48話 鍵音は凍りついた世界を見る
鍵音たちはダンジョン奥地で大規模な戦闘が行われているところを見た。遠くから見ているだけで死を予感させる戦闘であった。なにせ、氷の柱が天へと伸びていき、凍れる表土が森林を粉々に砕き、小さな氷の結晶に変えているのだ。しかも、ここからも見える信じられないくらいに巨大な巨人が大暴れをしていた。
冷気が煙となり、周囲を一瞬のうちに凍らせる様子を見て、誰も近づこうとは口にしなかった。近づくだけで死ぬと思ったからだ。
もちろん鍵音も同様に考えて近づこうとは思わなかった。足を止めて、魔物たちを倒すのみだ。
「マナ……大丈夫かな。怪我を負ってないと良いんだけど」
ポツリと呟く言葉はマナを心配する内容だ。いくらマナでも、あれほどの戦闘に巻き込まれればタダではすまないと考えていた。
鍵音が知る中では大悪魔マナ・フラロウスは最強だ。いや、間違いなく人類最強だとは思うけど、遠くで行われている戦闘は人類の歴史上でも見たことはない戦闘ではなかろうか?
「いそご〜、どうやら戦闘は終わったようだよ? ほら、巨人が消えたよぉ」
「え? ほほはほんとうだ」
隣を走るルカが指差す先、天をつくほどに巨大な巨人は、なぜか身体中から花を咲かせて、崩れ落ちていった。
「ううん、なぜかじゃない。たぶんマナがなにかをしたんだ! さすがはマナ!」
あれほどの強力な魔物を倒せるのはマナ以外に存在はするまい。さすがは私のマナと、デヘヘと口元を緩めながら、さらに走る速度を加速する。ようやくこの速さにも慣れてきて、5割程までは身体強化で引き出せるようになっていた。
「どいてください、今の私はパワーアップしているから火傷しますよ!」
『三連火球』
巨人が倒れた場所に向かうと、草むらや木の影から魔物が現れるので、火球で倒していく。以前は使えなかったが、最近の修行で新たに使えるようになったのだ。
魔物たちを爆炎が包み、焼き殺していく。さっきまでの戦闘から見るに、魔物たちはすぐに対応してくるかと思ってたけど、意外にも普通の魔物に知性が落ちたようで、簡単に倒すことができた。
「マナちゃんが巨人を倒したんだろうねぇ。葛城先輩は大丈夫かな? まじ、あの戦場にいたら私なら死ぬと思うけど」
「わたわたわた、私も生き残れる自信ありません。数秒で死んじゃうと思いましゅ」
なにしろ、ここまで冷気が流れてくるのだ。凍りついて、そこら辺に氷像となって転がっていると思う。
話しながらも、次々と魔物を倒していく。ランク以上の戦闘力を持っていると思っていた魔物たちは連携を組むこともせずに、個々に攻撃してくるので倒しやすい。
「魔物たちの連携が無くなったのは、このダンジョンの主を倒したからかな? 一気に楽になったよね」
「はははい。統率していたボスが倒されると、周囲の眷属が弱くなるのは、バフが消えたからだといわれてます」
過去の記録ではモンスターピードの際に、敵のボスを倒した途端に敵が大幅に弱体化されたとある。それと同じことなのだろう。
敵を倒しながら進み、目の前に広がる光景に足を止めてしまう。
「……これは!? 凄い数の死骸です!」
そこには数多くの魔物の屍が転がっていた。短時間の間に進んできたはずなのに、数十匹は倒されている。しかも、刀の傷なのでハンターがやったことは一目瞭然だった。
なによりも、一人の少女が屍の前に立っていた。刀からは魔物の血が滴り落ちて、身体は返り血で真っ赤だ。そして、その隣には異形が腕を組んで佇んでいる。少女は鍵音たちに気づくと、ゆっくりと穏やかな笑みを浮かべてきた。その姿は酷く怖気を奔るもので、それなのに酷く美しかった。
「ん? 君たちか。よくここまでやってこれたね。結構、こいつらは強いと思うんだけど」
穏やかな笑みを浮かべるのは、アカデミー最強と言われる葛城透先輩であった。さっき出会った時とは違い、やけに落ち着いている。どうやらなにかがあったらしい。いや、隣におとなしく異形が立っていることからも明らかなんだけど。
「葛城先輩! いったいなにがあったんですか? それと、その異形は?」
ルカさんが眉を顰めて、少し怒りを込めて問い詰める。
「あぁ、心配をかけたか? 僕はピンピンしてるよ。氷の巨人が現れて、和光たちバンデッドたちは全滅したが、幸い僕は気絶しただけに済んだんだ」
この先の氷の世界。やはり強力な魔物がいたようだ。バンデッドは悪名高い有名なクランであることを知っている。どうやらここにいたらしいけど全滅したらしい。
あの氷の世界を見れば、全滅してしまったことはわかるが、なぜ透先輩がここにいるのかわからない。そして、隣にいる異形のことも。
鍵音たちが透から隣の異形に視線を向けていることに気づいて、透はニヤリと笑うと胸を張る。
「ふっ、皆はこの者が気になっているようだね。何を隠そう、生き残ったのもこの者のお陰なんだ」
「えぇと……その……その……それは仲間なんですか? あと……その人?」
陽キャ代表ともいえるルカさんも、さすがに歯切れ悪く尋ねると、まったく変だとは思わずに、透先輩は胸を反らして答える。
「この者こそ、僕がデビルサマナーになった切っ掛け! ソロモン72柱の一柱、大悪魔うさモンなんだ!」
「吾輩、うさモンうさ。ソロモンの方からやってきた大悪魔うさよ、よろしく」
ペコリと頭を下げる意外と紳士的な異形の者。……背丈は3メートルはあるだろうか、針金のように鋭く硬そうな漆黒の毛皮とその下に垣間見える鍛えられた筋肉の身体、山羊のような蹄の足に人間のような手、背中からは蝙蝠の翼が生えており、生えている尻尾は蛇である。どこからどう見ても悪魔とはわかる。わかるんだけど……。
頭が純白の柔らかそうなもふもふの毛皮に覆われた兎だった。つぶらな赤い目に、ちょこんとのった鼻がスンスンと蠢く。なんか頭だけ変だ。なんというか、違和感しかないです。まるで着ぐるみにパイルダーオンした感じ。首元に境目が見えるような……。
そして、あの頭の兎はどこかで見たことがあります。つい最近、極最近、この間に。
押し黙る鍵音たちに、なにを勘違いしたのか、透は得意げだ。そのドヤ顔透をツンツンとうさモンがつつく。
「我が契約者よ。どうやら敵が来たようであるぞ」
「ふふふ、デビルサマナーとなった僕は最強に近づいたとも言えるだろう。それではデビルサマナーの力を見せようではないか、うさモンバトルスタートだっ!」
「了解だ。契約者よ。デビルサマナーの力を見せつけるが良い」
透先輩は私たちをチラ見すると、森林へと体を向ける。木々の合間から大勢の魔物が接近しているのが見えたが、透先輩は少しも動揺を見せずに戦闘を開始するのであった。
◇
デビルサマナー。悪魔を仲魔として使役して、強大な敵を打ち倒す者。その力の一端を鍵音たちは見た。多くの魔物たちが死骸となって地面に転がっており、傷一つない透先輩はデビルサマナーの力をまざまざと見せつけている。
「すすすすす」
「うん、マジ凄いね。あんなに強いんだ、デビルサマナーって」
鍵音とルカは透たちに感嘆していた。言葉を失うほどに強い。
「右から3匹くるうさ! 回転斬り後、生き残りを衝撃波で倒す。すぐに身体を翻して、左から抜けてくる魔物に左右からの切り払い。正面に断罪を撃つうさよ!」
「任せておけ! フハハ、最強たる葛城透の力を見よ! デビルサマナーとなって身体が軽い、軽いぞーー!」
透先輩は流れるように的確に敵へと攻撃していき、無駄な行動は一切なく敵を倒していた。必殺の断罪もさっきは使いまくっていたのに、今は最大限に効果のある時しか使っていない。
うさモンの的確な指示により、まさしく最強という名に相応しい戦士へと透先輩は変貌していた。変貌というか、頭を使っていた。
「いやぁ~、透先輩は指示があるとあんなに強いんだぁ、さすがはデビルサマナーだねぇ」
「あれれれ、デビルサマナーっていうんでしょうか?」
なにか少し違う気がする。
「今だ、トオルン、ひゃくまん断罪うさーっ!」
「ダッシャー!」
これまでとは違う次元の断罪が放たれて敵を殲滅していく。これならそれほど時間がかからないで、魔物を駆逐できるだろう。
でも、とっても違う気がする。
これ、デビルサマナー? ヒューマンサマナーでは?
「まぁ、透先輩が強くなったなら良いと思うよぉ。ここの魔物たちは強いし、人類に強者が増えることは良いことだもんね。あ、クッキー食べるぅ?」
「いたらきます」
「うさも食べるうさ!」
そして、パイルダーオフした兎が、スポンと着ぐるみから離れて、クッキーを持つルカさんの脚にへばりついて、頬をスリスリとして媚びてます。
「やや、やっぱりテテさんじゃないしゅかっ! 透さんとなにしてるの!?」
「それは私がお答えします、マスター。頭の中身が空っぽでカラカラと鳴りそうな人間なので、もったいないと思ってオブザーバーとしてテテを付けることにしたんです」
と、いつの間にが隣にマナがいて、驚いてしまう。危うく転びそうになっちゃった。
「わっ!? マナ! マナが仕掛けたの?」
「なるほどねぇ。たしかに脳味噌まで筋肉でできていそうだもんねぇ、マジ、オブザーバー必須」
「たしかに……。あれなら無謀な突撃はしないかな。なんか違うけど。あの人は人としてのプライドとかないのかな?」
「プライドだけでは、魔物を倒すことはできません。あれが最適解だったのです。これからは、葛城透の名前は世界に響き渡ることでしょう」
なるほど。地力はあったのだ。彼女がSランクになる日も近い……かな?
「それよりも、この奥は極めて危険です。先ほど苦戦しつつも巨人を倒しましたが、奥地には同レベルの巨人たちが大勢いるようです。私でもあれだけの数は倒せません。撤退を進言します」
「マナが撤退を!?」
まさかのセリフがマナから吐かれて驚いてしまう。それだけ強い魔物の群れがいるとは脅威だ。どうやらここは最悪の危険度らしい。
私たちは驚きながらも撤退をすることに決めて━━草加ダンジョン改め、『巨人ダンジョン』となり、世間では生還不可能なダンジョンと言われることになるのであった。
ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。
モブな主人公。マンガボックスにて連載してます!
コンハザがシーモアにて発売中!




