39話 マナは学園生活をする
キンコンカーンと鐘がなり、授業が終わる。生徒たちはようやく昼休みかと、顔を明るくして机をくっつけて弁当を食べ始めたり、学食に行こうかと教室を出たりと様々だ。
その中でマナ・フラウロスはどうするかと言うと━━。
「マナちゃん、学食に行こっ。おねーちゃんが御馳走してあげる」
「わ~い。ルカおねーちゃんだいしゅき〜」
もちろんルカの誘いに乗って、幼女マナはお花が咲いたような笑顔でお手々を繋いで食堂に向かうのだった。
「私は体育館裏で食べてます。マナ、貴女のマスターは体育館裏でご飯を食べますですよ〜」
「あい、いってらっしゃーい」
パンの耳が入ったビニール袋を片手にマスターが話しかけてくるので笑顔で見送る。たしかに食べ物ならなんでも食べるけど、美味しい食べ物の方を食べたいんだよ。
「本屋さん、お弁当作りすぎちゃって、一緒に食べてくれないかな?」
「ダイエットしたいから、おかず食べるのお手伝いしてよ〜」
「あうあうあう」
涙目のオットセイ鍵音に、気の毒そうに何人かの女生徒がお弁当分けてあげると話しかけているので、パンの耳オンリーの昼ご飯は免れそうである。そして、もう少しコミュ障をなんとかしてくれ。成り上がり主人公は、強くなった途端に物怖じせず、説教臭くなり上から目線で流暢に喋ることができるのがテンプレだと思うんだ。この表現だと別人がすり替わったとしかいえないけどね。
現実の成り上がりのコミュ障は話せませんを地で見せてくれる鍵音にため息を軽くつくと、マナはルカと学食に向かうのだった。
◇
学園生活をして2週間。生徒として過ごして気付いたことがある。この世界は楽しい。その中でも学園生活というものは特に楽しい。
勉学をするための施設だが、それはこの学園の一面にしか過ぎない。生徒たちはこの学園という小さな社会で、社交性を学び、集団生活の中で大人となって社会に飛び込む準備をする。そして、仲間と共に遊び、子供時代を過ごすのだ。オットセイは少し学園生活に問題がありそうだが、まだまだ学園生活は始まったばかり。友人ができればなにか変わるんではないかな。
そして、昼休みというものはさらに特別だ。1時間という長い休憩時間。ペコペコのお腹を満たすべく食事をして、食事をして食事をするのだから。食事ってとても重要なことだと思います。
「なにする〜? 今日学食にしようと思うんだ〜」
「そうだなぁ、先週に来た食堂のシェフの作る料理絶品だもんなぁ」
「噂だとフランスの三つ星レストランでスーシェフをしていた人だって」
「日替わりランチは天丼だけど、本当にフランス帰りなのか?」
廊下を歩いていると、仲の良さそうな男女がはしゃいだ声でおしゃべりしながら通り過ぎる。他にも生徒たちが大勢食堂に向かっている。
「学食、マジ大人気。新しいシェフのお陰だねぇ。美味しいって評判なんだよ。学園長が引き抜いてきたんだって。皆驚いてるんだよ」
隣を歩くルカが教えてくれる。食堂に着くと、大勢の生徒たちで賑わっていた。食堂といっても、日本最高峰の学園の食堂は漫画の世界だった。いや、表現は間違ってない。
高級ホテルのレストランのように内装は立派だ。各所にシワ一つない制服を着込むウェイトレスが背筋をピシッと伸ばして立っており、天井にはシャンデリア。テーブル卓はゆったりと座れるように6人がけのテーブルで真っ白いテーブルクロスが眩しいくらいだ。吹き抜けの二階建てで全面ガラス張りで、外はゆっくりとできるように青々とした木々と噴水、外でも食事かできるようにテーブル卓も設置されており、雰囲気の良い庭園となっている。
学園の食堂というと、無骨な長方形の食堂で長テーブルに押しのけあうように座って、ガツガツと食べる雰囲気なのに、この学園は違うらしい。
「とはいえ、これでは座れないのではないですか?」
生徒たちが多すぎる。どこを見ても、テーブルは埋まっており、座れそうにない。やはり学食は昼休みになったらダッシュで向かうのがテンプレではないのかな。
「大丈夫。この食堂には高位貴族特権があるんだよ。あまり使いたくないけど、使わなければ、テーブルは空いたままだから、使った方が良いの」
ほら、こっちこっちと手を引かれてポテポテと歩くと、吹き抜けの二階へと誘われる。
「なるほど。二階は高位貴族専用というわけですか。あるあるですね」
「うん。嫌味的だけど、それもまたこの学園のルールなんだよ。ほら、寄付金を貰うには色々と特別扱いも、ね?」
「重課金者を特別扱いしないとゲームも利益が出なくてサ終してしまいますものね。分かります」
「うん。少し偏った勉強した?」
色々とこの世界のことを勉強したマナに隙はない。なぜか微妙なカラ笑いになるルカだけど、俺はなにか変なこと言ったかな?
「遅かったですね、お嬢様。しっかりと私が場所取りをしておりましたのでご安心ください。花見と月見と花火にて場所取りをさせたら確実に座る場所を確保するメイド、一ノ瀬チシャです」
ウェイトレスが前に出てきて案内してくれるのでついていくと、先客が座っていた。白いプリムを頭に乗せて、白黒のメイド服を着たチシャだ。
既に何皿もテーブルには空っぽとなった皿が置かれており、今はチョコパフェにスプーンを刺している。場所取りに頑張った模様。場所取り?
「ここは高位貴族分のテーブルが置いてあるから大丈夫だって、何度言ったらわかるのぉ?」
「失礼しました。ですが、ルカお嬢様の専属メイドとして給仕をする役割を他の有象無象のウェイトレスに任せることはできません。あ、ほっとウーロン茶をお願いします」
チョコパフェを食べて身体が冷えたのか、ウェイトレスに注文して、チョコパフェを食べ続ける豪のメイドである。その表情は平然としており、堂々としすぎている。
「もぉ~。チシャの忠誠心には負けるよ。それじゃ、私はなににしようかなぁ」
「色々と食べ比べたところ、今日は限界まで麺の太さを細くした無限パスタがお勧めです。わんこそばのようにたくさん食べられます。それか、カツ丼」
選択肢に格差がありすぎる。
「私はチキンソテーにしておこっと。あと、オレンジジュースかな」
「では、無限パスタとカツ丼、チキンソテーにします。代金は本屋鍵音さんにつけておいてください。飲み物はほっとウーロン茶で」
「畏まりした。そこのウェイトレス。注文お願いします」
チシャさんや、君は専属メイドだから自分で給仕するとか言ってなかったっけ? なんでウェイトレスに注文してるのかな?
ま、良いけどさ。この食堂はつけが利いて良いよね。
「へい、ラッシャイ! 無限パスタにカツ丼、チキンソテーにハンバーグね! うけたまわり!」
厨房で中肉中背の金髪碧眼の優男が注文を受けて豪快に作り始める。あれがフランス帰りのコックなのだろう。
早く料理来ないかなぁと、短い足をパタパタ振って、るんるんご機嫌幼女なマナだ。メニューを見て、デザートはなににするかも考えるよ。むむむ、デザートはハヤシライスとカレーにしようかな。
ウキウキな幼女を他所に、ルカは友達とおしゃべりをし始めるので、その間に念話で使い魔とチェックだ。
こっそりと念話をして、使い魔と何を話すかというと、この世界にも少しずつ慣れてきたので、工作員なマナは暗躍をし始めたのだ。
『テステス。こちらはマナ。マモ、千鶴聞こえてますか?』
『こちらはマモまきゅ。チョコパフェ美味しいまきゅけど、お酒欲しい。日本酒買ってきて良いまきゅ?』
『はんばーぐを作ってまつ。ピヨピヨ千鶴でつ。ジューッて肉汁たっぷりで美味しそう。一口食べてみるでつ。はふはふ』
『テテは仲間外れうさ。早く憑依する素体見つけたいうさよ。ウサギはさみしいと艦砲射撃するうさよ?』
使い魔のマモと千鶴からの念話と、格納中でいじけたテテの声が脳に入ってくる。どうやらふたりとも問題はなさそうだ。
ふたりとも、この世界の情報収集と魔物の計画の妨害のために行動してくれている。千鶴はダンジョン排斥団体『エコー』のトップである小野妹子。ついこの間、悪魔召喚をしようとしていて、マナの目について若返りを代価に配下にしたここの学園長である壱岐ニニーヴから教えてもらった人間で力を欲していたので、千鶴が憑依して力を与えた。
彼の魔物を憎む心は本物なので裏切ることはないだろう。裏切ることができないようにもしてあるけどね。
今は部下と共にこの学園の食堂でコックとして勤めている。千鶴にとって偽装は幼女がでんぐり返しをするくらい簡単なことだ。妹子たちはまったくの別人として姿格好、戸籍も偽装してあり官憲に捕まることはない。
今回の憑依者は意識を残しているため、力を借りる時に千鶴が表に出る。
「はんばーぐうめ! もう1個焼くか」
「駄目ですよ、板長。つまみ食い禁止!」
力を借りる時だけ表に出ている予定。
厨房の言い合いを他所に、千鶴が報告を続ける。
『このいっしゅーかんで、かれー、はんばーぐ、やきそばの作り方をまひゅたーちまちた。千鶴ははんばーぐがだいしゅきでつ。良い子良い子ちて?』
『さすがは千鶴です。とても良い子なので、姉も嬉しいです。料理の作り方は最優先事項ですからね』
『えへへ〜。千鶴えりゃい! ついでに法務局の戸籍管理サーバーと、各市町村の管理サーバーにクラッキングちて、日本人の6割の戸籍をまっしょーしておきまちた。復旧しても2割は自己申告がないと不明な状態でつ』
『よろしい。これでこの世界で動く工作員を大量に用意できるでしょう』
喜ぶこともなく、ついでとして作戦を終えた千鶴に、当然の結果なので、マナも驚かないし褒めもしない。これから『エコー』の組織を拡大するのに組織の人間に戸籍が存在しないのは強みになる。
『マモは日本全体に網を張って、36の悪魔召喚魔法陣を感知したまきゅ。その中で人間を生贄にしたのは5個。牛や豚、鶏を生贄にしたのが24個。ただ発動するために魔力を注ぎ込んでいるのが4個。最後の3個が魔石とかを使って、膨大な魔力を注ぎ込んで召喚しようとしてるまきゅ』
『悪魔が実在すると知って、曲がりなりにも召喚魔法陣が動くようにしている者たちが多いようですね』
マモは感知のスペシャリストだ。足りない魔力は曽我家の宝物庫に捨ててある魔道具や魔石を流用して、日本全体をカバーして召喚魔法陣の発動を感知できるように仕掛けている。
ちなみにマモの憑依した相手は一ノ瀬チシャ。あっさりと曽我家を裏切った理由は『面白そうと生き残れそうとマーモットが好きだから』である。実に適当な性格のメイドといえよう。使い魔を見られたから焦ったけど、マーモットを抱きしめてきたので憑依させた。マーモット好きらしい。
『悪魔召喚で契約を求める者たちは利用できます。次元突破の手がかりにもなりそうですし、魔力を流し込む奴を相手にしましょう』
生贄などは呆れてしまう。人間モドキは同族を生贄にすることに躊躇いがないらしい。世界がどうなるのかよりも、自身の利益を重視する。きっと最後の一人になった時に、こんなことになるとは思わなかったと後悔するだろう。
「へい、無限パスタとカツ丼お待たせ!」
コトリとテーブルに置かれる料理に手を伸ばしながら、マナは酷薄な笑みを浮かべるのであった。
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