41話 マナは方針を決める
この世界への対応をマナは決めた。苛烈に方針転換をしたのだが、ソロモン司令からの命令があったからだ。
ソロモン司令との当時の話し合いを思い出す。
『マナ・フラウロス。そちらの状況はある程度理解した。魂が満ち溢れ生命が世界を輝かせている素晴らしい世界だ。我らの世界が魔界であれば、その世界は天界と言っても過言ではない』
『たしかにそのとおりです。現在の状況を調査したところ、この世界は魔力の多い者が魔物を討伐するという理念を忘れて、経済を支配し権力を集めています。お互いに傷つけ合い、足を引っ張り、貶め合う人間モドキが多いので、天界にしては欲望が渦巻いていますけど』
ずぞぞともり蕎麦を食べながら、マナが言うと、薄笑いでソロモンは箸をぶんぶん振るって言う。
『そのとおりだ。天界と呼んでも良い世界であるのに、その世界では人間モドキだけが余計な存在だと思われる。世界を守るためにも、人間モドキはいらないと思わないかね?』
『ウ~ン。それなのですが、全ての人間が人間モドキと一概にまとめるのは駄目かもしれません。他人に対して優しく、魔物の危険性を理解している者も少なからずいます。判断するにはまだ早すぎるかと』
『……そうか。そのとおりかもしれないな。しかし上位の者たちが支配している構造から考えて、彼らの行動で世界が破滅するのは間違いない。大衆は上の命令には従うものだし、目の前に脅威が迫らなければ、動くこともしないだろう?』
たしかにそのとおりである。そこに反論することは難しい。いつかきっと食糧難が来る。温暖化により作物がとれなくなる。そういったことと同じだ。魔物により世界が破滅すると声高に叫んでも、クリーンなエネルギーとして活用できるのだからと本気では考えずに、いざ世界が魔物に蹂躙される時に、対抗手段を考えておくべきだったと後悔するのだ。
それはマナの世界で起こったことであり、新たな世界でも同じことが起きることは決まっているだろう。
マナがワサビを汁に入れて、一瞬の辛さもいいねと蕎麦をすすり考え込む中で、ソロモンは我が意を得たりとニコリと笑う。
『マナも同じ結論に至ったようだな。そこで、人間モドキが魔物により破滅する前に、拠点を用意してもらいたい。金や資材、土地などを人間モドキをアンダーカバーとして用意するのだ。痕跡は消して、誰にも気づかれないようにひっそりとだ。幸い、あちらの世界は魔物による街の襲撃もあるのだろう? 魔物による襲撃に見せかけて、資材を集めるのだ。貴官はそのような偽装工作に適している』
『本屋鍵音を表にして成り上がらせて、財を成す予定ですよ? それにその作戦だと、大勢の人々を殺さなくてはなりませんが?』
ちょっと罪悪感が湧く。なにもしていない人々を殺害するのは、まだ人間モドキと決まってもいないのに早計じゃないかな? 良い人はたくさんいると思うんだ。
『人類のためにソウルアバターは存在する。監察官からも迂遠な方法よりも、直接的な行動をとるようにと期待されてるのだ。マナ・フラウロス。人間モドキのことを気にしないでも良い。効率よく行動せよ。それこそが人類を復興させるためなのだから』
ニコリと微笑むソロモン司令の言葉に納得して、安心すると悩みが溶けて無くなる。そのとおりである。人類を復興させるためにも、人間モドキのことを気にする必要などない。
『了解しました。拠点作りに邁進します。ダンジョン排斥団体を探しておいたので、彼らをアンダーカバーとすると良いでしょう』
『よろしい。なにをするにも、拠点は必要だ。拠点を手に入れて、ある程度の勢力を確保するように。監察官も期待していると仰っていた』
『かしこまりました。マナ・フラウロスにお任せください』
そうして、ソロモン司令との会話は終わり、マナは拠点を手に入れるために活動を始めたのである。
◇
「保管されていた魔石の数は30万個、区であれば数年は電力が保つ量です。魔物の素材もかなりあります、ご主人様。貿易センターと呼ばれるだけの数ですね」
建ち並ぶ倉庫にずらりと並ぶコンテナ群。その中身はすべて魔石と素材だ。チシャの言う通り、この拠点にはかなりの量がある。
「よろしい。でしたら、この拠点を守るための行動に移ります」
邪悪樹の根っこがウネウネと周囲に広がり、貿易センターがあっという間に植物に覆われる中でマナは軽く手を上げる。
「この魔石の半分を魔物に変えて、周囲を守ります」
『情報改変:偽魔物創造』
得意の情報魔法だ。キラキラと金粉のような魔力が手のひらから生まれると、コンテナに向かって降り注ぐ。と、コンテナがガタガタと揺れて、様々な魔物がコンテナを中から破壊して這い出してくる。歩く木の魔物トレントや、キノコの化け物ファンガス、葉っぱを頭に乗せたマンドラゴラ、その他にも巨大蜘蛛や剣のような前脚を持つ人よりも大きいカマキリ。
森林に相応しい魔物たち。本来の魔物と同等の能力を持ち、見かけでは偽物とは判別できないだろう。この魔法は魔石の魔力を使い、仮初の肉体を作るのでマナ自身の魔力はほとんど消費しないのが魅力的な魔法だ。倒されても魔石が残るため偽物と違和感を与えさせない。魂の存在を感知できない者は見分けがつかないだろう。
「お見事です、ご主人様。これらは本物の魔物なのですか?」
「いえ、これらは魔石をバッテリーにして動くバイオロイドのようなものです。これだけでは一ヶ月くらいで魔石内の魔力を使い切るでしょう」
生み出された魔物たちを見て感嘆するメイドにかぶりを振る。そこまで良いものではない。
「とすると、あっという間にこの拠点は攻略されてしまうのでは? 私が思うに、森林ダンジョンは攻略しやすいので、いかに強力な魔物であっても耐えられないのではないでしょうか?」
「チシャ、それはこの世界の初期ダンジョンを基準に考えていますね? ですが、このマナ・フラウロスが作る森林ダンジョンは一味違います」
コンテナが破壊されて零れ落ちた魔石を摘み取ると、チシャに見せる。
「この森林ダンジョンの防衛の核となるボスともいえる邪悪樹は、本来の危険特別外来樹を元にしています。そして、この邪悪樹にはいくつかの有用な能力があります。その一つがこれです」
魔石へと魔力を流して、邪悪樹と同じ識別コードを送る。そして、魔石から魔力を抜いていく。
本来ならば空っぽになるはずであるが、魔石の色は変わらず、抜いた魔力が補充されていく。
「おぉ! これはいかがしたのですか? 魔力が何もしないのに補充されていきます」
「そうなんです。邪悪樹は光合成ならぬ、周囲の生命を喰い魔合成を行います。そして、その魔力を周囲の眷属に送信します。これで偽魔物でも、魔力の枯渇を気にしないで活動できます。インスタントダンジョンの出来上がりですね。大昔に使われた手法です」
「なるほど。これならば多くの魔物を操れるというわけですか。ですが、これでは周辺が荒地となるのではないのですか? 生命や魔力を養分にするのですよね?」
チシャの疑問は当然だ。この手法はマナの世界で大昔に使われた敵の戦法。この能力で吸収されれば辺りの生命は残らないとは普通は考える。それならば、すぐに対応手段を人類は考えるのだが━━。
「邪悪樹が吸収するのは惑星全体からなのですよ。空気中に含まれる生命や魔力を吸収していきます。そのため、周辺が更地になることは無く、たった1本の邪悪樹では影響はさっぱり分かりませんでした。オゾン層を破壊するのはミサイルではなく、世界全体から発生するフロンガスのようなものですね。この影響に気づくには10万本は邪悪樹が生えないと分かりません」
昔の記憶では人類がそのことに気付いたのはだいぶ後であり、砂漠化が大きく加速してからだとされている。慌てて邪悪樹を危険特別外来樹として認定し、破壊したのだが、その時にはかなりの被害が出たと記録されていた。
「たった1本では影響がはっきりとは分からないと。??? ん? ということは、この世界にある世界樹は?」
「数本程度なら全然影響ありません。一万本を超えたら対処は必要かと思いますが」
それに魂を喰らうわけではない。魂さえ残れば生命の復活はいくらでもできる。だから究極的にはソウルアバターとして気にする必要はない。
「そして邪悪樹の二つ目の能力は空間歪曲です。木よりも上の空間は空間歪曲により侵入不可の結界が張れます。この二つにより、森林ダンジョンが形成できるのです」
ヘリで侵入とか、そんな簡単な手法では森林ダンジョンは攻略できない。この先でこの世界でも形成されるであろうダンジョンタイプだ。
本格的に魔物が攻めて来る時の拠点として使われるので、かなり厄介であったと、人類の記録にはある。
「さて、これで邪悪樹の能力はわかったと思います。そして、これからこの邪悪樹にて草加ダンジョンを呑み込みます」
「ふははは。邪悪樹を操る邪悪なるネクロラビサー。テテ参上!」
パチリと指を鳴らすと、爪楊枝を手にして、頭に作り物のドクロをかぶったモフモフ毛皮のウサギがでんぐり返しをして、コロリンと参上だ。
「うさが草加ダンジョンを呑み込むうさよ! 邪悪樹よ、うさを運ぶうさ! 全軍突撃! 突撃以外は許さないうさ!」
爪楊枝をぶんぶんと振るテテを根っこの1本が動くとその先端にちょこんと乗せて運ばれていく。
そうして、生み出した魔物たちもぞろぞろと行進を始めて、隣接する草加ダンジョンへと向かっていくのであった。
「ご主人様。草加ダンジョンを呑み込む必要はあるのでしょうか?」
「あります。少し気になることがあったのです」
チシャの疑問に頷いて考え込む。実はと言うと気になっていることがあるのだ。何かというとこの間殲滅した森林ダンジョンには似合わない鬼の軍隊のことである。あれは確実に軍隊だった。
(恐らくは他の次元から送られてきた軍隊。鬼というと、50の魔王のうちの一人、巨人族のティターンの眷属のはず。ここはティアマトの支配する区域のはずなのに、姿を見せたということは、空白地帯となったダンジョンを支配しにきた? もしかしたら次元ポータルがあるかもしれません。テテが見つけるのを期待しましょう)
見つからない可能性が高いが、次元ポータルがあれば奪取する。無くともテレポート先を支配して、次元転移を防ぐ予定だ。
夜の世界を爛々と瞳を輝かせた魔物たちが行進していく。あの数ならば夜の間に制圧できるだろう。そして、倒した魔物の魂は全てマナが食べ尽くせる。少しは封印された能力が解放されるに違いない。
「制圧が終わったら、地下に巨大施設を作りましょう。地球連邦軍のジャブロー基地みたいな施設にします。魔導兵器の工場や魔物の生産、魔法の研究所なども併設する予定です」
「ご主人様は色々とご存じなのですね。ですが、これからご主人様が組織を作るのであれば名前が必要かと思います。いかがいたしましょうか?」
ふむ。暗躍するにも組織名が必要か。
「『ノアの方舟』。選ばれし人類を世界の崩壊から救い出し、新たな世界で暮らせるようにする。組織名は『ノアの方舟』にしましょう」
そう答えると、マナは優しげに微笑む。選ばれし人類の救済。この組織に入り、来たるべく世界の崩壊に備えたい者を選抜していこう。
選ばれし人類がどれを示すかは秘密だけど。
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