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プロローグ 吾輩は《動く白骨(スケルトン)》である

とりあえずプロローグだけ三話で終わる予定です。

 吾輩は《動く白骨(スケルトン)》である、名前はまだない……。


 そこへ微妙に粘っこい声質をした壮年男性の声がかけらた。

「お前は一番(プリーモ)、貴様は二番(セコンド)、つぎ三番(テルツォ)。で、四番(クワルト)五番(クイント)……」

 なんとなく気分的に横目で見れば、ズラリと横一列に並んだ《動く白骨(スケルトン)》たちを前を、横柄な仕草と口調で中肉中背の男――本能的にコレが自分の創造主であるダンジョンマスターだと察せられる存在が、カツカツと足音を立てて横断していく。

「ん? 骨のくせに貧弱だな。――まあいい、お前は九番目に創造したから『九番目(ノノ)』とする」


 あ、いまダンジョンマスターから侮蔑の言葉とともに安直な名前が付けられました。

 微妙に釈然としませんが、逆らうということができない仕様上、とりあえず創造主にして上司にあたる、目深にフード付きのローブをまとったダンジョンマスターに向かって、

『ということで吾輩の名は「ノノ」です。今後ともよろしく』

 円滑な対人関係を構築するため、対外的に深々と腰を折って挨拶しておきました。


 まあ骨なので『カタカタ』と歯が鳴るだけですが。


「うおっ……!? な、なんか妙なスケルトンだな。鑑定は……『特殊個体』? 先天スキル『自己修復&自己再生(小)』ねえ……? 偶発的に引き当てられる『特殊個体』は儲けものだが、最弱のスケルトンではさほど意味はないな。ま、スキルともども他よりはマシな程度だな」

 ダンジョンマスターの呟きが、いまはまだ一抱えほどもあるクリスタル《ダンジョン(コア)》が部屋の中央に鎮座しているものの、ガランと殺風景極まりないダンジョン最奥――最深部にあるマスタールームに木霊(こだま)する。


 ということで、ダンジョンの第一層の衛兵となった吾輩、歌って踊れる《動く白骨(スケルトン)》こと”ノノ”です。

 ちなみにダンジョンというのは、古戦場とか処刑場などといった大地や知的生物(だいたい人族(ヒューム))から発せられる(おり)――要するに『アイツ殺す』とか『隣の女房を寝取りたい』とかの駄々洩れの欲望など――マイナス方向のベクトルのエネルギー(通称『瘴気(しょうき)』)が吹き溜まりに溜まって、臨界に達した時に発生する災害のようなもので、放置するとどんどんと成長して際限なく魔物と瘴気を発する原因となるので、安全のために発生したダンジョンは、発見次第なるべく早めに《ダンジョン(コア)》を破壊して消滅させるのが、外の世界では推奨されているらしい。


《ダンジョン(コア)》は吾輩が最初に見た()()で、魔物の創造やダンジョンの改造など、多種多彩な機能を兼ね備え、なおかつダンジョンマスターの命とも直結しているとのこと(まあ我々魔物もそのおこぼれである瘴気を空気のように吸って活動しているわけだが)。

 で、文字通りのダンジョンの命脈である《ダンジョン(コア)》を護るべく、ダンジョンマスターは日々限られた『瘴気(リソース)』を駆使して、ダンジョンの拡張や罠の仕掛け、魔物の創造などに明け暮れているているのだった。


 また、外部からダンジョンに入ってきた生物(高等生物になればなるほど効率がいい)が放つ瘴気はダンジョンにとって、必要な(かて)になるので、定期的に欲深な人族(ヒューム)がやってくるよう、連中の好きな貴金属や特殊な薬品などといった餌を、ダンジョンマスターが《ダンジョン(コア)》から創り出して、それを定期的に『宝箱』に配置する……といった雑用も、併せて吾輩が行わされていた。


 信頼されているとかそういうことではなく、他のスケルトンだと命令されても薬品(ポーション)の瓶を放り投げて割ったり、分散しないで一つの『宝箱』に全部入れて、他は空っぽなどという雑な仕事しかできないので、消去法で吾輩の分担になっただけであるが。


「――使えんかと思ったが、意外なところに使い道があったというわけか。フハハハハハ!」

 そのことを知ったダンジョンマスターが、珍しく肩を揺らして愉快そうに(わら)ったのが印象に残っている。

 笑ってもひたすら陰気で、不気味なだけの相手もいるものなのだなぁ……と内心でしみじみ思ったものだ。


 そんな感じでダンジョンができてどのくらい経っただろうか? 昼も夜もないここでは時間の感覚などないけれど、噂では下層は三十階層を越えているというが、ここ一層はいつもと変わり映えしない複雑に入り組んだ鍾乳洞のようなありさまで、通り過ぎるのは吾輩らと同じ《動く白骨(スケルトン)》か、緑色の肌をした小鬼(ゴブリン)、そして半透明の動く粘液(スライム)くらいなものだ。


(……ふむ。時期的にそろそろ”冒険者”と呼ばれる略奪者が、ダンジョンに襲撃をかけてくる頃合いかと思っていたが、杞憂であったか)

 なんとなくこれまでの経験則からそう見当をつけて、あてもなくダンジョン一階層を徘徊していたが、いまのところ特に代わり映えしない様子である。


 勘が外れたことにガッカリとも安堵ともつかない思いを抱きながら、持っていた山刀(ククリ)を床に置いて、適当な岩に腰を下ろした。

 それから腰のポーチ(返り討ちにした冒険者の遺品)から、手鏡程度の大きさの摩訶不思議な銀色の板を取り出して、自分自身を映し込む。


 いつも通りどこか細くて貧弱そうな白骨が、薄汚れた革製の鎧(レザー・アーマー)(ヘイム)を被っているのが、眼窩もないのに見える。

 それから板の上部にあるスイッチを押すと――。


************

動く白骨(スケルトン)

名称:九番目(ノノ)

分類:下級スケルトン兵(特殊個体)

レベル:4

HP:25

MP:106

腕力:11

耐久:10

俊敏:22

知能:29

魅力:∞

スキル:自己修復&自己再生(小)、毒無効、死んだふり1

装備:錆びた山刀(ククリ)(低品質)、革製の鎧(レザー・アーマー)(低品質)、革の冑(レザー・ヘイム)(低品質)

備考:進化条件レベル10↑(現在:51/100)

************


 吾輩自身の情報が表示される。

(先は長い……)


 冒険者がだいたい持っている謎カード。

『鑑定』の魔術が付随しているのか、自分を映せば自分の情報(ステータス)が、他人や魔物を映せばそれについてある程度判明する便利アイテム。

 連中が頻繁に使っているので、吾輩も自然と使い方を覚えて使っているのだけれど(鎧や武器と同じく、冒険者の死体から永久拝借した)、『下級スケルトン兵』という立場なせいか、元から素質がないのか、このダンジョンでは結構古参の魔物の割に、遅々としてレベルとやらが上がらないでいる。


(つーか、どう考えても吾輩って後衛……それも魔法職向けの性能であるよな)

 武器持って前線で戦うのに著しく不利なビルドであると、素人考えながら思えるのだが、残念ながら下級アンデッドである《動く白骨(スケルトン)》には魔術は使えない。

 存在進化をして《スペクター》や《屍王(リッチー)》、《吸血鬼(ヴァンパイア)》にならなければ無理な相談であり、そして進化するためにはレベルを上げねばならぬ。


 堂々巡りの話だ。


 思わず我が身の細い腕やあばら骨を見返す。

 同じ《動く白骨(スケルトン)》と見比べても二回りは細くてひ弱に見える。生前の吾輩はどれだけ栄養失調の短躯(たんく)であったことやら。


 と、そこへ重々しい足取りとともに、重厚な甲冑(よく見れば錆びたり凹んだりと状態は良くないが)を着込んだ、吾輩より確実に頭蓋骨二つ分はでかい、大柄な騎士風の身なりをした者が歩み寄ってきた。


************

動く白骨(スケルトン)

名称:六番目(セスト)

分類:スケルトン騎士(ナイト)

レベル:31

HP:551

MP:154

腕力:203

耐久:330

俊敏:87

知能:41

魅力:177

スキル:剣技4、盾術3、毒無効、剛腕、根性(ガッツ)

装備:錆びた大剣(グレートソード)(低品質)、全身鎧(フルプレート)(低品質)、大盾(ヘビー・シールド)(中古質)

備考:進化条件レベル50↑(現在:255/10000)

************


「カタカタ……カタカタ…カタ(セストか。第二層に配置されているはずのお前がなぜここに? 何かあったのか?)」

 歯や全身の関節を鳴らして意思疎通を図る――これぞ吾輩が開発した”関節話法(かんせつわほう)”であるが、残念ながら完全に習得しているのは目の前のセストくらいしかいない。


 最初に召喚された《動く白骨(スケルトン)》組の同期で、基本的には他の連中同様に機械的に行動し、侵入者を見つければ昆虫のように後先考えずに攻撃する――正しく定番の《動く白骨(スケルトン)》であったのだが、そんな当時であってさえ、気のせいか妙に吾輩のことを意識している挙動が散見され、こちらとしても奴の腕っぷしを頼りにできることから、お互いにコンビを組むことが多かったのだが、残念ながらそういった蜜月は長くはなく。


 セストの奴はこの体躯を生かした出世頭として、順調にレベル10で《スケルトン・ウォーリアー》に進化し、レベル25で《スケルトン騎士(ナイト)》へと成り上がり、結果的に落ちこぼれの吾輩とは文字通り棲む階層が違うところへ配置換えされた。

 普通ならそれで終わりなのだが、知能が上がった結果なのか、命令がない手持無沙汰な時など、恣意的に吾輩に構いに来るようになったので、いまだにつき合いは続いているのだった。


 まあ上級と特殊個体の違いはあっても《動く白骨(スケルトン)》同士、個人で意思疎通ができるのは、このダンジョンでは奴と吾輩くらいなので無聊(ぶりょう)を持て余しているのであろう。


 とは言え待機時間でもないのに、わざわざ第二層の切り札(エース)――セストのような《スケルトン騎士(ナイト)》が指揮を執り、《スケルトン・ウォーリアー》や《スケルトン・ランサー》《スケルトン・アーチャー》という第一種族進化を経た連中が守りを固め、さらに素早いコボルトや実体のない死霊(レイス)が侵入者を翻弄する。本格的な防衛機能としての現場――から、悪く言えば相手の力量を測るためのお試しである第一層まで、わざわざ足を運ぶのは珍しいことだった。


 生真面目なセスト(こいつ)のことだから、上から何か命令があって足を運んできた。ついでに吾輩の様子を見に来た……といったところだろう。


 もともとどこぞの騎士の遺品である面当てが壊れて、中身である素顔……というか吾輩と同じ髑髏(ドクロ)顔(同じ白骨で表情を示す肉がないというのに、頭骨の時点で吾輩に比べて遥かに遥かにキリリと引き締まっているのは何気に腹が立つ)が、座ったままの吾輩を見下ろし、カタカタと”関節話法”で話しかけてきた。

9/25 7:12~

急遽金曜日まで検査入院することになりました。申し訳ありませんが更新は週末ということになります。申し訳ございません( TДT)ゴメンヨー


人物紹介(?)

・ノノ:下級スケルトン兵(特殊個体)。自分では全然気が付いていないけど、女性。元古代魔法帝国の皇女様の成れの果て(記憶はない)。そのあまりの美しさで帝国内はもとより、周辺国からも争奪戦が起きた結果、古代魔法帝国は滅びたとも伝説に謳われる絶世傾国の美姫。その魅力は骨になってもまだ効力があるほどである。


・セスト:元騎士王と呼ばれた超絶凄腕の騎士の成れの果て。身長2.2mの巨漢だが、生前は熊のような体格ではなく、ネコ科の大型獣のようなしなやかさを持った美丈夫であった。騎士の本能で姫君であるノノを自然と護る行動をとっている。


・ダンジョンマスター:格としては『子爵級』。もともとダンジョンマスターは他のダンジョンの魔物が自我を持ち、独立した存在である。ダンジョンが生まれると近くにいる力のあるダンジョンマスターが、配下のダンジョンマスターを派遣する流れだが、たまに野良のダンジョンマスターが先に《ダンジョン核》に登録して占有したり、冒険者に先を越されて破壊されることもある。このダンジョンマスターは邪妖精族だが、良くも悪くも凡庸。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは先の展開が期待できそう⁉ これを3話で終わらすとは勿体無い。。。
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