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第26話 セリアのくすぐり配信

 王都に帰還して二週間ほどが経過した。


 リュステールはあれ以来、全く姿を見せない。俺も出会ったとしてもどうしていいか分からない。

 彼女に殺してと言われた。エヴァもアデリアの魂を解放するには殺すしか無いと言う。でも、それでいいのか? リュステール自身、本当に死にたいなら、何故龍神剣(アルテ・ドラギス)を躱した? リュステールの心と、アデリアの心が異なる願いを抱いているのだとしても、今は一つに溶け合っているのだろう? だとしたら、彼女も本当は死にたくは無いのだと思う。


 彼女を助けたい。ただ、どうやって?がどうしても思いつかない。以前、リアーナに、俺が考えても碌な考えなんか浮かばないから思い詰めるなと言われたが、今、まさにそういう状態である。完全に思考停止状態で、日々の仕事をただこなし、家に帰って、セリアからの定時連絡を待つだけの毎日だった。


 セリアは別れてから毎日、ちびラーを通じて俺に日々の出来事を伝えてきてくれる。ただこれの難点は、俺からは彼女の声と姿がわかるけど、彼女には俺の声も姿も届かないと言うことだ。そんな、俺からの返事を聞くことができない状態であるにもかかわらず、明るく振る舞って、毎日声を届けてくれる彼女がいじらしくて仕方ない。





 今日も今日とて、ちびラーからパスを繋げて来た。椅子に座って目を閉じ、ちびラーと視覚、聴覚を共有すると、目の前にセリアが現れる。


「ねえ、ラーケイオス様、ラキウスは聞いてくれてる?」


 セリアの問いにちびラーが頷いたのだろう。一瞬視界が下にブレた。

 一方、ちびラーのその反応に、セリアは嬉しそうに笑うと、真っすぐ目を覗き込んでくる。


「ラキウス、聞いて。今日ようやくクリスタルに着いたの。クリスタルはとても綺麗な街よ。アレクシアよりは小さいけど、海に面していて活気に満ちて。まだ街中を歩いてはいないけど、市中視察も予定に組み込まれているから楽しみだわ」


 そう言えば、昨日までは背景が天幕だったけど、今日は宿の部屋なのだろう。道中何事も無く、目的地について何よりである。セリアも今は上りとなっているのか、部屋着でくつろいだ様子だった。


「さっきまで歓迎式典が開かれてたの。今はお開きになって、テオドラ様はテオドール陛下ご夫妻と3人だけでお話し中よ。テオドラ様もすぐにお祖父様の陛下に懐かれて、さすがご親族ね」


 そうやって他愛のないおしゃべりを聞かせてくれたが、今日はいつもと少し違った。視界の端から別の女性がひょっこりと顔をのぞかせたのである。ええと、この女性は確か、近衛騎士団に置かれた女性だけの隊、朱雀隊の隊長でドミニクとか言ってたっけ?


「ねえ、セーシェリア、このちびドラゴン、いったい何?」

「ら、ラーケイオス様です」

「ええー、竜王様ってこんな小さかったの?」

「違います! これは分体ですから。本体のラーケイオス様は小山のような大きな竜でいらっしゃいます」


 セリアが必死になって説明している。まあ、猫くらいのちびラー見て、ラーケイオスと分かる方が珍しいよね。


「じゃ、ラーケイオス様と毎日おしゃべりしてるの?」

「……ええと、ラーケイオス様に話をすれば、竜の騎士様に話が通じるので」

「ああ、竜の騎士って、あの、あんたの彼氏?」


 セリアが赤くなってる。可愛い。そこに今度は反対側からまた二人、別の女性が顔を出した。この人達の名前は───知らない。多分、朱雀隊の同僚だろう。


「セーシェリア、毎日彼氏とお話ししてたんだ。やるじゃん」

「でもどうやって話が通じるの?」

「それは、ラーケイオス様と竜の騎士は視覚や聴覚を共有できるので、今、彼はこの場での会話を見たり聞いたりできてます」

「え、セーシェリアの彼氏、今、こっち見てるの?」


 あ、やばい、これは覗き魔だなんだと騒がれる流れか。


「ふふーん、そうなんだ」


 ニヤッと笑って、首から上しか見えてなかったドミニクが正面に回る。───て、何で下着姿?

 セリアも慌ててる。


「ドミニク隊長、そんな恰好で前に出たらダメです。彼から見えてるんですよ!」

「ウェーイw 竜の騎士様見てるー? 今から君の大切な彼女さんを……」


 え、え、何をするつもり?


「……くすぐっちゃいます!」


 そう言うと、ドミニクはセリアに飛びかかった。あ、今気づいたけど、セリアの座ってたとこ、ベッドの上だったんだ。


「ちょ、隊長ダメです! アハハハハハ! やめ、やめて、アハハハ!」


 ───俺は何を見せられているのだろう。目の前で繰り広げられるキャットファイトはさらにカオスになっていた。他の二人も参戦してきたのだ。しかも二人とも下着姿である。お前ら、同盟国とは言え、他国の宿でくつろぎすぎだろ!


「セーシェリア、そんな服脱いじゃって、彼氏にかわいい下着見せて上げなよ!」

「そーそー、パーッといっちゃえ、パーッと!」

「ルビーネさんも、サンドラさんも酔っぱらってるでしょう! ダメに決まってるじゃないですか!」

「真面目か!」

「そんな真面目な子はくすぐっちゃうぞ!」

「や、やめ、アハハハハハハ!」


 ───これ、見続けてていいのかな?


「さあさあ、脱いで脱いで! 彼に見せてあげようよ!」

「ダメーっ!! 二人っきりの時に見せるんだからあっ!!」


 えっ? 二人っきりなら見せてくれるの? 思わずゴクリとつばを飲み込む。続きは───。


「もうー! ラキウスも見てちゃダメー! パス切って!!」

 ブチッ。


 あ、パス切れた。ラーケイオスが気を利かせてパスを切ったんだな。残念だけど、これ以上見てると、後でセリアにこっぴどく怒られそうだからいいや。帰ってから二人きりでいろいろしよう。


 ───そう思ってたら、10分後くらいに、音声だけパスが繋がってきた。


「しばらく連絡しないから!」


 ものすごく不機嫌そうなセリアの声に、心の中で血の涙を流す。いや、俺、ただ見せられてただけなんですけど───。


次回は第3章第27話「クリスティア王国の罠」。お楽しみに。

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