第十八章|作戦会議
観測域管理中枢・第七連絡層、極秘会議室。
厚い防音壁と隔絶フィールドに包まれたその空間は、外部との接触を完全に遮断していた。
暗く沈んだ照明の下、長方形の会議卓には八名の職員が集っている。
中央席に座るのはオスカー・ヘイズ。
無表情のまま、卓上のインターフェースに手を置く。
「議題は一点。迷入者HZ-112――葉月の行方について」
無機質な音声が会議室内に反響する。
壁面に浮かび上がったホログラフには、葉月の記録映像とZərf同期データ、そして外出申請履歴が表示されていた。
「Zərfの発動は昨日の午前七時四十八分を最後に沈黙。外出記録には、私の署名が“正規の形式”で記されていた。だが、私は出していない。つまり――内部改竄だ」
どよめきが走る。
「なぜすぐに検知できなかった!?」
「署名コードが一致していたからだろう!」
「誰が書き換えた!?」
「まさか、ここにいる誰かじゃ……」
「裏切者などいるわけがない!」
「お前がやったんじゃないのか!?」
怒号が飛び交う。
その空気を断ち切るように、オスカーが声を放った。
「黙れ」
一言で、場が凍りついた。
「今は責任の擦り付けをしている場合ではない。迷入者が行方不明になっている。それも、“あの教団”によって拉致された可能性が高い」
静まり返る中で、彼の目が全員を見据える。
「彼女は“視られてしまった”。それだけの理由で、選別対象にされた。……その責任は、我々全員にある」
壁のホログラムが切り替わり、地図上に赤く点滅する一点が表示された。
「ここが有力な潜伏候補地――旧マグナレ遺構帯の最深域。表面は静域に偽装されているが、昨日未明、わずかにZərfの残響があった」
「突入は可能なのか?」
戦術部門のレイガス准佐が低く問う。
それに応えるように、オスカーの隣の戦術補佐官が資料を展開した。
「“消音部隊”の第二小隊を主軸とした構成を推奨。遮音装備〈ヴェルト=S〉と対精神干渉用の遮断マスク〈グラファ=II〉を配備予定。突入経路は南側の排気孔から。遠隔妨害対策として、通信用にスタンドアロー型ビーコンを併設」
ホログラムには隊員構成、装備仕様、移動ルートが次々に示される。
「ただし、突入時のZərf使用は制限される。干渉波が強く、発動に対する反応が敵側に伝播する危険がある」
「ならば逆に、発動があればそれを陽動にできるということか」
「想定はしている」
「待て。まだその迷入者が無事だという保証は……!」
「保証がなくても、我々は動かねばならない」
オスカーが低く言った。
「葉月HZ-112は、GIAの一部として訓練を受けていた。我々が信頼を与えた以上、その命を取り戻す義務がある。……誰がどう思おうと、私は行く」
誰もが言葉を失う中、彼の声だけが研ぎ澄まされて響いた。
「そのために、我々はここにいる」