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美少女アバターで召喚獣やってます  作者: バッド
0章 プロローグ
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4話 マナにとってのプロローグ

 『次元転移ディメンションポート』は自身を別の世界に転移させるスキルだ。魔物たちが次元の壁を突破して攻めてくることは、戦争当初から判明していた。


 しかし送り込まれる魔物たちを吸収しても次元転移の能力を持ってる奴はいなかった。どうやら敵の王が自身のスキルを使い、送り込んでいるのだろうと推測され、安全圏にいる敵の王を倒すことはできないと歯噛みしていたのだ。


 だが、状況は変わった。魔物たちの王の一匹、竜王ティアマトがどうやら持っていたようだった。


 と言うわけで偵察の準備をして、使ってみました、『次元転移ディメンションポート』。どんな敵が待ち受けているかと警戒していたのだが━━。


「ん? なんだここ? 森林に湖? 随分平和な光景だな」


 予想では荒れ地にたくさんの魔物が待ち受けていると思っていたが……目の前に映るのは、緑あふれる森林と小さな湖だった。今やホログラムでしか存在しない生命溢れる世界だ。


 が、目の前の光景が真実であるとは、これまでの経験から思わない。いや、経験上、いつものことでもある。


「本物っぽいけど………見てみるか。『解析』。」


 瞳に魔力で金色の回路を描き、周囲を再度見渡す。手慣れたものだ。未知の戦場では何百回、何千回と使ってきた物体の構造を解析する。世界がマス目に切り分けられて、素材を見分ける。


『魔法構造体』


 解析結果が目の前に映るが、地面に生える草もそびえ立つ木々も湖すらも魔法構造体と判明した。魔力を素材とした疑似植物などだ。少し本物かと期待してしまったので、がっかりだ。


「ちっ、転移先が敵の本拠地になるはずなかったか。転移用の緩衝地帯か?」


 思わず舌打ちしてしまうが、いきなり家の中に入り込まれないようにするのは当然の用心だ。少し焦りすぎたかも。


「っと、でも、見張りがいるわけでもなさそうだな……ふむ?」


 緩衝地帯を作ったのに、見張りがいないことに不思議に思いながらも、湖に視線を映す。湖面には少女の姿が映り込んでいる。


 こう言っては自画自賛となるが━━。


「うーん、やっぱり可愛いな。世界一可愛い」


 湖面に映る青みがかかった黒髪と穏やかで優しそうな瞳に、ちょこんと鼻があり、小さな唇。そして小顔が可愛らしさを引き立てている。身体は少し小柄で、ほそっこい手足に引き締まった胴体。へそ周り丸出しのレオタード風スーツはピッタリと肌に張り付き、小ぶりの胸が強調されており、可愛らしい顔であるのに蠱惑的な姿だ。


 マナ・フラウロス。最高の美少女として頑張って作ったソウルアバター。化け物と死骸、血と爆煙が支配する戦場における俺の癒やしである。ナルシストと言うなかれ。数十年かけて微細なところを修正させていき、誰もが振り向く、この究極美少女を作ったのだ!


 レオタード風スーツを着て、腰に小さなポシェットをつけているだけだが、これは敵にやられた際に、持ち物を奪われてこちらの技術力を解析されないように最低限の物しか持ってきていないからだ。


「たった、たらった〜。えへへ。ゲハッ!?」


 湖面に映る自身へとはにかみながら微笑むと、くるりと回転して、そのまま地面に倒れた。身体が100トンの重りを乗せられたように重い! そして、なぜか力が出ない!


「なっ!? か、身体がおもっ! にゃ、にゃにが『解析』!」


『次元を超えたことにより、新しい世界では魂力の1.2%しか適応不可。現在適応中……完全適応まで31年6ヶ月必要』


「ご、互換性のないシステムを使ったようなものか。畜生め、適応まで時間がかかりすぎる。こんなところを見つかったら一撃で殺されるぞ。なにより魔力が空っぽだ」


 力が封印されていることと同義に、雛が鳴くように舌打ちする。これだと魔物に対抗できない!


「こんな罠があるとは……悔しいが戻るか。そ、その前に身体を適応させてと」


 産まれたての子鹿のように足をプルプル震わせて立ち上がると、軽く深呼吸をして少ない魔力をソウルアバターの疑似肉体に巡らせる。そうして軽く屈伸を数回して、身体をほぐすため伸びをする。


「適応した」


 ケロリとした顔で呟く。


 魂力1.2%しか出せない身体に適応した。もはや足の震えも身体の重さも感じない。現在出せる出力に見合った感覚にしたのだ。その時間は僅か数秒。伊達に長い戦争を生き続けていたわけではない。力が出せない状況などいくらでもあったのだ。これくらいわけない。


 そして、次の手順は魔力の回復だ。小さな手をグーパーと握りつつ、体の不調に顔を顰める。魂力から生み出される魔力が途轍もなく少ない。『次元転移』は恐ろしいほどに消費量が少ないが、それでも少しは回復させないと転移分の魔力には足りない。だが予想通り。

 

 ポシェットの中身をつまみ取る。中に入っているのは、小指サイズの水晶だ。これは敵の技術の模倣で作られたものだから、奪われても問題はない。


 その名は単純で『魂石ソウルストーン』だ。封印技術を利用しており、ソウルアバターなら、その中に入って休憩できる。しかもこの石の中では回復速度が10倍以上となるのだ。


 これ、戦争当初は敵の体内にあったので弱点だと考えられて、狙い撃ちして魔物のボスを倒していた。だが500年ほど前に、単なる魔力回復用のアイテムで、破壊しても中に入っている魂はさっさと逃げ去っていることが判明していた。無限に復活する不滅の悪魔と思いきや、単に逃げていたことが判明し、人類は怒り沸騰となったとのことだ。


 でも、この技術はソウルアバターにとっては都合が良い。石を破壊されても逃げることが可能なので簡易キャンプに使用できたのだから。しかも傍目には小石にしか見えないので隠れやすい。


 というわけで、水辺付近に転がして、中に入る。封印技術を使っているため、自身の身体が光の粒子となって吸い込まれる。中はなにもなく、ぬるま湯に浸かっている気分で気持ち良い。


 揺蕩う中でウトウトして、だら~っとする。この調子なら、今の1.2%の魂力で維持される身体の魔力は満タンになるだろう。


(あ~、読みかけのあち亀の漫画データでも脳内にダウンロードしておけば良かった。でも、あれは全15247巻あるからなぁ、重いんだよなぁ)


 呟きつつもこの場所のことを考える。この場所が敵の転移を防ぐために作られた緩衝地帯なら敵の見張りがいないのはおかしい。しかし魔法構造体で作られていることから、敵の手により作られた施設で間違いない。


(どこかこの場所は変だな? なにか矛盾があるような……んん?)


 外の光景を眺めていると、森林からなにかが飛び出してきた。いや、なにかではない。人だ。年若い少女の姿をしている。大きな傷跡が顔にあるがそのスタイルは少女に間違いない。


(なんだ? サボっていた敵の見張りが今頃やってきたのか? それにしては……変だな?)


 息を荒げており、汗だくだ。木々の合間を突き抜けてきたのか、その肌は傷だらけでもある。眺めていると、少女はキョロキョロと辺りを見て、絶望の表情で涙を瞳に溜める。だが、こちらへと顔を向けると必死の形相で近づいてきて、魂石を拾い上げる。


(おっと、やっぱり見張りだったのか? これは一戦する流れか? まずいな、この状態じゃ勝てるどころか、逃げることも難しく……ん?)


 時間稼ぎをしつつ、次元転移で逃げるかと唇を悔しさで噛むが━━━。


「こここ、これは召喚石。しょそょしょそょ召喚石。うん、間違いない、間違いないから……なにか出てきて〜。わたしをわてしにょたしゅけてー!」


 なんか様子がおかしい。涙目で慌てる様子はどう見ても侵入者を見つけて駆けてきた様子には見えない。


(なんだ? この子は敵じゃないのか? 『解析』。)


『人間:魂力0.1%:若干の相違点あり。詳細は検体を取得して調査をする必要あり』


 想定と違う結果だ。この子は見た目通りの人間!? しかも肉体を持ってる!


 驚いてしまい動揺する中で、少女は泣き崩れて膝から崩れ落ちている。どうも演技には見えないし、侵入者を見つけたのに演技をする必要もない。


「だ、だめか。ははは、そうだよね……まぁ、そうですよね……私みたいな全ての不幸を担いで生きているような人間にそんな幸運が訪れるわけがなかったんだ……私はダンジョンで死ぬんだぁ〜」


(ダンジョン? 今ダンジョンって言ったなこいつ。ということは、……待てよ? まさか! この座標は奴らの本拠地ではなく……)


 ダンジョンと言う名は聞き覚えがある。魔物との戦争初期に使われた敵の兵器だ。その名前をここで口にするとは、その意味を推測し顔が思わず険しくなり……すぐにニヤけた表情となる。


(面白そうだな。この世界を確認するためにも、この少女の話に乗っかってやるか。うしし。それならド派手にいこうか!)


 得意の光魔法で強烈な光を放ち、複雑な模様と文字で描かれる魔法陣を発生させる。


 そして、水中から浮き出てくるように、身体を僅かに反らしながら光の翼で身体を抱え込み、魂石から飛び出す。ふふふ、演出というのはとても大切なんだ。


「わ、わぁ、め、女神さま?」


(この子、良いね! マナ・フラウロスは女神級に可愛いよ!)


 光で作られた翼をゆっくりと広げて、フワリと優雅に地上に降り立つと、思わず口をぽかんと開けて見惚れている少女の前に騎士のように跪くと口を開く。


「私を召喚していただきありがとうございます。貴女が私のマスターでよろしいでしょうか?」


 召喚獣の真似をしてみる。こーゆーのは基地にある小説で読んだことがあるのだ。なんか忠実な従者みたいなのが受けるんだよ。


「へ? ま、ま、ますたー? わ、た、わたしが? は、はいっ、へいっ! わたしがあなたのましゅたーで」


 慌てる少女の後ろから咆哮が聞こえてきて、そちらを向くと半裸の変態が駆けてきていた。


(え~と、『解析』。)


『ツインヘッドオーガ:魂力1.5%:肉体を持っている』


 驚くことに肉体を持つ魔物らしい。肉体を持ってるから全然力を発揮できていない雑魚だ。


「ウォォォォォ!」


「ひゃっ! あわわわ、『ツインヘッドオーガ』においつつつつかかか」


 ガタガタと震えて青褪める少女を見てピンとくる。なるほど、この魔物に追いかけられてきたのか。たしかによくよく見ると切り傷だらけだ。


 なら、俺の次の行動は決まってる。


 少女を守るようにスッと立つと、一番可愛らしく見れる微笑みを少女に見せる。


「あれを倒せばよろしいでしょうか?」


「へ? へいっ、でででも、あ、あいちゅ強くて」


(了解、了解。それじゃ魔力がもったいないから格闘戦で……いや、ここはド派手に見える攻撃で倒すか。少女が頼もしく思うような圧倒的な力でな)


 プレゼンはド派手にして、顧客の心を掴むべしと聞いたことがあるので、ツインヘッドオーガに向き直る。


(全体的なステータスが下がっても覚えているスキルや魔法は変わらないんだぜ。例えて言うならゲームでレベル99から1に下がっても99レベルで覚えたメテオは使えるのと同じだ。この魔力全てを使って発動できる魔法をぶち込んでやる!)


 軽く呼気を整え、翼を大きく広げると回復しかけている魔力を全て翼に流し込む。


「畏まりました。では片付けます」


(ぬくくく!? い、意外と辛いっ。た、倒れそう……。だけど、結構辛いけど、余裕の笑み! 余裕の笑みを見せるんだ、マナ・フラウロス!)


 余裕ですよと口を引き攣らせないようにして、微笑みながら小さな荷物でも片付けるかのように言うと、開いた光の翼が大きくはためかせ純白の光を纏わせた暴風を巻き起こす。


『光翼』


 その暴風はツインヘッドオーガを巻き込み、鉄よりも頑丈であるはずの肉体を一瞬で切り刻み、なおも途上にある草むらもツインヘッドオーガの後方にある木々も全てを吹き飛ばしてしまうのだった。


「あわわわ、えぇ〜。なに、この威力……ツインヘッドオーガはBランクのパーティーでなんとか倒せる強さなのに……」


 光の風により吹き飛んで綺麗に更地となった攻撃跡を見て、少女は唖然としてしまう。


(ふふふ、そうだろう、この技は牽制用だけど、ド派手なエフェクトだからね!)

 

 内心でドヤ顔をしつつも、その光景を見ている少女の前に優雅に片膝をつき微笑む。


「ソロモン72柱の1柱、マナ・フラウロスと申します。どうかこの私とご契約していだけますか?」


 それが本屋鍵音とマナ・フラウロスの出会いだった。

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― 新着の感想 ―
 この世界の召喚石と見た目クリソツな魂石でご休憩中だったマナを偶然拾った鍵音ちゃん、更にアバターを演じる事に慣れたマナが『この世界に違和感なく受け入れられるカバーストーリーとして』召喚獣として振る舞う…
裏事情もわかってこれからの二人にますます期待(と若干の不安)が膨らみますが、それはそれとして、「あち亀…全15247巻」って何年かかったんでしょう?
やはり今回の主人公も詐欺師でしたか 美少女アバター、召喚獣、契約プレイ、はったり魔法、ソロモン72柱 … 『ええ加減にせーよ』とツッコミたくなるレベルです 鍵音ちゃん のみならず、異世界全てをペテンに…
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