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死にたくなったら  作者: 狐目 ねつき
第三章 蠢動
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36話 徹底的

 週が明け、久方ぶりの快晴を覗かせた月曜日――


「――今日は、みんなに協力してもらいたい事がある」


 朝のホームルーム。普段、穏やかな様相を絶やさなかった担任の奥戸が、いつにないほどの真剣な顔つきでそう告げる。生徒の訃報を口にした際ともまた違う、重くありつつどこか静かな怒りを感じさせるような声音だ。


「一人ずつ呼ぶから、呼ばれた生徒は先生の質問に答えてくれ」


 奥戸は朝から、クラスの生徒を一人ずつ教室の外に呼び出していた。数学の授業中だろうが英語の授業中だろうがお構いなしに、機械的に処理でもしていくかのよう、順番に10分ほどずつ。更には彼の担当する現代文の授業は、他の教師が代わりを務めるという徹底ぶりがうかがえた。


「なあ、先生となに話してきたんだよ?」

「いや、別に、なにも……」


 クラスの男子が先に呼ばれた生徒に尋ねるも、誰も答えようとはしない。怪訝そうな顔や気まずそうな顔に、後ろめたそうな顔。若干の差異はあれど、戻ってきた生徒たちは、みな一様に奥戸と話した内容について沈黙を貫き続けていた。絶対に口外はしないようにと、強く言い付けられたのだろうか。


(君鳥さんの件だ……)


 リクは呼ばれなかったが、朝から続くこの不穏な流れが何を意味しているのか察しがついていた。たったいま奥戸は、加害者となる生徒を炙り出すために、一人ずつ聞き取り調査をしているのだ――と。現在は昼休みだが、これまでに呼ばれたクラスメートは、20名を優に超えていた。


(呼ばれた人達が正直に話していれば、そろそろ奥戸先生も誰が犯人かわかってくるはず……)


 リクはそう予想しつつ、購買のエビカツサンドを自分の席で黙々と食べていた。いつも昼食を共にしていたヒロは風邪をひいたらしく、今日は学校を欠席したのだという。


(たまには、一人で食べるのも悪くないかな……)


 黄昏れたように、リクは窓の外をどこか遠い目で眺める。青空を流れる雲がいつもより早く見えた。なにかが急速に動き出しているような、そんな予感がする――


「村崎くん、今ちょっと良いかな?」


 そんな物思いに耽っていると、死角から突如声をかけられ、リクは誤嚥から激しくむせてしまう。声を掛けてきたのは、ナナだった。


「ご、ごめんっ……大丈夫?」

「げっほ……大丈夫、だよ……君鳥さん」


 慌てつつも申し訳なさそうな様子で心配をするナナに対し、リクは平気だと伝える。


「それで、どうしたの?」

「えっと、あのね……」


 まだ喉に違和感が残る中、リクはナナに用件を尋ねる。リクの席の傍らに立つ彼女は、どこか居心地が悪そうにしながら、周囲の視線を気にしているようだ。その姿を見ただけで、リクは悟る。


「大丈夫だよ。君鳥さんはなにも悪くないんだし、堂々としていれば良いと思う」


 そしてあえて多くを語らずに、リクはナナに優しい口調で諭す。彼女は事前に、奥戸がクラスの問題解決に動いてくれるというのをリクから伝え聞き、知ってはいたはずだ。しかし、まさかここまで大掛かりな事態になるとは想像もしていなかったのだろう。リクの目から見ても、彼女は朝のホームルームから明らかに戸惑いを隠せていないように映っていた。


「うん……そうだよ、ね……そうする」


 ナナは唇を薄く微笑ませ、こくりと小さく頷く。リクが掛けた言葉は気休め程度のものだったが、それでもわずかな安心感を与えてはいたようだ。すると彼女はやや躊躇ったのち、白い肌をわずかに赤らめた様子で、意を決したように口を開く。


「村崎くん……今日の放課後って、予定ある?」

「えっ、特には無いけど……」


 声をひそめて問われたリクは、詮索もせず正直に返答をした。


「私も今日は部活休みだし、良かったら一緒に帰ら――」


 そしてなにかを期待させるような誘いがナナの口から紡がれようとするも、校内放送を告げる甲高いチャイムの音が突如鳴り響き、彼女の声に被せるよう遮った。リクとナナを含んだ、たった今クラスにいる全員の視線が、黒板の上に設置されたスピーカーの方へと注がれる――


『一年B組、君鳥ナナさん。生徒指導室まで来てください』


 少しの間を置いて、ナナを呼び付ける奥戸の声が聴こえてくる。スピーカー越しだからか、どこか無機質な響き。他の生徒たちの注目が、今度は一斉にナナの方へと向けられる。


「君鳥さん……」


 リクは心配の声を小さく寄せたが、ナナはふいっとそれを無視するように、視線の(むしろ)を浴びながらも教室の外へと歩みを開始した。その足取りは支えが無いように力なく、細い肩は震えているように映ってしまう。


 教室の中は、まだ雲が晴れていないようだ――



5月2日

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