46話 マナはカキ氷を食べる
ヨトゥンは前の世界では倒せない敵の一匹であった。この厄介な魔物は戦いにおいても、必ず自陣に一粒の魂を残しているのだ。なので倒しても、残った一粒から再生する。無論再生には十年程度の時間がかかるが、逆を言えば十年で再生をしてしまう厄介な魔物であった。
ライフベッセンを自分の核にして生き残るリッチなどは、ライフベッセンから離れれば離れるほど弱くなるので必然近くにライフベッセンを置かないとならないが、ヨトゥンは遠く離れていても、自身は弱体しないのだ。なので倒すのなら、巨人族を殲滅した時になるだろうと言われていた。ちなみにライフベッセンとはアンデッドの核、心臓のようなものだ。高位のアンデッドはだいたいライフベッセンを作り、自身の不死性を確保する。
━━しかし。
(ラッキーです。次元を超えたことにより、能力が弱体したのですね。ヨトゥンの魂が全てここにあることが分かります)
恐らくは弱体化したことにより、魂分与の効果が低くなっている。そのため、安全地帯に自身の魂を避難させることができないのだ。
これはチャンス。いえ、大チャンス。ヨトゥンは高火力であり、不死性も極めて高い。元の世界ならば倒せないが、ここでは倒せる。このチャンスを逃すわけには行かない。
だが、ヨトゥンもマナの名を聞くと目の色を変えて口を歪める。
「マナ・フラロウス! 無限再生を司る人類連合の中心核! ソウルイーターであるな!」
「そのとおりです。私の名前も有名になったものです。照れてしまいますね」
「わははは! これはチャンス! 不死とも言える貴様もこの世界では弱体化しているであろう? ここで貴様を殺せばソウルイーターの軍は大幅に弱体化すること間違いないわ!」
お互いに大チャンスだと思っている模様。すぐに再生する私と、不死性の極めて高いヨトゥン。方向性は違いますが、倒しにくい存在でトップテンに入る可能性がありますからね。
とすれば、話は簡単。
「ヨトゥン、このマナ・フラロウスの贄となれ! お前の魂はありがたく食ってやるからよ!」
凶暴な獣のように歯を剥いて、マナはヨトゥンを睨みつける。お上品なお嬢様の演技はおしまいだ。ここからは本気でいかせてもらうぜ!
「面白い! ならば我が貴様の魂を喰らって、さらなる高位の存在に昇華してやるわ!」
ヨトゥンも戦意高く咆哮すると氷の大剣を手元に作り出す。お互いに本気も本気。ドッカンバトルの始まりだ!
「まずは装備を整えさせてもらいましょう。死せしハンターたちよ。人類の敵を倒すため、私の力となれ!」
『魂武器化』
ダイヤモンドダストで死んだハンターたちの魂を集めて、自身に纏う。自身が光り輝く神々しい鎧と大剣を持つ姿へと変わる。光の剣である燃え盛る太陽剣と、太陽の鎧だ。和光なんとかさんと、エーランクの人々の魂を使ったので、この世界ではそこそこ強い装備となった。ハンターたちも魔物を倒すための武器へと変わり喜んでいるだろう。
「ゆくぞ、マナ・フラロウス。極寒の大地に屍をさらせ! これまで多くの同胞を食い荒らしてきた報いを受けるが良い」
「ヨトゥン、それはこちらのセリフです。突然、私たちの世界にやってきて人類を餌にした貴方たちを私たちに絶対に許さない」
「畜生如きを食べて何が悪い! 食事をするのに食い物のことを考える愚か者などおらぬわっ!」
お互いの価値観がまったく違うことを確認する。ふざけやがって、誰が畜生だ。なら、畜生如きの力を見せつけてやるぜ!
『情報改変:太陽剣』
和光とか名乗る人の魂を改変させて創造した太陽剣をさらに強化する。人間モドキの魂では見せかけだけの太陽剣のため、本物の太陽剣の威力を持つ剣に変えるのだ。
『情報改変:太陽の鎧』
同様に太陽の鎧も強化。周囲の冷気を溶かす熱量を持つ炎を纏う。凍りついていた大地はジリジリと溶けていき、泥濘へと変わっていく。
「準備は終わったか、マナ・フラロウス? ならば我の力を見せよう。霜の巨人ヨトゥンの力を!」
『ダイヤモンドダスト』
ヨトゥンの身体がサラサラと崩れていき、砂塵となって襲い来る。馬鹿の一つ覚えの必殺技。しかし、一粒一粒が絶対零度の冷気を持ち、いかなる防御をも貫く硬度を持つ氷の弾丸だ。その攻撃は防御障壁を瞬時にすりつぶして、相手をカキ氷のようにサラサラの氷の粒子へと変えてしまうし、回避もしにくい極大範囲魔法。この技にて、仲間が何人倒されたか分からない。厄介すぎる魔法である。
「ですが、本来の力から大幅に弱体化しているようですね。ならばこそ好機!」
『真・光輪剣』
ハンターが使用していた技を振るう。和光とか言う人は、ソーサーみたいに飛ばして敵を切り裂いていたが、本質は違う。
身体をひねり、太陽剣の力を最大限に引き出していく。迫る氷の砂塵を前に、恐れることも慌てることもなく、ゆっくりと呼気を吐くと、全身を使い剣を振るう。
その瞬間、マナは光となった。光のリングが無数に生み出されて、近づく氷の砂塵の一粒一粒を切り裂いていく。美しき光の線が舞う。
飛来する氷の粒子よりも遥かに速く。
円を描き、触れる物を全て切り裂き、消滅させていく。
この世で最も硬いと言われる霜の金剛石をまるでチーズのようにあっさりと切り裂いていく。数億ある氷の粒子。その一粒一粒を光速の速さで。
マナの作り出す円の絶対圏。何者も侵入を許さない光の領域。ダイヤモンドダストは絶対圏を包み込むが、ぽっかりと空いたかのように、マナの領域は空白となり、ダイヤモンドダストは無意味に周囲を飛ぶのみとなる。
やがて、ダイヤモンドダストは空中へと集まると、再びヨトゥンの姿へと戻る。
「くっ、今の我では光速の圏内に入ることは不可能か!」
悔しげなヨトゥンが唸る。その様子を見て、薄く笑うとマナは剣を止める。
「そのとおりです。光速の剣を前に、貴方のダイヤモンドダストは弱すぎる。本来の力ならば強引に破壊できたのでしょうが、今の貴方では無駄にダイヤモンドを破壊されるだけです」
光輪剣。その本来の力は回転斬りにて周囲を全て切り裂く技だ。コツは光速で敵を叩き切ること。だいたいの敵はこれで切り裂けます。簡単だよね?
「ならば、剣技にて勝負せん。巨人族戦士として、霜の巨人として、この剣を受けられるかっ!」
咆哮すると、ヨトゥンは巨人であるにもかかわらず、その体重を感じさせない軽やかなステップで間合いをとる。巨人のステップだ。たった1回でも数百メートルは離れている。
「受けよ、我が剣を! 凍てつく剣の力を!」
『凍結剣』
ヨトゥンの振るう剣。全てを凍てつかせる霜の大剣は、周囲に冷気を撒き散らし、全てを氷の中に閉ざす冬の剣だ。
マナを叩き潰すに十分な大きさと質量、そして絶対零度の力を込めて剣は全てを切り裂くべく迫る。だが、迫る氷の剣を前にマナの姿は掻き消えた。
「ただならぬ一撃。最初から全力で繰り出すその一撃はさすがは歴戦の勇士。最近生温い戦闘ばかりでしたので、なまった身体を戻すにはちょうどよいです」
『情報創造:光歩法』
マナは一瞬の間に、大剣の距離から離れていた。トトンとステップを踏むたびに光る足跡が残り、マナの姿がまるでホログラムのようにその場に残り瞬く。
「大した速度であるが、貴様の弱体化も激しいようだな。その動き、見て取れるわっ!」
光速の動きにて移動するマナ。普通の敵ならば驚愕し、戦慄し、恐怖するだろう。誰も光速で動く敵と戦えるとは思わないはずだ。
しかしながら、ヨトゥンはマナと同じ世界で終わらない戦争を繰り広げ生き残ってきた者。圧倒的な速度を持つマナを前にしても不敵な笑みを浮かべ、さらには敵の弱さを嘲るだけの余裕があった。
『超越反応』
ヨトゥンの瞳がギラリと光り、マナの動きを看破する。予知にも近い予測を立てて、次に現われる場所へと大剣を叩きつける。
「そこだっ! ぬぅぅぅぅん!」
霜の大剣が何も無いはずの空間に振り下ろされる。と、何も無いはずの空間に火花が散って、大剣を受け止めるマナの姿が現れる。
「遅いわっ! その動き、我には手に取るように見えるぞっ!」
「ちっ、弱体化は私の方が大きいということですか」
巨人の大剣を前にしたら、爪楊枝のような小ささの剣にて受け止めながら舌打ちをする。戦闘力では残念ながらヨトゥンの方が上らしい。
ヨトゥンもそのことに気づき、大剣を引き寄せると、すぐに連撃を繰り出してきた。マナもステップをしつつ、敵の攻撃を回避しようとするが、ヨトゥンは超越予測にて的確に攻撃を繰り出すので、マナとしては防戦一方だ。
しかも大剣を繰り出すごとに、冷気が突風と共に吹き荒れて、猛吹雪へとその場が変わっていく。
「むむ、やりますね、ヨトゥン」
白い肌が凍り始めて段々と動きが鈍くなっていく。魔法障壁を破って太陽の鎧の氷耐性をも貫く、その冷気をマナに届けるその能力はさすがに巨人の中でも冷気を司る高位巨人。舌を巻くしかない。
ジリジリと動きを鈍くされて、マナの力が落ちていく。その様子を見て、吹雪の乱撃を繰り出すヨトゥンも勝利を確信したのだろう。
終わりをもたらすために、僅かな時間に力を込めるヨトゥン。僅かな時間といえども、超越者の溜めは短時間で膨大な魂力が込められる。
「とった! 貴様の魂、殺してでも奪い取るっ! この必殺の剣が貴様の命を刈り取るだろう!」
『終わりを迎える静寂の世界』
ヨトゥンが振り被った大剣の先端から理を変えるエネルギーが空間を切り裂いて生み出される。空間の中は死の世界。凍れる時の世界にて、あらゆるものが静寂の中で動きを止めた世界だ。
「お互いに切り札を使うとしましょう。こちらは太陽の力。必殺のサンサンアタックです」
『太陽剣解放』
太陽剣の中に込められた魂の力を解放させる。一瞬で太陽と同等の高熱を宿す剣をマナは広がっていく氷の世界へと投擲する。
氷の世界に侵入し、その世界を照らす太陽。お互いの力が激突し、大爆発すると強烈な閃光が周囲を照らし━━。
マナが血だらけで倒れ伏していた。手足はあらぬ方向に曲がり、鎧は砕けて半身は凍りついている。
「勝った! 正面から戦おうなどと愚かなことを。巨人族と正面切って戦える者などおらぬわっ! 遂にマナ・フラロウスを、あの悪魔の一人を倒した! ティターンよ、我らの母ガイアよ、この勝利を貴女に捧げます!」
ヨトゥンは自身の勝利を確信し高笑いをする。たしかにヨトゥンと正面切って戦えば、こうなるのは分かっていた。分かっていたのだ。
「……ヨトゥン。勝利を前に祈るのは愚か者です。なぜとどめを刺そうとしないか分かりません。それが巨人の愚かのところです」
震える手でヨトゥンを指差し笑ってあげる。たしかにバトルは私の負けだ。勝てるとは最初から思っていなかった。
「ぬ? 負け惜しみか? そなたが回復魔法を使う素振りを見せれば、即座に殺す。それくらい分からぬ貴様ではあるまい?」
「そのとおりです。ですが、頭の足らないあなたの頭で考えてください。これは罠であったのではと?」
「罠? なにが罠だと……ぬうっ、こ、これは、身体が、身体が動かぬっ!」
ようやく気付いたらしい。ヨトゥンは剣を振りかぶろうとして、その身体は固まったように硬直していた。
「こ、これは!? なにをした? いったいなにをした?」
「ふ、ふ、けふっ、いまいち決まりませんが、私は貴方の魔法障壁を破壊することに全力を込めていたんです。氷の世界を打ち砕く反動で一瞬解けたでしょう? 貴方とは最初から正面切って戦闘する気はサラサラなかったのです」
血を吐きながらも、その笑みは力強い。
相殺される際の爆発エネルギー。そのエネルギーを目の前で受けたヨトゥンは自身の魔法障壁を一瞬掻き消された。
その一瞬を求めていたのだ。魂を群体として管理するヨトゥンを倒すために。無数の魂のかけらを一網打尽にするために。
ヨトゥンの身体から、花が咲いていく。霜のダイヤモンド内部から食い破り、禍々しくも美しい花を。
「人間の英知を侮りましたね、ヨトゥン。チェックメイトです。その花は邪悪樹の花。体内を食い破り、魂を露出させる!」
ピシリと指差して告げる。必殺技同士がぶつかる際に、こっそりと邪悪樹の胞子を撒き散らしておいたのだ。魔法障壁のない霜のダイヤモンドは僅かな亀裂を刻まれて、侵入されてしまった。
「この程度の小細工でこのヨトゥンを倒せると思ってか!」
「もちろん思ってません。ヨトゥンならば数十秒あれば回復できるでしょう。ですが、露出した魂は分裂しすぎて極めて弱い。私の食欲に勝てる強さは残っておりますか?」
霜のダイヤモンドに覆われて守られてこそ、群体として活動できるのがヨトゥンだ。露出していれば一つ一つはスライムよりも弱い。そして、数千万の宝石は全て亀裂が入っているのだ。
「というわけで、いただきまーす」
あ~んと可愛いお口を開けて、一気に吸い込む。花の中からヨトゥンの魂が漏れ出すと、マナのお口に吸い込まれていく。
巨人の身体から無数の魂がマナに吸い込まれていく。まるで天の川のように魂は煌めいて、吸収されていく。
「ぐ、や、やめろ、ソウルイーター! 我の魂を、我の魂を食べないでくれっ! た、頼む!」
恐慌するヨトゥンだが、聞く耳を持たない。ここでヨトゥンを倒すことは巨人族を殲滅するチャンスが高まることを示している。
それに封印が解けていくのも感じられる。
「ぉ、おおぉぉぉ、む、無念。申し訳ありません、我らが王よ……」
震える手の先からサラサラと崩れ去り、ヨトゥンは最後のセリフを口にすると、氷の欠片となって消滅するのであった。
「勝った! 遂にヨトゥンを、あの巨人の一人を倒した! カキ氷よ、夏に相応しいカキ氷よ、この勝利を貴女に捧げます! シロップも欲しかったです!」
肉体を完全に回復させると、マナは祈るふりをする。
「ヨトゥン。勝利を宣言するなら、こうやって敵を完全に倒してからにするのです」
ぺろりと舌を出して、マナは悪戯そうに笑うのであった。
ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。
モブな主人公。マンガボックスにて連載してます!コンハザがシーモアにて発売中!




