18話 昼休み
「えっ……」
昼休み――登校してから初めてスマホの液晶を点けたリクは、溜まっていたメッセージ通知の量に顔を引きつらせる。
(13件も? しかも全部エイトさんから……)
「リク、どうした?」
長テーブルを挟んだ向かいの席で学食のカツサンドをかぶりついていたヒロが、リクの顔色の変化に反応を示す。
「な、なんでもないよ。このカツサンドすごく美味しいね。揚げたてジューシーな感じが」
「だろ? 須和彩の学食メニューは一通り頼んでみたけど、カツサンドが特にレベチなんだよな」
動揺が悟られないよう、なんとか誤魔化すことに成功はした。それでもエイトからの大量のメッセージがどうしても気になってしまい、リクはヒロと談笑を続けつつ、食事をしながらメッセージの内容をこっそりと確認する。
『おい 8:58』
『死にたくなってねえか 8:59』
『これからバイトだけど何かあったら電話しろよ 9:35』
『やっぱバイト休むわ 9:48』
『お前の口座から一万円おろしていい? 10:27』
『倍にして返してやるから 10:28』
『マジで 10:28』
『おい無視すんな 11:05』
『携帯見ろよ 11:07』
『真面目か 11:08』
『やっぱ5のつく日はダメだな 12:11』
『狙ってた台、全部埋まってたわ 12:12』
『開店前から並ぶべきだった 12:12』
(……この人と今後も一緒に生活していって本当に大丈夫なのかな)
一連のメッセージの全てを目に通し終えたリクの胸の内に、新たな悩みの種が根を張る。朝に〝奥戸先生〟という、まとも過ぎる大人と関わったからこそ、なおさらエイトの社会不適合者ぶりが際立って見えてしまった。
(バイトをサボって、同居人にお金せびってギャンブルは、さすがにどうかしてるでしょ……エイトさん)
はぁ、とリクは深く溜め息をつく。だがそこで、開いたままにしていたアプリの画面に新たなメッセージが届く――
『友達100人できたか? 12:31』
「……ふふっ」
そのメッセージの微笑ましさに、リクは少しだけ鼻を鳴らして笑う。これまでに届いたメッセージの文面のそこかしこからも、不器用ながらに自分を案じている様子は伝わってきた。彼なりに、心配してくれているのだろう。やや幻滅もしてしまったが、清濁併せ呑んだようなその人間臭さも、エイトという男の魅力の一つではあるのだ。
(無視するのも悪いし、ちゃんと返すか)
『12:32 一人だけできたよ』
『お、マジで? 12:32』
『やるじゃん 12:32』
『12:33 担任の先生も良い人そうだったし』
『良かったじゃねえか 12:33』
『じゃあ一万円貸してくれ 12:33』
『12:34 なんでそうなるの笑』
『12:34 じゃあ、の振れ幅が大きすぎるでしょ』
『しゃあねえな 12:35』
『寄り道しないで帰ってこいよ 12:35』
『12:36 わかったよ!』
「そういえばさ、リク――ってなんでニヤニヤしてんだよ」
「えっ……あっ、なに?」
ヒロからの指摘を受け、リクは動揺混じりに聞き返す。液晶に意識を集中させすぎたせいか、油断してしまっていたようだ。
「その、後見人……だっけ? 今、リクが一緒に暮らしてる人ってどんな感じの人なんだ?」
「うーん……」
いずれ来ると解っていた質問だが、どう答えるべきかはまだ考えていなかった。エイトの人となりが特殊すぎるため、口頭だけの説明だと変な勘違いを生んでしまう恐れがある。
(でも、まあ、隠したところで……だしね)
ここはエイトに倣い、悪びれも偽りもせず、正直に答えてみようか――
「こんな感じの人だよ」
そう判断したリクはテーブルに少し身を乗り出し、メッセージアプリを開いたまま、スマホを上向けてヒロの前に差し出した。
「おいおい、見せていいのかよ……」
ヒロは遠慮がちな素振りを見せつつも、好奇心は隠しきれなかったようだ。リクのスマホを手に取り、指で液晶をスクロールして、メッセージを一つずつ目で追っていく。
「えぇと……面白そうな人なのは伝わったけど、色々と大丈夫か?」
苦々しい表情で感想と心配を口にするヒロ。メッセージのやり取りだけを見てしまえば、誰だって似たような反応をするだろう。予想通りだ。リクは落ち着き払った様子で、語っていく――
「大丈夫か大丈夫じゃないかでいったら……多分大丈夫じゃないかも」
「やべぇじゃん」
「うん……まあね。でも、人生なんてそんなものじゃない? 大丈夫だという保証はいつだってないよ」
「いや、説得力ありすぎてコメントしづらいって」
「とりあえずエイトさんは良い人だよ。それは保証できる」
「まぁ……実際に暮らしてるリクがそう言うんなら、本当に良い人なんだろうな」
「借金、400万円くらいあるらしいけど」
「……やべぇじゃん」
(うん……やっぱりやばいか)




