んでいてはいけないのは、危機感の薄い鍵音でもさすがに理解できた。
解決策を考えるが、頼れる人はルカだけである。友だちもルカだけである。ここで断りを入れられるほどに自分の力に自信があるわけでない。
「……わ、わかりました。ルカさんのお屋敷に居候させてもらっても良いですか? えっと、私がなんとか身を守れるくらいになるまでは」
「うん! もちろん! ずっと一緒に住んでくれても良いからね。それじゃ、鍵音ちゃん、マナちゃんこれからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「たくさんお菓子を食べられる所は大歓迎です」
苦渋の決断だが選択肢は存在せず、鍵音はルカのお屋敷に居候することとなった。それがまた新たなる火種となるのだが、この時点で鍵音が分かるはずもなく、マナはそもそも気にすることはなかったのである。
◇
マナは蘇我家という権力のある家に居候することとなったことに思うところが何もなかったわけではない。
「ご主人様。これが蘇我家の資産、家系図、保有している魔道具などの一覧です」
「ご苦労様でした、チシャ。この情報を元に誰から接触をすればよいのかを考えるとします」
蘇我家の屋敷に急遽引っ越しをして、その夜更け。割り当てられた部屋にてマナはチシャから資料を受け取っていた。
パラリと紙の資料をめくりながら、その口元は薄っすらと笑みを浮かべている。
「楽しそうですね、ご主人様?」
「私が楽しそうに見えますか?」
「はい。とても楽しそうです」
チシャの言葉に、僅かに意外に思う。
「そうでしょうか? ……そうかも知れませんね。権謀術数というのは意外と楽しいんです。こっそりと暗躍することも」
裏では巨人ダンジョンという拠点を手に入れた。攻略不可とされたから、これからは安心して行動できる。
既に小野妹子に命じて、量産型強化装甲服を生産させている。弱いものでも中級ハンター並みの力を出せるとなれば、この世界でハンターとして特権を享受していた者たちは大混乱となるだろう。
そして、表では蘇我家を牛耳り、権力を持つ。
「この先なにが待ち受けるのか、この世界の人間たちは予想もしていないでしょうね」
混乱の世界へと突入するだろう。人と人のぶつかり合い、魔物との本格的な戦争、平和な時代は終わり、混沌の時代となる。
そして、それらは全て人類救済のためとなるのだ。
「これから楽しめそうです」
マナは全てを凍りつかせるような酷薄な笑みを浮かべると、クッキーを一口齧るのであった。
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