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第24話 私を殺して

「お、おい、あの女、魔族だぞ!」

「リュステールって、確か序列第5位の……」


 隊列に恐慌が走りつつあった。逃げ出すような者がいないところは、さすが訓練を受けた騎士団と言うべきだろう。だが、圧倒的な力の差を感じさせるたたずまいに、全ての者が恐怖を感じずにはいられないようだった。そんな中、俺はただ一人、隊列の前に出る。


「リュステール、お前の目的は何だ? 何故、俺がお前と戦わなくてはならない?」

「魔族が竜の騎士と戦うのに理由が必要ですか?」


 お互いに睨み合う。ダメだ、極力刺激せず、話し合いを模索という方針だったはずなのに。だが、諦めるな。そもそもラーケイオスもリアーナもエヴァもいないこの状況で勝ち目は無い。ラーケイオスの魔力だけはパスを通じて借りることができるが、それで勝てるとも思えない。


「リュステール、話し合おう。俺には君が戦うだけの凶悪な魔族には思えない。きっと話し合えばわかるはずだ!」

「問答無用! 戦う気が無いと言うなら、その気にさせるまでです!」


 リュステールは突如、両手を天に掲げ、魔法を唱えた。


流星召喚(メテオ)!」


 おい、いきなり最上級攻撃魔法を唱えやがった!

 次の瞬間、はるか上空に魔法陣が浮き上がり、直径数十メートルはあろうかと言う隕石が召喚される。あんなものが地上に激突したら、この辺り一帯、塵しか残らないだろう。時間が無い!


『ラーケイオス、借りるぞ、フルパワー!』


 瞬刻、龍神剣(アルテ・ドラギス)から迸る強烈な光。周囲が黄金一色に染め直されたかと錯覚せんばかりに。


「吹き飛べ!」


 一閃!

 龍神剣(アルテ・ドラギス)を隕石めがけ一気に降り抜く。その光の刃が巨大な隕石を飲み込んだ、その刹那、轟音と閃光が一帯を包み込んだ。鼓膜どころか身体を叩きつける衝撃波の中、隕石が消滅していく。


 一旦は流星召喚(メテオ)を凌いだが、これで終わりでは無い。次にあれを喰らったら、対処できるかどうか。考える暇など無く、俺は遮二無二リュステールに突貫した。例え、斬りかかっても、次元の狭間に逃げられるだけだろうが。


 だが、リュステールは逃げなかった。代わりに唱えたのは魔法。


神霊大盾(ディビナススクータム)!」


 それは光属性魔法最上位の障壁魔法。今再び、魔族が大聖女の魔法を振るったのだ。

 ガキイイイインッ!!と、龍神剣(アルテ・ドラギス)と障壁が咬合し、火花を散らす。フルパワーは込めていないとは言うものの、ちょっとした城壁程度であれば溶けたバターのように切り刻むことも可能な龍神剣(アルテ・ドラギス)が全く喰いこめない。単純な力押しではやはり勝てないか。いったん後退すると、次の魔法を放つ。


黒闇槍(ダルク・ハスタ)!」


 漆黒の槍を一度に数百本生み出し、それらを四方八方に飛ばす。障壁を回りこんで狙うと同時に、リュステールが次元の狭間に逃げたとしても、現れた瞬間、対処できるように。だが、そんなのは児戯に等しかったようだ。飛ばした漆黒の槍は空間ごと遮断され、かき消された。次の瞬間、リュステールが闇魔法を放つ。


極黒炎波(ゲヘナインフェルナス)!」


 辺り一帯を焼き尽くしかねない程の炎の魔法。その魔力の奔流を、俺は龍神剣(アルテ・ドラギス)で喰いまくる! そして、お返しとばかりにリュステールに放った。


 そこから先は、壮絶な魔力の打ち合いになった。流れ弾で近くの丘が吹き飛び、谷はさらに深く抉られた。視界の端で、リュステールが居座っていた橋が崩壊していくのが見えるが、気にしてなどいられない。


「何故だ! 何で君と戦わなくちゃならない? 君はアデリア様じゃ無いのか⁉」

「違う! 私は、アデリアなんかじゃ無い! 私は……リュステールだ!」


 ああ、そうかよ! だけど、それなら何故、お前の顔はそんな泣きそうに歪んでるんだよ!

 俺は龍神剣(アルテ・ドラギス)を構えて突貫した。何の変哲もひねりも無い無茶な突撃。逃げられると思った。だが、龍神剣(アルテ・ドラギス)はリュステールの胸を貫いた!……かに見えた。


 傍から見れば、リュステールを貫いたとしか見えないだろう。しかし、そこに何の手ごたえも無い。刺し貫かれたところだけ、空間を歪め、ただ虚空に剣を突き立てさせているのだ。


 リュステールの顔を見る。そこにあったのは揺れる瞳。悲しみも寂しさも諦観も、全てが込められているかのような。


「もっと強くなって。強くなって……お願い、私を……殺して」


 その言葉を残すと、リュステールは何処へともなくかき消えた。残された俺は呆然とせずにはいられなかった。殺してくれって、やはり彼女はアデリア様なんじゃ無いか。俺の疑念は確信に変わりつつあった。


 彼女を助けたい。殺すのでは無く。そんな甘いことが可能なのかわからないけど、魔族の身体に囚われた状態から何とか解放できないだろうか。





 そんな思いを抱きながら、みんなの元に戻った俺をセリアが出迎えてくれた。セリアはいつもと変わらない笑顔を向けてくれるけど、他の面々は皆、一歩引いている。レムルスなんか、蒼白な顔して、「化け物……」とか言っている。まあ、それも仕方ないかもしれない。俺は改めて周囲の状況を見回した。一行に被害が無かったのが不思議なくらいだ。周りはクレーターだらけで、橋も落ちている。───ん? 橋が落ちて───?


 そこにテオドラが言いづらそうに声をかけてきた。


「ラキウス様、橋が落ちてしまったせいで、クリスティア王国に行けません……」


 ゲッ! まずい、まずい。確かこの道とは別ルートを通ろうと思ったら、大きく迂回して相当時間を食う羽目になるよな。


 それから一週間、近くの村から土木作業ができる人夫や資材を引っ張ってきて、突貫工事で橋の再建がなされた。俺は空を飛べると言うことで、谷の対岸に足場を渡したりなんなりで便利使いされることとなってしまった。まあ、セリアと一緒にいれる時間が一週間伸びたから、それも良かったと思うことにしたけどね。


次回は第3章第25話「リュステールの真実」。お楽しみに。

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