23話 マナは編入試験を受ける
編入試験を受けることになりましたマナ・フラウロスです。召喚獣なのに、編入生とはいかに?
「不思議に思ってるね〜。その理由はね、魔力を持った人間は国が管理登録してるからなんだ。銃ってわかる? 弱い魔力の持ち主でも、銃を持っている人よりも強いから危険なの。危険人物とか、まじ失礼だよね〜」
「だだだから、14歳になったら国の魔力検査を全員受けることを義務付けられてるんです。で、最低でも魔法を使えるレベルの魔力持ちはどこかのアカデミーに所属しないといけないんです。ででででも、召喚獣を編入生扱いなんて」
学園内の廊下を歩きながら、ルカと鍵音がなぜこのようなことになったかをマナに教えてくれていた。
ルカはニコニコと微笑みながら、マナの隣を歩いている。人懐っこそうな子だ。そして、マナの背中にへばりついている方がマスターのはずの鍵音です。
「でも、マナちゃんって、召喚獣だったんだ。えぇ~、そんなふうには見えないなぁ。さっきの召喚石に入るところを見なかったら信じられなかったよぉ~。ぷにぷに〜」
「えへへへ。わたわたわた」
「鍵音ちゃんは綿菓子なの?」
マナの頬をつつきながら、悪戯そうに笑うルカに、ふにゃふにゃとした笑みで答える鍵音。たった1日だけど何を言いたいのかわかる。「私が見つけたんです」だろ?
とはいえ………。
(召喚獣と知らなかったねぇ……。それにしては、まったく驚いていなかったようだけど。それに、召喚石を鍵音が取り出した時のあの鋭い目つき………まぁ、面白そうだし、この世界の人間の思考を知るためにも必要だしな)
内心でほくそ笑みながらも、表情はキョトンとした無邪気な笑みで、ルカに頬をつつかれるままにしておく。マナ・フラウロスは無邪気で、無知で、されるがままの召喚獣なんだよ。だからこそ、赤ん坊を前にするように、相手は油断して裏の心を見せてくれるからね。
「うう、気をつけてね、ここでテストに落ちたら、他のランクが低いアカデミーに所属することになるから! 召喚獣だからそんなことになるとは思わないけど、可能性としては1%ときゃあるかもだからっ!」
「そうなのですね」
必死な様子の鍵音。なるほど、このアカデミーはこの国最高峰なのか。ん? 最高峰なのに鍵音はよく入れたな。魔力最低じゃなかったっけ? マナの疑問顔に気づいたのか、恥ずかしがる鍵音。
「え、えへへへ、わたわたわた」
「ど~ん、鍵音ちゃんは魔力は最低ランクだけど筆記試験が全科目満点だったんだよ。魔法理論も含めて満点なんて学園創設以来の初のことだったの。それに加えて実技試験は最低だったのに、学園に入れたのも初の事件で有名!」
もじもじと指を絡めて照れるわたわたわたさん。元気よくルカがフォローしてくれるので助かったよ。
(でも、隠す気があるのか、ないのか。はじめましてじゃなかったっけ? どうやらこの世界の情報伝達速度はそこそこ早いと見えるね)
裏を感じさせない笑顔で教えてくれるルカに苦笑を禁じえない。鍵音はというとわたわたわた星人になっていて、全然おかしさに気づいていないようだった。
「でででで」
「ですから、マナちゃんは学科試験なしなので、実技試験で悪い点を取ると、編入試験に受からない可能性が高いの。悪かったら、他の学園に編入させられちゃうかもだよ。万が一のこともあるから気をつけて」
わたわたわた星語を早くもマスターした模様のルカがフォローをしてくれる。こういう人との付き合いに慣れてるのかな?
「わかりました。では多少気をつけておきたいと思います」
試験かぁ。俺もソウルアバターになったばかりの頃受けたことがある。戦闘知識などはインストールされており、皆は横並びだったけど、センスや得意なものはそれぞれ違うからね。マナ・フラウロスは情報処理と魔法操作の緻密さから戦闘部隊に配属されたんだっけ。
「こここここ」
「ここが訓練場でーす! 世界樹帝国学園の誇る訓練場にとうちゃーく!」
鶏化したこここここさんのフォローが完璧だね、ルカさんや。
眼の前に広がるグラウンドを前に、クスリと笑ってしまうマナだった。
◇
1辺が200メートルほどある正方形のグラウンドが眼の前にあった。グラウンドというか、コロシアムというべきだろうか。地面は石タイルが敷き詰められており、周囲は階段状の観覧席が備え付けられて、グラウンドを観ることができる。
(ふむ、一応気をつけて作ってあるんだな。この石床は拙いながらも全部魔法処理されてるし)
そっと『解析』を使ってみると、見た目は石床だが、鉄よりも硬い物理耐性と、初歩的な魔法なら壊れない程度の魔法耐性も付与されている。壁全体が結界となっており、グラウンドを覆う形で配置されて、外へと被害が出ないようにしていた。
「ししししし」
「ハンターたちの公式試合にも使われる訓練場なんだ。テレビとか放映されるんだよ。その時は数万人レベルの観客が来るんだぁ、私、この学園に来る前に観に来たことあるんだけど、まじ圧巻だから」
「学園内にそのような施設があるとは素晴らしいんですね」
そして、さっきから単語も口にできていない素晴らしくないマスターよ、そろそろ会話に加わってくれ。怪しく笑う不審者になってるだろ。
マナたちが入ってくるのを見て、高笑いをする人と、その他二人。
「はははは! よ~し、編入試験に来たな、受験生! 待ってたぞ!」
そして、グラウンドに仁王立ちしている2メートルは背丈がある強面の大男。角刈りで見た目からして体育系。歳は40くらい。体は筋肉の鎧に覆われて、服装もタンクトップにズボンといかにも体育の先生らしい。
「はぁ~、なんで急に編入試験なんか……今日の講義、自習にしたから、追いつけるように講義のスケジュール組み直さねーと。この残業代は誰が出してくれるんだ、くそっ」
悪態をついているのは、見た目は清潔感があり、中肉中背の顔もそこそこ整っている男性だ。ジャージもマナが昨日着ていたダサジャージよりも高級感とお洒落さを感じさせるジャージを着ている。歳は30代後半かな? 腰にレイピアを佩いている。
「まったく………私は次の教頭試験があるのだよ。なのに、こんな急に編入試験などと……」
ぶつぶつと不満そうに呟くのは、目の下に隈を作り、不健康そうなローブ姿のおっさんだった。枯れ木のような細い体で、ゴテゴテと宝石がついた杖を持っている。
「かかかかか」
ペぷん
1語しか言えない鍵音の頬を優しく包み、焦点の合わない瞳を見つめる。
「マスター、ゆっくりで良いのです。貴女の言葉で語ってください」
そうしないと、誰かがそばにいるときはコミュニケーションに困る。自己中的な考えだけど、鍵音もこのままだと非常に困るだろう? そうして、優しく見つめていると、マナの目を見て落ち着いたのか、深呼吸をする鍵音は話し始める。
「あ、うゆ、うん! ええっと、その、あの人たちは試験でいた先生です。あの無駄に筋肉を発達させているのが、物理攻撃メインの受験生を相手にする『金剛不壊』の白井陸先生。もう歳なのに未だに自分がモテると思ってる最近は髪の毛の薄さを気にしている昔は2枚目の人が、魔法と物理両方を使う魔法戦士メインの受験生を相手にする中井雲先生。最後に健康状態が悪そうな悪党面の人が魔法使いを相手にする黒井海先生でふっ!」
「もう少しリスペクトした言い方も学びましょう」
真面目にツッコむ召喚獣、その名はマナ・フラウロスです。ルカもクスクスと笑って、話にさらなる情報を加える。
「あははっ。でも鍵音ちゃんの言い方は言い得て妙だよ。三人の先生方はランクは個人だとBランク上位。でも、パーティーだとAランクになるつい5年前までは、現役バリバリだった人たちなんだよ。学園長が引退すると聞いて、是非先生にと口説き落としたらしいの」
「なるほど。最強たる学園長の言葉には逆らえないというわけですか」
わかるわかる、アニメとか小説で読んだよ。こーゆー学園の学園長は謎めいていて最強なんだ。そして、謎めいた事件とかで主人公が解決した後に、ミステリアスな感じでご苦労さまとか言って姿を現すんでしょ。
「ん? 違うよぉ。学園長は名家の分家出身で、強さはCランク程度の世渡りが上手い人。アカデミー最強はあの三人のパーティーとなるかなぁ。パーティーについた渾名は全員の苗字に井がついてるから『井の中のカワーズ』。ふふっ、面白いよねぇ」
が~ん、現実は非情だった。せっかく色々な小説とかを読んでワクワクしてたのに、召喚獣の期待を裏切るなんて酷いよ。てか、渾名酷いな。古代文献を調べてきたけど、日本人って、そうゆう語呂合わせの渾名つけるの好きだよね。
「はははは、よく知ってるな、蘇我! 口は災いの元ということわざを知っているか? お前と本屋は中期テストで減点1だ」
鷹揚に笑う陸先生だが、罰点はつくらしい。鍵音が満点がとか呟いて、ルカが文句をつけて唇を尖らすが覆ることはなさそうだ。陸先生はマナへと視線を移して、ニヤリと笑ってくる。
「マナ・フラウロス。君が今回の編入試験を受ける受験生だな? 本テストの内容は、試験官にどれだけのダメージを与えられるか? それか何分間戦闘を継続できるかがポイントとなる。得意の戦闘スタイルに従い、三人のうち誰かを選ぶが良い」
ふむふむ、単純な方式なんだな。誰を選ぶかによって、戦闘センスも推し量っているというところか。
ちらりと観覧席を見ると、ぽつぽつと人が座っている。生徒らしき人もいれば、スーツ姿のおっさんもいる。全員、マナを見に来た模様。マーモットを見に来たわけではなさそうだ。どうやらマーモット動画を流したくらいでは誤魔化すことはできなかったようだね。
編入試験の準備といい、見学者がいることといい、感心するほどに手際が良い。昨日のことなのにな。
「ままま、マナ。お勧めは白井先生です。あの人は硬くてダメージは与えられませんが、動きは鈍いので、時間稼ぎに最適なんです」
「マスターも白井先生を選んだんですか?」
「ううん、私が戦ったらあっという間にミンチになっちゃいます。テストの時は黒井先生を選んで、その、あの、2秒のポイントを稼ぎました」
「戦車超人並みの速さでやられたんですね」
あううと、恥ずかしさから真っ赤になる鍵音に苦笑しつつ、誰を選ぶか考える。いや、考えるまでもないな。
「では、三人全員を選びます。どうぞ全員でかかってきてください」
トトッと前に踏み出すと、マナ・フラウロスはふわりと花咲くような笑みで告げるのであった。




